2021年11月27日土曜日

新卒一括採用が終身雇用の起点ではなくなってきた 『ISO通信』第65号

 



「ほとんどの社員が中途入社だったわが社も、ついに本格的な新卒採用を開始しました。一番の感想は、新卒を採って育てるのは、楽しい!ということです。もちろんコストはかかります。しかし『これがわが社の経営理念だ』、『ビジョンだ』、『理想社会の実現に向けて一緒に頑張ろう!』と言っていると起業した頃のことを思い出します」

これは、あるシステムインテグレーション企業の社長の言葉です。その社長は

「もっと早く新卒採用をしたかったのですが、知名度もなく、赤字が続いていた頃は無理でした」

とも言っていました。

この話はオンラインセミナーで聞いたのですが、質疑応答の時間があったので

「中途採用の場合でも、経営理念やビジョンを訴えることは重要だと思いますが、社会人には響きませんか」

と質問してみました。

「響く人もいます。そして響く人に来て欲しい。しかしその前に、中途採用の場合はスキルを見ています。例えば経理課長を採用したいとき、理念やビジョンに共感してもらっても、経理のスキルがイマイチだと採用はできません。スキルがあっても理念を共有できない人は採用しませんが、まずはスキルが先。大学生には、夢を語るところから入るので、そこは違いますね」

なるほど、久しく忘れていた感覚を思いだしました。私も大学生に対するリクルーティング活動をしていた時期があります。法学部や商学部の学生と会ったときに、法務や経理に対する適性がありそうか否かを気にしたことはありませんでした。その頃の私は営業部門に所属していて、人事部の先輩からは「一緒に働きたいと思えるかどうかを判断基準にすればいい」と言われていました。一緒に働きたいと感じる学生に出会うと自社のいい面を一生懸命にアピールします。一日に何人もの学生と面談して日が暮れると「あれっ?うちの会社って、そんなにすばらしい会社だったっけ」と同期入社の友人と会話しながら笑いました。

さて、経団連会長の定例記者会見(1122日)のコメント要旨として、以下の言葉が掲載されていました。

「新卒一括採用や長期・終身雇用などを特徴とするメンバーシップ型雇用は、定めた方向に社内一丸となって目標達成を追求する時には非常に有効である。経済が一層グローバル化し、社会が変容している時代には、多様性や円滑な労働移動を可能にする雇用システムへの見直しが必要である。そうとは言え、ジョブ型雇用への完全転換が必要等と早計に結論づけるようなことは、それこそ多様性を認めない考え方である。メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用を適切に組み合わせる自社型雇用システムを検討していくことがよいと思う」

新卒一括採用は終身雇用の起点となっていて、メンバーシップ型雇用の特徴の一つでもありました。しかし、前述のシステムインテグレーション企業の社長は「新卒者が育ってくれたら、できれば定年まで働いて欲しいが、巣立っていくことも認めざるを得ない」と言っていました。

また、1112日の日経産業新聞には「DeNAの南場会長は、粒ぞろいの宝石のような社員たちに起業を促し、長期的な関係を維持することが、DeNAの事業の幅を拡げると考えている」とありました。(「『社員よ起業せよ』DeNA南場氏のザクロ経営」より)

新卒一括採用と終身雇用は一体ではなくなりつつあり、これからは自分の会社を卒業した社員との関係を構築する「自社型の事業環境エコシステム」を作る必要もありあそうです。