「うちの会社、家を買うと転勤させられるんだよ」
「うちもそう!」
「えーっ、私の会社もそうです。なんで会社って、家を買ったばかりの人を狙って転勤させるんですかね?」
「会社の命令は絶対だ。辞令一本で、どこへでも飛ばせることを忘れるな!ってことを教えるための『見せしめ』だろ」
20年くらい前のことですが飲み会の席で、そんな会話がありました。
当時、私は人事部に所属していて
「人事って、ホントにそんなこと考えてるの?」
と、転勤を命じられた直後の友人に質問されました。
「いやいや、そんなことないって。家を買ったばかりの人を狙って転勤させることなんてないから」
真面目にそう答えました。
K社の育休後の転勤命令が話題になり、「家を買うと転勤」の話を思い出しました。
全国転勤のある会社では、家を買うと転勤させられるという話はよくあります。その理由として「住宅ローンを組むと会社を辞められなくなるので、転勤を拒否できない人を狙って、会社が異動命令を出している」と言われることがあります。しかし、私は違うと思います。「家を買うと転勤するケースが多い」と感じる理由は、インパクトが大きくて印象に残りやすいからです。
「うぉー、家を買う契約して、まだ住んでもいないのに、転勤命令でた~」
「○○さん、マイホームを買って引っ越したばっかりなのに、今度、転勤ですって」
など、家を買ってすぐに転勤命令が出ると、いろいろなところで話題になります。
逆に「家を買って3か月になるけど、転勤の辞令でなかったー」と吹聴する人はいません。
「6年間は住んたけど、結局は家を買うと転勤させられるんだ」と周囲に話す人もいません。
家を買った直後に転勤命令が出た人の話はすぐに伝播するので、頻繁に起こっている現象のように感じます。
転勤に関する資料をWebサイトで探してみると、独立行政法人の労働政策研究・研修機構が広範囲に及ぶ調査を行っていました。その名も「企業の転勤の実態に関する調査」(2017年10月に公表)
従業員が300人以上の企業に対する調査で、全国の1800社から回答を得ていました。
その資料の中に「(社員が)転勤に関する配慮を申し出る制度・機会があるか」という質問があり、「ある」と答えた企業が84%もありました。
「転勤において家族的事情等を考慮した内容(複数回答)」に関しては、「親等の介護」57%、「本人の病気」42%、「出産・育児」28%、「結婚」24%、「子の就学・受験」22%、「配偶者の勤務」20%と続き、「持家の購入」は9%でした。
転勤に関して、持家の購入に配慮してくれる会社が9%もあるのですね。(もちろん「持家を購入したばかりの人を狙って転勤させるか」などという質問項目はありませんでした。)
さて、110ページにも及ぶ調査データには興味深い内容もあります。転勤経験の満足度を社員に質問した項目では、78%の人が満足と回答していました。(もしかすると、会社は優等生だけを選んで、アンケート用紙を配ったのでしょうか?)
「できれば転勤したくない」の項目では、そう思う人が40%、そう思わない人が31%(「どちらともいえない」が29%)です。転勤したくないと思っている人が多いのに、78%の人が転勤後に満足しています。
また、会社が考える「転勤の目的(複数回答)」では「社員の人材育成」が66%で第一位です。
(他に、「組織運営上の人事ローテーションの結果」53%、「事業拡大・新規拠点立ち上げに伴う欠員補充」43%など)
社員の満足度が高く、人材育成にもなるのであれば、転勤もデメリットばかりではなさそうです。
会社は転勤の目的を丁寧に説明し、社員は「なぜ自分なのか」をしっかりと確認することで、転勤命令による摩擦やストレスを軽減できるのではないでしょうか。