2022年12月30日金曜日

PK戦も社内プロジェクトも、立候補した人に任せてみる? 『ISO通信』第78号

 

サッカーに関しては、ワールドカップのときだけ盛り上がる「にわかファン」なのですが、今年の日本代表チームは過去に例のないくらい「一体感」があるように見えました。ゴールが決まった瞬間は控えの選手まで喜びを爆発させていて、全員が一つの目標に向かっていると思えたのです。過去の代表チームが得点した場面を忘れているので、客観的に比較できるわけではありません。しかし、PKを蹴る選手を立候補で決めていたことについて色々と考えているうちに、やはりこのチームは一つにまとまっていたのだと思えました。

日本はPK戦の末クロアチアに破れ、ベスト8に残ることができませんでした。PKを蹴る選手を立候補で決めていたことを知ったとき、最初は疑問に思いました。PKを蹴る選手は監督が決めるべきだと思ったからです。プレッシャーのかかる場面で、どの選手をどの順番で使えば勝てる確率が高いのか、それを決断するのも監督の仕事です。代表チームの森保監督は立候補した人に蹴らせることが、最高のパフォーマンスにつながると考えたのでしょう。
しかし、それでいいのでしょうか。一番下手な人が立候補したらどうするのだろう?それが最初の疑問でした。日本を代表する選手たちなので、スキルにほとんど差はないのだろうと思ったき、二つ目の疑問が浮かびました。
チームメイトから嫌われている人が立候補したらどうするのだろう?と思ったのです。
「ちょっと待て!お前が蹴るくらいなら、俺が蹴る」
そんなことを言い出す選手が現れたりしないのでしょうか。おそらく、その心配がなかったのだと思います。立候補するだけの自信がある選手や、勇気を出して「蹴る」と言える選手にPKを任せることができた。それをチームの全員が納得できたのでしょう。

ビジネスのシーンでも何らかのプロジェクトを始めるときに、立候補でメンバーを募るケースがあります。しかし、いつも同じような人が立候補している状態になっていないでしょうか。そして周囲の人が「またあの人が目立とうとしている」とか「立候補の形はとっているけど、どうせ上司が根回ししているのだろう」と思っているなら、チームに一体感があるとは言えません。

立候補した人に命運を託すような気持ちになれるチームを、森保監督がどのようにして作ったのかが気になり、インタビュー記事をサイト上で探してみました。
・個々の選手に自分の良いところを出してもらう。
・強い上下関係ではなく、フラットな組織づくりを目指す。
・個人の自主性と規律の両方を大切にする。
・全員で切磋琢磨し、個々の力をレベルアップさせる。
ニュース記事を拾い読みした印象としては「ボス型のリーダーシップ」よりも「サーバント型のリーダーシップ」に近いと感じました。マネジメントのスタイルやリーダーシップのあり方に唯一の正解はありません。しかし、立候補した人が称えられ、応援されている状態なら「その組織を離れたくない」「自分も入りたい」と思う人が増えていくでしょう。

2022年11月25日金曜日

パワハラと指導の境界線 『ISO通信』第77号


「私の部下だった人物は、後年、パワハラを否定しました。しかし、会社はパワハラ認定を取り消そうとしないので、転職を考えるようになりました」

40代後半の男性から、3年ほど前に聞いた言葉です。以下では、その男性をAさんとし、かつてAさんの部下だった20代の男性をBさんとしています。

Aさんの主張による事実関係は以下となります。
・Aさんのグループに新卒2年目のBさんが異動してきた。
・Aさんのグループには他にも複数の若手社員がいた。
・部下に対する指導に関しては、必要に応じて厳しい態度をとることもある。
・それは部下が成長することを願っているからであり、いやがらせをしているつもりは一切ない。
・指導の方法に関しては、Bさんに対しても他の若手に対しても差をつけることはない。

・ある日、Bさんのお母さんが、会社の総務部に対して、私(Aさん)がBさんにパワハラしていると訴えてきた。
・Bさんのお母さんとBさんが、総務部に対してどのような説明をしたのか、詳しい話を総務部から聞いていない。
・総務部は私の説明をあまり聞いてくれなかった。
・そして、私の指導はパワハラに該当すると認定され、私は他部署に異動することになった。

・それから2年が経ち、Bさんからメールで連絡がきた。
「Aさんに指導してもらったからこそ、今の自分がある。Aさんの下にいたときは、つらいと感じていた。しかし、あれから2年が経ち、Aさんの指導方法が正しかったと今では思う。あの頃は気持ちがへこんでいたので、母親の行動を止める元気がなかった。今考えれば、パワハラというほどのものではなかった」
・Bさんは総務部に対しても同じことを言ってくれた。しかし、総務部はパワハラ認定を取り消すつもりはなかった。
・過去のパワハラ認定が誤りだったことを認めると、自分たちの評価が下がることを恐れているのだろう。
・異動先の部署で頑張り、指導方法も変えなかったのは、自分が正しいと信じていたからであり、いつか会社もそれを分かってくれると思っていた。
・しかし、Bさんがパワハラでなかったと言ってくれたのに、それを認めない会社に愛想がつきたので、転職することを決意した。
こうしてAさんは3年ほど前に転職しました。
立場上、Bさんの主張を聞くことはできないので、上記はAさんから見た事実となります。また、Aさん個人の特定を避けるため、これまでの内容には少し脚色があります。

現在のAさんは部長の立場であり、社長から厳しい指導を受けることもあるそうです。
「うちの社長は、厳しく指導する人と優しく指導する人を意識的に分けていると思います。厳しくされているグループの方が期待されていると思ってしまう私はマゾ体質ですかね」
と言って笑っていました。
Aさん自身は、部下を厳しく指導することをやめたそうです。
「パワハラに過剰反応する世の中になってしまいましたからね。しっかり教えてあげれば、もっと伸びる若者もいるのに、もったいないですよ。でも、これが今の日本の姿ですね」
Aさんはそんな風にも言いました。

私自身はパワハラに関しては断固反対の立場です。しかし、日本人はリスクをゼロ化する方向に過剰反応しやすいと思うこともあります。
「しっかり教えてあげれば、もっと伸びる若者」と「指導を受けなくても、自発的に学べる若者」の差が、大きく開いていく時代になりそうです。
指導がハラスメント化しないように注意しつつ、伸びしろのある人たち(若者もベテランも)を導いていくのがリーダーの役目であると思います。

2022年10月29日土曜日

会社が分割されたら痛みを感じますか? 『ISO通信』第76号

 


会社を廃業することを決意した男性から、転職についての相談を受けました。 
「ジリ貧になる前に撤退しました。黒字で借金のない今が会社を畳むときだと判断しました。しかし、世間は私を経営に失敗した人だと思うでしょう。転職活動で苦労することは覚悟しています」
とその男性(Aさん)は言いました。Aさんは電気工事を請け負う会社を経営していましたが、後継者がいないことや競争の激化で利益水準が下がっていることから、廃業を決意したそうです。
「創業して50年、父の跡を継いで20年。利益が出ていないわけじゃないのに、なぜ廃業なのかと散々に言われました」
私はAさんに
「何度も聞かれたと思いますが、M&Aで譲渡することは考えなかったのですか」
と質問しました。
「私にとって会社は自分そのものでした。半分に分割されたり、そっくり他人のものになってしまうことは耐えられませんでした。ほとんどの社員の行き先を世話することができたので、最低限の責任は果たしたと思います。M&Aの会社の人からは、譲渡先を探せば数億円で売れますよ、と言われましたが、自分で将来性がないと思っている会社を高く売る気にはなれませんでした」
この発言を聞いて、いろいろなことが頭に浮かびました。
・非常に潔い人だ。
・自分が社長なら、M&Aで高く売りたいと考えるだろう。
・実際には、経営状態が厳しくて売れる状態ではなかったのかもしれない。
などと考えましたが、真っ先に思ったことは会社を自分の体のように感じていることの凄みでした。
体を半分にされるくらいなら、廃業を選んでしまうというのは、経営者のエゴかもしれません。しかし、それくらいの覚悟がないと、会社を存続させることは難しかったのでしょう。

この話を聞いて、かつての上司から叱責されたときのことを思い出しました。
「お前はなぁ、社長の気持ちになって仕事したことなんてないだろ!俺はあるよ。俺は社長にはなれないけど、社長の気持ちにはなれるんだよ!」
当時の私は課長にもなっていなかったので、社長の気持ちなれと言われてもムリ、と内心で思いました。しかし後から考えて「社長にはなれないけど、社長の気持ちにはなれるんだよ」と言った部長の言葉をカッコいいと思いました。そして、自分が担当している顧客の前では、自分が会社を代表しているつもりで会話するようになりました。しかし、交渉が行き詰まると先方の課長から
「磯さんと話してもらちがあかないので、部長の〇〇さんと一緒に来て下さい」
と言われてしまいます。そんなとき
「部長が来ても、社長が来ても、私と同じことを言うはずです」
と言ってみたこともあるのですが、実際は部長が妥協点を示して交渉がまとまることがほとんどでした。

それでも、自分が会社を代表している気持ちで仕事に臨むことは大切です。それを習慣にしていれば、会社を自分の体のように大切にしている人からも信頼されるようになるでしょう。

2022年9月23日金曜日

踊るダイバーシティー 『ISO通信』第75号

 


手元に本がなかったので、久しぶりに書店に入りました。Amazonで本を探すときと違い、いろいろなジャンルの本が目に入ってきます。
そして購入したのが『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ著)でした。
2019年6月に刊行された本ですが、すでに文庫化されています。ご存じの方も多いと思いますが、著者は福岡県出身の女性でアイルランド人の男性と結婚し、英国で暮らしています。本のタイトルにある「ぼく」が著者の息子さんのことだと分かると「イエローでホワイトだと、ちょっとブルーになることもあるのだろうな」と想像することができます。そして「人種差別や多様性などについて書いてある本なのだろう」と思い、分かったようなつもりになって、買って読むまでの気持ちになりませんでした。しかし友人の勧めもあって読んでみると、新鮮でとても面白い本でした。
本の一文を引用させてもらうと「多様性は、うんざりするほど大変だし、めんどくさいけど、無知を減らすからいいことなんだと母ちゃんは思う」とあります。ダイバーシティー、移民、格差社会などの問題について詳しい人なら「やっぱり想像できそうな内容なので、一冊まるごと読むのは時間に余裕のあるときにしよう」と考えるかもしれませんが、そんな風に思った人にこそ、是非、読んで欲しい本です。

本を読みながら、半年ほど前のオンラインセミナーでの議論を思い出しました。セミナーのテーマは『労働力人口の減少』で移民の受け入れが解決策の一つとして提示されていました。セミナー後半のフリートークの様子を会話形式で記載してみます。

Aさん「日本社会はまだ、移民を受け入れられるほど寛容ではないので、私は反対です」
Bさん「私は移民の受け入れに賛成です。人手不足の問題を解決するには、外国人と共生できる社会を作っていくことも重要だと思います」
Aさん「近所に外国人がたくさん住んでいる団地がありますが、うるさいんですよ。住民の20%くらいが外国人で、休日になると団地の外からも仲間が集まってくる。昼間っから階段の踊り場で飲んだり、歌ったりしている。常識がないんですよ」
Bさん「近所迷惑にならない範囲でやってもらうように頼むしかないと思うのですよね。頼むという言葉で弱いなら、教育する でもいいかもしれません。日本社会のルールやマナーを覚えてもらうように、日本人も努力すべきじゃないですか」
Aさん「教育して効果のある連中ならいいですが、簡単じゃないんです。他の皆さんにも聞きたいのですが、自分の家のとなりに、家賃が安くて外国人もOKの公営団地が建ちそうになったらどうします?歓迎したい人は手を挙げてください」
オンラインセミナーの画面には20人以上の人が映っていましたが、挙手したのはBさんともう一人だけでした。
Aさん「外国人と共生できる社会をつくることは大切だと思います。でも、いざ自分の家の隣に来るとなったら、心の準備が出来ていない人が多いと思います」
時間が限られているため司会者が場を収めて次の話題に移りましたが、気持ちの中にモヤモヤが残りました。

前述の本を読んでこの件を思い出し、そして義父のことも思い出しました。義父は自治会長を務めていて「外国の人にも盆踊りに参加してもらいたいし、向こうの国の踊りを披露してもらう時間もつくりたい」と言っていました。コロナ禍で地域のお祭りは見送りが続いていますが、次のお祭りのときに外国の人がいたら、話しかけてみたいと思います。
仲良くなれば「うるさい」を「賑やか」と感じるかもしれません。

2022年8月28日日曜日

プロとって本番の日はいつ? 『ISO通信』第74号

 


プロ野球に興味のない方にも読んで頂けると嬉しいのですが、今回はプロ野球中継を観ながら感じたことをテーマにしてみました。

私は横浜DeNAベイスターズのファンです。前身の大洋ホエールズ時代からこのチームを40年くらい応援していますが、優勝したのは1998年の一度だけです。プロ野球のセントラルリーグには六つの球団しかないので、もっと頻繁に優勝してもいいはずですが、私が生まれた年(1969年)まで遡っても、優勝の記録がありません。そんな球団、唯一無二です。

強いチームと弱いチームの差について、プロ野球ファンの友達と議論したとき「弱いチームにいると負け癖がついて、試合の後に反省することもないから弱いのだろう」と言われたことがあります。そのときは「プロの選手なのだから、チームが負けても個人としての反省くらいするだろう」と反論したのですが、最近の試合を観て「反省の質」に違いがあったのかもしれないと考え直しました。

今年のベイスターズは、現在のところ2位であり、もしかすると優勝するかもしれません。テレビに映る選手の表情は真剣そのもので、こんな顔つきで毎日試合をしていたら、個人のレベルも上がるだろうと感じました。たとえ負けたとしても、投手が「なぜあの球を投げて打たれてしまったのだろう」と反省し、打者が「なぜ、あのとき空振りしたのだろう」と考えれば次の機会に活きてくるはずです。

翻って自分のことを考えると、最近は「毎日が本番」と思って仕事する習慣を忘れていました。スポーツには練習と本番の試合がありますが、本番の試合に優る鍛錬の場はないと考えています。もちろん練習の成果が試合に現れるのですが、真剣勝負の本番では練習では感じることのできない緊張感があり、その中で力を発揮できる人が、さらに高いレベルに到達できます。

私は、フライングディスクのアルティメットという競技に長く親しんでいて、週末に練習し、年に数度の大会に参加する生活を繰り返していました。40歳を過ぎてからは、練習や大会に出る機会も減り、試合でくたくたに疲れると「明日から仕事かぁ、休みたいな」と思うこともありました。大会の翌日に休暇を取ることもありますが、仕事の前日には「お金を払ってくれるお客さんは、仕事の延長線上にいるのだから、アルティメットは趣味で、明日からが本番だ」と気持ちを切り替えていました。

コロナ禍を言い訳にアルティメットから離れてしまったせいか「毎日が本番」と思う機会がなくなっていました。そしていつもと同じように毎日を過ごしていると、日々の反省の大切さも忘れてしまいます。
ベイスターズの選手のピリッとした表情を観て、本番を意識して仕事する気持ちを思い出しました。「自分が頑張ればベイスターズも優勝できる」という願を掛けて、24年ぶりの勝利の美酒に酔える日を待ちたいと思います。

2022年7月30日土曜日

65歳以上で働く人が1,000万人を超える時代へ!? 『ISO通信』第73号

2011年から2021年までの10年間で、65歳以上の就業者数が341万人も増えています。
総務省統計局が今年の2月に公開した「労働力調査」の資料を見る機会があり、シニア世代の就業者数が大きく伸びていることに驚きました。

労働力調査の中に「年齢階級別就業者数の推移」という表があり、2011年と2021年を比較すると以下の数字になります。 
                     2011→  2021
15歳~24歳:   481万人→   557万人 76万人 増)
25歳~34歳:  1,217万人→ 1,098万人 119万人 減)
35歳~44歳:  1,503万人→ 1,320万人 183万人 減)
45歳~54歳:  1,286万人→ 1,610万人 324万人 増)
55歳~64歳:  1,235万人→ 1,170万人 65万人 減)
65歳以上    571万人 →   912万人 341万人 増)
         6,293万人→6,667万人 374万人 増)
(出所:総務省統計局 「労働力調査(基本集計)2021年(令和3年)平均結果の要約 表1」)

上記の数字を見ると1524歳、4554歳、65歳以上の階層で就業者数が増えています。
「労働力調査(基本集計)」の参考資料に年齢階級別の総人口も記載されていました。

                      2011   → 2021
15
歳~24歳:  1,248万人→1,194万人 54万人  減)
25
歳~34歳:  1,544万人→1,277 万人(267万人 減)
35
歳~44歳:  1,893万人→1,545万人 348万人 減)
45
歳~54歳:  1,567万人→1,873万人 306万人 増)
55
歳~64歳:  1,898万人→1,520万人 378万人 減)
65
歳以上    2,967万人→3,635万人 668万人 増)
合計     11117万人→11044万人 73万人 減)
(出所:総務省統計局 「労働力調査(基本集計)2021年(令和3年) 参考表」

65歳以上の人口の増えっぷりがスゴイ!就業者数も増えるわけです。
45歳から54歳の層でも人口が増えていますが、これは団塊ジュニアの世代がその年齢になった影響であり、この年齢層も人口増が就業者数の増加につながっています。
しかし、15歳~24歳の層では総人口は減少しているのに就業者数は増加しています。考えられる理由として、外国人の増加がありそうです。

出入国在留管理庁の資料によると2010年に209万人だった在留外国人の数は、コロナによる影響が出る前の2019年では293万人に増えています。また、みずほ総研(現 みずほリサーチ&テクノロジーズ)が202099日に公開した『みずほインサイト』によると外国人の人口に関して“最も多い年齢階級は2024歳であり、また20歳から39歳までで全体の54%を占めている。(~中略~)外国人の増加は日本で進行する人口減少だけでなく少子高齢化による若年労働力の減少も緩和している。”とあります。
増加した就労者数76万人の内訳を示す資料を探すことはできませんでしたが、外国人の増加が大きく関係していそうです。 

高齢者就業に話題を戻しますが、今週は60歳前後のかたと面談する機会が多くありました。その年齢になって「新たな職場でもっと活躍したい」と考えている方々は、みなさん元気でチャレンジ精神も旺盛です。年齢が理由で役職を離れた人が多く、今の職場で力を持て余している様子を聞くと本当にもったいないと感じました。

ここで最初の数字をもう一度、見て下さい。65歳以上の就業者数が341万人も増えています。やがて65歳以上の就業者数が1,000万人を超える時代になりそうです。60歳は定年退職の年齢ではなく「まだまだ働ける即戦力の世代」と認識する企業も増えてきそうです。



2022年6月24日金曜日

ITで解決するか、気持ちで解決するか。 『ISO通信』第72号(2022.6.24)

 「指差し確認」の習慣に今でも助けられています。

新卒で入社した会社がメーカーだったので、指差し確認をしっかりと教えられました。指差し確認は「指差し呼称」や「指差し喚呼」とも言われ、見たものを指で差し、声に出して確認することでリスクを回避します。

駅のホームに入ってきた電車を駅員さんが指で差し「停止位置よし!」と言っている場面を見ることがありますが、停止場所のミスを防ぐための有効な手段だと思います。

私の場合、毎朝自宅を出る前に、財布、定期入れ、スマホなどの忘れ物をしないために指差し確認をしています。「財布よし!」「スマホよし!」とまでは言わないものの1、2、3、4と声に出しながら指で差し、忘れ物を防いでいます。
忘れ物をしがちな長男に「指差し確認すれば、忘れ物しなくなるぞ」と言ったら、意外な答えが返ってきました。
「指差し確認することを忘れたら意味がないじゃん。指差し確認したり、コツコツ努力することが苦手な人もいるからね。だから、忘れ物をしないようにITで解決したいんだよ。財布や定期券をスマホに入れようと考えた人は忘れ物の名人だったかもしれないよ」
プログラミングを覚えた長男は、不便なことがあるとITで解決しようと考えるようです。
長男の言葉を聞いたとき「何でもITで解決しようなんて安直だし、指差し確認で十分だ」と考える自分と「待てよ、不便なことがあったらテクノロジーで解決しようと思う人間が世の中を進歩させてきたのかもしれない」と思う二人の自分がいました。

私自身は、面倒くさいと感じたことを心の持ちようで解決しようとするタイプです。例えば、通勤。自宅でリモートワークできると楽ですがコロナ以前から通勤が苦ではありませんでした。電車の中は読書の時間、それ以外は歩行運動の時間と考えていたからです。在宅で仕事をしていると読書の時間と運動の時間をひねり出す努力が必要になります。通勤では読書と運動の時間を自動的に確保でき、街や季節の様子が目に入って来るので脳も刺激されます。そうは言っても、毎日通勤しているとリモートワークが恋しくなったりもします。

毎日オフィスに出たい人もいれば、全く行く必要を感じない人もいるでしょう。最適な出社率は人それぞれです。自分では60%の出社率が快適と感じた場合でも、もっとも生産性の高まる出社率は別な数字かもしれません。AIやITを活用して、本人が快適と感じる出社率と生産性が最高になる出社率をバランスよく計算してくれるアプリを開発してみたらどうでしょうか。「今週のあなたは3.5日の出社が最適です」とリコメンドされてその通りにしたら、周りの人は週に一度しか来ていなかった、ということがあったら、納得しがたい気持ちになりそうです。
勤怠管理にはITシステムが有効ですが、出社率は職場の雰囲気や労使交渉などのアナログな手法で決めた方がよさそうです。米国のアマゾンやアップルでも労働組合が結成されることになったそうですが、その背景に出社率をめぐる労使の攻防があったりして、と考えると最先端企業にも人間味を感じます。



2022年5月29日日曜日

仕事帰りに散髪してはいけないのですか? 『ISO通信』第71号(2022.5.29)


 「仕事が終わって帰宅する途中に散髪をしてはいけません」
もちろん、こんな規則のある会社はないでしょう。しかし私はかつて、上司から以下のように言われたことがあります。
新入社員か2年目の頃だったと思うので、今から30年ほど前のことです。ある日私は、帰宅の途中で散髪しました。翌日会社に行くと上司の上司である部長から「昨日、床屋にいったの?」と聞かれました。
「はい」
「あなたは、ずいぶんと暇なんだね」
「えっ?」
「昨日、あなたは残業をしたわけじゃない。友達と飲みに行ったわけでもない。どうしても見たいテレビ番組があって、急いで家に帰ったわけでもない。平日の夜に散髪できるくらい暇なんだな。もっと仕事を与えても大丈夫そうだ」

“そういうことか、これからは平日に散髪するのはやめよう”と心に決めました。当時私が所属していたグループは、それほど忙しくなかったのですが、隣のグループにいる人は全員が遅い時間まで残業していました。部長から見ると、とても忙しいグループと比較的余裕のあるグループの労働時間をバランスさせたかったのだと思います。

働き方改革が進み「帰宅の途中で散髪しない」マイルールも不要になりましたが、世の中には「自分の仕事が終わっていても、周囲の人が残業していると帰れない」といった暗黙のルールが残っている会社もあります。また、最近の転職相談で「サービス残業が多く、上司は長時間の残業をする部下を評価するタイプの人なので、それも転職したくなった理由の一つです」と聞きました。その人に「早く帰れるようになったら、何がしたいですか?」と質問すると「プログラミングの勉強をしたいです」と答えてくれました。

社会人になってからの学習意欲に関して、日本は他の国と比較してかなり低い状態のようです。パーソル総合研究所の「APAC就業実態・成長意識調査(2019年)」ではアジア・太平洋エリアの14の国や地域を対象として様々な調査をしています。その中に、勤務先以外での学習や自己啓発活動についての質問項目があり、「読書」「セミナーへの参加」「資格取得のための勉強」「大学・大学院・専門学校」「eラーニング」のすべての項目で、日本人の参加率や取り組み率が最低でした。(サイトのリンクを張れず申し訳ありませんが、ほとんどの項目がダントツのビリで、軽いショックを受けました。)

終身雇用が大前提の時代なら、社会人になっても勉強を続ける人が少数派になることは仕方がないと感じます。しかし終身雇用を守ると公言する企業は減り、社員は「成長の機会を得るため」や「ブラックな職場を去るため」などの理由で転職することが当たり前になってきました。職場を去ったけど採用してくれる会社がないようでは困るので、社会人にも学び直しや追加のスキル習得が必要な時代であることを意識しておきましょう。

2022年4月24日日曜日

効率至上主義になっていませんか? 『ISO通信』第70号(2022.4.24)

「やらない!磯君に頼まれたことは一切、やならい!」

今から25年くらい前のことですが、先輩の女性社員(Aさん)にピシャリと言われたことがあります。
当時私が在籍していた会社には総合職と一般職の採用区分がありました。総合職の社員は基幹的な業務を行い、一般職の社員は補助的な職務を遂行する役割でした。(現在は総合職、一般職の区分は廃止されています。)
Aさんは私よりも15歳くらい年上で、社内のいろいろなことを知っている先輩です。「磯君に頼まれたことは一切やらない」と言われる前に、私が発した言葉の詳細は忘れてしまいました。しかし、私の中に「総合職社員と一般職社員とでは、時間当たりの単価が違うのだから、これくらいの仕事はAさんにやってもらいたい」との思いがあり、その気持ちが態度に現れていたのだと思います。
そして、当時の上司から「お前はバカだねえ。普段から『磯ちゃんの仕事なら、手伝ってあげたくなる』と思わせるように接しておかなきゃ」と諭されました。
その一方で、別な先輩からは「総合職と一般職では、役割も時間単価も違うのだから、最も効率的な時間の使い方を考えなさい。何でもかんでも自分でやろうとするな」と教えられていました。
効率的に働きなさい。生産性を考えなさい。全体最適を忘れるな。
そんな風に教えられ、仕事に感情を持ち込まないことが正解だと思うようになっていたのです。
しかし「お前はバカだねえ」と言われ、人は、効率や生産性よりも感情で動くものだと気づきました。ちなみに「お前はバカだねえ」と言われたとき、ムカッと腹が立つのではなく、素直に助言を聞く気になれたのは、この上司の部下への接し方がいつも適切だったからだと思います。

先日、某社の社長を退任した人(Bさん)と会話して、自分の過去の失敗を思い出しました。
Bさんは、大手企業の役員を務めた後、グループ会社の社長に就任し、引退した現在は地域での活動に力を入れています。
「いつの頃からか、自分の1時間には10万円以上の価値があると思ってやってきました。昔は、マンツーマンで誰かと1時間を過ごしたら『この人との1時間は10万円以上の価値があった』『この人は私の時間の価値に気づいていない』なんて思っていたのですが、単価を気にしなくなったら、交友関係が広がりました」
とBさんは笑っていました。
「自分の1時間には10万円の価値がある」と常に意識していたら、仕事の時間はもちろん、 プライベートでも誰と会うべきかを選別してしまうのかもしれません。

「幅広い交友関係が自身の幸福度を高めている」と考える人もいますし「誰と会うかを選別して効率性を追求したい、それが自分にとっての幸せにつながる」と考える人もいます。
価値観は人それぞれですが、効率至上主義に陥ると地域活動においても職場でも、ちょっと浮いた存在になりそうなので気をつけたいと思います。

2022年3月26日土曜日

離職期間と充電期間 『ISO通信』第69号(2022.3.26)

 中規模の会社に勤めている知人(Aさん)から、離職期間を作ることについて相談を受けました。Aさんの勤務先は社員数200人程度の企業で、余った有給休暇を買い取る制度はありません。Aさんは、ある会社から内定をもらっていて「入社の時期は2カ月後でも3カ月後でもいい」と言われているそうです。

以下はAさんと私の会話です。
「有休を消化せずにスパッと会社を辞めたいのですが、次の会社に入社する前に少しゆっくりしたい気持ちもあります。退職してから1カ月後に入社するのって、ありですか」
「うーん、離職期間を作ることはあまりお勧めできません。有給休暇を消化してから、次の会社に入社した方がいいと思いますよ」
「うちの場合、会社に余裕がないから、有休を使い切って辞める人がいないのですよね。有給休暇が労働者の権利だということは知っていますが、世話になった会社なので、あまり無理も言いたくなくて」
「なるほど。まあ、それでもブランクは長くない方がいいと思います。例えば、今の会社を辞めて、次の会社に入るまでに3カ月のブランクがあったとします。もしも将来、再度転職活動することになった場合、この3カ月は何をしていたのだろう?と疑問を持たれることになります。1カ月くらいなら『ちょっとリフレッシュ期間を取りました』と説明すればすみますが、3カ月だと『のんびりした人だな』と思われる可能性があります」
「1カ月くらいなら、大丈夫ですか」
「1カ月くらいなら問題視されないと思いますが、万が一その期間中に大きな災害が発生したり、戦争の影響が拡大したりすると『しばらく入社を待って欲しい』と言われてしまうかもしれなません。なので、あえて離職期間を作ることは避けた方が無難だと思います」
「そうですよね。リーマンショックや大震災があって、パンデミックに戦争ですからね。何が起こるか分からない時代になってきました。離職期間を作ってゆっくりするのは、止めておきます」
Aさんとの会話はこんな感じで終了しました。

ちなみに、厚生労働省の調査によると「直前の勤め先を離職してから、現在の勤め先に就職するまでの期間」は以下の通りです。
離職期間なし:              26.1%
1カ月未満:                   27.6%
1カ月以上2カ月未満:  13.3%
2カ月以上4カ月未満:  12.9%
4カ月以上6カ月未満:    4.6%
6カ月以上8カ月未満:    3.5%
8カ月以上10カ月未満:  1.7%
10カ月以上:                   5.5%
(政府統計『令和2年転職者実態調査の概況』より)

心身に余裕があれば、離職期間を作ることはせずに、次の職場に移った方がよいと思います。しかし心と体のリフレッシュのために、どうしても充電期間が必要なケースもあるので、その場合は離職期間を設ける勇気も要ります。
気持ちの面で追い込まれた状態にならないよう、普段から自分に適したオンとオフのバランスを取って働きましょう。



2022年2月22日火曜日

直近の6年間でどれだけ成長しましたか? 『ISO通信』第68号(2022.2.23)

 


「うちの長男が中学生になりました。」

「はやいねー、もう中学生になるんだ」

「はい、幼稚園で遊んでもらっていた頃が、つい先日のような気がします」

「そうだよねー、こっちも歳をとるはずだよ」

長男が中学生になった頃、親戚や友人とこんな会話をしたことが何度かありました。

 

しかし、ある先輩は私にこう言いました。

「子供さん、小学校の6年間でずいぶんと成長したことでしょう」

「はい。子供の成長は本当にはやいと感じます」

「ところで、磯くん、その6年間でどれだけ成長した?」

「えっ、私がですか?」と聞き返しました。

 

長男が小学1年生になった年は、私が二度目のサラリーマン人生をスタートした年です。

一度目のサラリーマンを16年、フリーランスを2年ほど経験した後の2010年は私にとって節目の年になります。

長男が小学校を卒業した2016年は、今の会社に入社して6年が経つ頃で

「その6年間でどれだけ成長した?」

という質問に対して

「まったく未経験の業界に入ってどうなることかと思いましたが、なんとか人材紹介の仕事で食っていけるような気がしてきました。少しは成長していると思います」

と答えました。

「ほう、それはよかった。お子さんが中学生になった人に『この6年でどれだけ成長した?』って聞くと答えられない人が多いからね。次の6年も成長することを忘れないように」

尊敬する先輩が、そう教えてくれました。

 

あれから6年が経ち、中学校と高校でさらに成長した長男は4月から大学生になります。

「ところで、磯くん、その6年間でどれだけ成長した?」

と質問してくれた先輩とはしばらく会っていませんが、この言葉を思い出して、今度はドキリとしました。

成長していないかも?

「いや、成長はしている」と思いたいのですが、成長カーブが緩やかになっていることは間違いありません。

 

昔のことですが「俺はこの道25年のベテランなんだ!」と威張る人に対して「毎年毎年、同じことを繰り返しているだけの人じゃないか」と内心で反発したことがあります。しかし、私自身も毎年同じようなパターンの仕事に慣れ、コンフォートゾーンにハマりつつあるような気がします。

 

社会や業界の構造が不変なら「この道25年のベテラン」の経験に頼り、その人の指示の通りに動けば間違いなかったことでしょう。また、経験が豊富でたくさんのリスクを乗り越えてきた人は、大きなトラブルに発展しそうな「小さな芽」を未然に摘むことができたり、成果を上げるための最短ルートを知っていたりするので、過去の経験を否定するつもりはありません。

しかし、過去の経験に縛られていると、変化の波に押しやられて、傍流で細々とビジネスを続けていくことなります。

 

次の6年が経つと次男も大学生になっているはずです。そのときに

「息子たちの成長カーブと同じくらいに、私も成長できました」

と先輩に報告できるよう、新しいことにも挑戦したいと思います。