「ジョナさ~ん、アイ ラブ ユー」 ジェーンは歌うように言いました。本当は「Jonathan I love you.」 と言っていたのですが私には「ジョナさ~ん」 と聞こえることがありました。ジョナサンには姉のキャサリンがいて、二人の母親であるジェーンは「キャサリーン、 アイ ラブ ユー」なんてことも、ひんぱんに言っていました。 ジェーンの家にホームステイしていた私は ”ガイジンちゅうのは、なんでこう毎日毎日、アイラブユーとか言えるんだろう”と不思議に思いました。しかし、10代後半のキャサリンもジョナサンも素直に育っているので、愛情を言葉で伝えるのは大切なことかもしれない、とも感じていました。
オーストラリアのキャンベラでホームステイしていたのは30年も前のことです。しかし、ジェーンの「アイラブユー」は結構なインパクトあがり、自分が親になってからも忘れていませんでした。そして私は二人の息子たちに向かって、毎日のように「アイ ラブ ユー」と言い続けました。というのは、さすがに冗談です。しかし、子供を叱った後には「君たちのことが好きだからこそ、怒ったり、注意したりするんだよ」と付け加えていました。
高校生と中学生になった二人の息子たちは、キャサリンやジョナサンのように素直に育つはずだったのですが、しっかりと反抗期に入ってしまいました。あるとき次男を叱り「好きだからこそ、怒るんだぞ」と言うと「キモっ!それが嫌なんだ」と言い返されました。 いつもなら「親に向かって、キモいとはなんだ!」とさらに怒るのですが、考えてみると自分が中学生の時に「お前のことが好きだから叱ったんだぞ」なんて親から言われたら「気持ち悪い!」と言い返したと思います。 頭では息子の気持ちもわかるのですが、理不尽に反抗的な態度をとられるとこちらも腹が立ち、感情的になってしまうこともあります。子供が小さいうちは、文字通りの腕力で押さえつけることがありました。しかし、それが何の役にも立たないことをすぐに悟りました。腕力で制圧されても、納得しない限り、行動を改めようとはしません。次は親にバレないようにやろうと狡猾になるだけです。 納得してもらうためには話し合いしかありません。しかし「ちゃんと話し合おう」と呼び掛けているのに無視されると、またまた腹が立ちます。最近は、腕力が拮抗しつつあるので「お小遣いをあげないぞ」的な言葉を口走りそうになりますが、これも腕力による制圧と同じなので、止めています。 結局のところ、無視されても粘り強く呼びかけて、納得するまで話し合うしかありません。 そして、話し合って納得したルールに関しては、子供たちも守ろうと努力するようです。しかし遊びたい気持ちが勝って、やっぱり逸脱してしまう。 そんなことの繰り返しです。 さて、職場での人間関係に置き換えてみたとき、上司は部下にどのように接するべきでしょう。反抗的になってしまった部下が心を開いてくれるまで待てる上司はどれほどいるでしょうか。 逆に、権力を振りかざして制圧しようとする上司に反発せず、話し合いを求めることができる部下は何割くらいいるでしょうか。 職場の場合、大人と大人の対立なので、表面的には両者が納得しているように取り繕うことは可能です。しかし、それでは生産性の高い職場にはなりません。 上司のみなさん、 ジェーンおばさんのように「アイ ラブ ユー」と部下に語りかけましょう。 部下のみなさん、 そんな上司がいたら「キモっ!」と言い返して下さい。 そんな喜劇みたいな職場はないと思うので、厳しい言葉の裏に愛情のかけらがあると感じたら、納得できるまで話し合うことを提案しましょう。