2021年10月30日土曜日

二泊三日の面接ツアーに年休は必要? 『ISO通信』第64号(2021.10.30)

 今回のストーリーは、実際にあった二つの事例を一つにまとめているので、下記の内容は事実に即していますが、脚色もあります。主に最初の事例をストーリーのベースにしていますが、最近二つ目の事例があったので、題材として取り上げました。

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大阪に住んでいるAさんが、採用面接を受けるために東京にやってきました。
勤務先での仕事が忙しく、当初は「年休を取る余裕がまったくないので、できるだけオンラインで面接してもらえると助かります」と言っていました。
オンラインでの一次面接に合格したAさんに対して、求人企業(Y社)の人事マネージャーは「二次面接が一番重要なので、なんとか本社に来てもらえないでしょうか」と依頼しました。
そしてAさんは「分かりました。テレワークとフレックスの合わせ技でなんとかします」と答えました。

Aさんは以下の方法を考え、実行しました。

・Y社の近くのビジネスホテルを予約(木曜日と金曜日の二泊)。
・木曜日の朝から16:00まで自宅でテレワーク。それから東京に移動。
・移動の新幹線の中でテレワーク。ホテルにチェックインしてテレワーク。
・金曜日の朝から16:00までホテル内でテレワーク。
・金曜日の17:00からY社で面接を受ける。
・面接終了後、ホテルに戻って、またテレワーク。
・土曜日に大阪の自宅に帰る。

Aさんが勤務している会社のフレックス制度ではコアタイムは10:00~16:00に設定されているので、就業規則上の問題なく面接に対応してもらうことができました。

面接の翌日、Aさんと会話した際に以下のような発言がありました。
「朝も夜もテレワークで働いたので、同僚は私が東京にいるとは思っていないでしょう。今日はちょっと観光してから帰ります。ワーケーションって、こんな感じなのですかね」

もしもAさんの会社の人事部長がこの事実を知ったら「せっかく整えたテレワーク制度やフレックス制度を、他社の面接を受けるために利用されたのではたまらない」と思うでしょう。そして、端末の位置情報を利用して社員を監視しようと考えるかもしれません。しかし、人事部長が「勤務時間中は位置情報アプリをオンにすることをルールにします」と通達したら、転職したくなる社員はさらに増えてしまいます。

人事部から見れば、Aさんの事例はテレワーク制度の目的外利用ということになりますが、Aさんの立場からすると有効活用です。

そもそも、テレワークと転職活動の相性はよく、在宅勤務の時間中に、他社のWEB面接を受ける人は珍しくありません。そしてWEB面接だけで合否を決定する会社も増えてきました。
社員を監視して他社の面接を受けさせないようにするよりも「今の仕事に夢中なので、転職は考えていない」という社員を多くすることの方が人事部にとって重要な仕事になりそうです。