2020年12月26日土曜日

定年退職制度がなくなると… 『ISO通信』 2020年12月号 vol.54

定年退職制度を廃止した企業の人事マネージヤーと会話した際に質問してみました。
「定年がないと、どんなときに退職することになるのですか」
「パフォーマンスが下がったときです。70歳近くなった人に、そろそろ潮時じゃないですか、と退職を促すことはあります」
「すると50歳の人のパフォーマンスが、引退すべき70歳の人のパフォーマンスと同じである場合、退職を促すことになりますか」
「本来は、そうなります。年齢で差別しないので、同じパフォーマンスなのに70歳の人には引退を勧告し、50歳の人に何も言わないわけにはいきません。解雇ではありませんが、パフォーマンスが上がらない人には年齢と関係なく退職を勧告することになるでしょう」
実際の会話はもう少し穏やかな言い回しでしたが、ちょっとデフォルメして書きました。

定年退職の年齢を70歳に引き上げた会社も定年退職制を廃止した会社も、人事制度としては進んでいると評価されますが、中身は全然違いそうです。
定年はないが40歳や50歳でも退職勧告される可能性のある会社と70歳までの雇用が保証されている会社では、後者の方が居心地がよいと感じる人が多いでしょう。しかし、わが社にいれば70歳まで安泰と考える社員ばかりでは、10年後には会社がなくなっているかもしれません。

法律の面では、2021年4月1日から「改正高年齢者雇用安定法」が施行されます。現在の同法において企業には以下の義務があります。
・定年退職の年齢を60歳未満に設定してはいけない。
・定年退職の年齢を65歳未満に設定している場合は、次のいずれかの措置を講じなければならない。
「65歳まで定年年齢を引き上げる」
「65歳までの継続雇用制度を導入する」
「定年退職制度を廃止する」

このため多くの企業は「65歳までの継続雇用制度」を導入し、実態としては定年から65歳までの期間を契約社員として雇用することが多いようです。

そして来年の4月からは70歳までの「就業確保」が努力義務となります。当面は努力義務ですが、やがて年金の支給年齢が引き上げられ、努力義務が義務に変わるでしょう。

厚労省の資料には、今回の法律改正で、65歳までは「雇用確保」の義務があり、70歳までは「就業確保」の努力義務があると明記されています。
「就業確保」の方法には、社員と労働契約を結ぶ「雇用確保」の他に、社員に個人事業主になってもらい、仕事を(業務委託などの形で)発注することで、就業の機会を確保する方法もあります。

60歳を過ぎて個人事業主として働き始める人の話を聞くことがあります。工場の技術指導や中小企業の海外進出支援などのコンサルティングをする人が多いのですが、想定していた受注を確保できるのは、現役時代にスキルを高めていた人に限定されるようです。

サラリーマンであっても、独立した経営者のような気持ちになり、社内の仕事を自らの意思で受注するつもりで働くべし、といった趣旨の言葉を聞いたこともあると思いますが、これからは副業で他社の仕事を受注する人も増えるでしょう。
たくさんある選択肢の中から、本業の会社の仕事を優先的に受注してあげようか、くらいの状態にしておけば、いつまでも「楽しい現役」でいられそうです。