2019年8月31日土曜日

「球数制限」と「残業制限」は似ている? 『ISO通信』 2019年8月号 vol.38

「好きなときに働きたいのですが、こちらの会社はどうですか」
転職相談のときに質問され、
「その点は心配ありません」
と答えました。
質問した人(以下、Aさん)の意図は「土日や夜の時間に働くことが制限されていませんか?」ということで、常に自由な時間に働きたいと主張しているわけではありません。

コンプライアンスやセキュリティ管理の面から、土日や夜間に仕事ができないルールや仕組みを徹底している会社も増えています。
Aさんは管理職手前の男性で、成長意欲に関しては野心的かつ貪欲なタイプです。土日や夜間に仕事をする際に「毎回、上司に承認してもらう必要のある会社ではストレスがたまりそう」と考え、自分の裁量で働く時間をコントロールできる職場を理想としています。
Aさんは、自分がワーカホリックになりやすいタイプであることを自認していますが、健康や周囲との協調性には注意しいているそうです。

「私のような人間を放置しておくと勝手に働いてしまうので、強制的に仕事から離れる仕組みをつくらなきゃダメだと考える人もいるでしょうね。でも、定時で帰って家でのんびりしていたら、成長できないと思います」
Aさんの発言を聞いて、高校野球の球数制限のことを思い出しました。
プロ野球の世界では、ピッチャーの肩や肘を守るために投げ過ぎを防止することは当然で、先発投手は6日~7日に一度の間隔で登板することが一般的です。
しかし、トーナメント戦を戦う高校野球では、大会期間中、毎日のように投げるピッチャーもいて、そのために故障することもあると考えられています。
これを防ぐために、一つの試合で投げられる球数を制限すべき、という議論があり、近年は賛成派が増えているようです。

甲子園に出場するようなチームの監督が、“二番手の投手を使って負けるわけにはいかない”と考える気持ちはよく分かります。また、高校生の投手なら“仲間と一緒に甲子園に行きたい”“もっと、うまくなりたい”と考えて、毎日でも投げたいと思うかもしれません。
逆に、体に異変を感じる前の高校生が「けがのリスクがあるので、今日は投げません」と主張することは難しいでしょう。高校生の体を守るには、球数制限などの規制は必要だと思います。

サラリーマンの世界でも、社員の健康を守るために、働き過ぎを防止することは当然と考えられるようになり「うちでは、定時退社が当たり前です」と聞いても驚かなくなりました。

しかしまだ、上司が帰らないと部下も帰れない雰囲気の会社も多く、納期を守るために残業せざるを得ない職場もたくさんあります。総合的に考えると、働く時間の総量を規制する法律は必要だと思いますが、残業させない仕組みを徹底し過ぎると、Aさんのようなタイプからは敬遠されます。

高校生投手の肩を守るために監督が注意する必要があるように、社員の過労を防止するために管理者は注意を払う必要があります。しかし、いつまでも管理者に注意してもらう立場に甘んじていると、面白い仕事にはありつけません。
年功序列で管理職になれたらラッキーと考える人もいますが、自己裁量で時間や仕事量をコントロールできる立場に早くなった方が、仕事も生活も充実すると思います。