2023年12月30日土曜日

どこから時間を捻出するか? 『ISO通信』第90号

 ドジャーズへの移籍が決まった大谷翔平選手のロングインタビュー(1224日のNHKスペシャル)を見逃し配信で観ました。途中で、AIを搭載した最新のピッチングマシンを使用してバッティング技術の向上に努めている様子が紹介されていました。このマシンはメジャーリーグに在籍している850人以上の投手のフォームをスクリーンに写しながら、それぞれの投手がどのようにボールを握っているかまで再現し、同じ球筋のボールを投げることができるそうです。普通の打者はマシンの中の打撃ボックスに立って実際にボールを打つのですが、大谷選手は打席に入らずに投手の映像と球筋を見ていました。そして「後ろや横から見ているのがいちばん感覚的にはよかった」と語っています。 

番組の最後の方でマシンの開発者が登場し「このAIマシンを使えばすべての打者が最高の選手になり、野球が偉大なスポーツになるんだ」と語っています。開発者としての思いは理解できますが、すべての打者が最高の選手になったら、同時に全員が標準のレベルになってしまうとも言えます。実際には、新しいマシンを使いこなすことができた選手ほど高いレベルに到達できるはずで、それができるのは大谷選手などのごく一部の選手に限られるのだろうと感じました。マシンと向かい合う時間を捻出することができる選手は、ほんの一握りだろうと想像したからです。これまでに利用していたマシンを最新のAI搭載マシンに取り換えるだけでも効果はあると思います。しかし850人の投球フォームやパターンを頭に入れようと思ったら、膨大な時間が必要になります。食事したり、睡眠したりする時間以外は常に野球のことを考えている選手なら、AIマシンを使う時間をひねり出すと思いますが、遊びや息抜きの時間も大切にしている選手が、その時間削ってAIマシンと向き合うようになることは簡単ではありません。 

と、ここまで書きながら、天に唾しているような気持ちになりました。昨今よく言われる「リスキリング」も同じようなことかもしれません。私も遊びや息抜きの時間を大切にしている普通の社会人です。ビジネスの中でAIを活用する場面がじわじわと増えていると感じますが、遊びの時間を削ってAIについて学んだり、リスキリングに励んだりすることは大変です。スポット的に時間を削って遊びを我慢することはできても、継続的に時間を確保するには覚悟が必要です。

プロ野球選手が最新のマシンを活用して練習することは、リスキリングではなく通常業務の延長線上にある改善活動に近いかもしれません。リスキリングにしても、改善活動にしても、新しい方法やツールが出てきたら「しばらくは〇〇を我慢して取り組もう」と決意する必要があります。(〇〇に当てはまる言葉がさっと頭に思い浮かび、葛藤して悶絶している自分まで想像できてしまいました。)新年の目標は「克己」と「実行」になりそうです。

好きか、得意か、燃えるような情熱か 『ISO通信』第89号

以下の内容は2023年11月に投稿しようとしたものです。(11月にBloggerのサイトにアクセスできなかったため、89号を2023年12月30日に投稿しました。同じ内容を2023年11月29日にNoteにも投稿しています。)

***

 「数字に強い、という理由で経理が長くなりましたけど、特にやりたい仕事ではなかったのです。でも得意ではあるんです、経理は」

転職相談でAさんから聞いた言葉です。Aさんはキャリアチェンジすべきか、経理の仕事を続けるかで悩んでいました。

Aさんは新卒で自動車部品メーカーに入社し、経理部に配属されました。そして自分が経理に向いていることを自覚し、会社からは経理の中核人材になることを期待されている、と感じているそうです。
「経理は嫌いではないのですが、私は営業をやりたいと思って入社したのです。しかし、今の会社では経理部から出してもらえそうにありません」
Aさんの言葉に対して、私は以下のように答えました。
「今の会社で経理として高く評価されているのに、転職してしまうのはもったいないと思います。しかし『好きなことと得意なことのどちらを優先したらいいですか』と聞かれたら、私は、好きなことを優先して欲しいと思うタイプです。ただし、好きなだけでは年収は下がるかもしれません」
営業が好きだとしてもセンスがなければ、高い成果を上げることはできません。その場合、経理の仕事を続けた方が役職や等級を上げやすくなるので、年収にこだわるのなら、経理から離れることは得策ではありません。私はAさんに
「営業するとして、商材はどんなものを扱いたいのですか」
と聞いてみました。
「一般消費材が面白そうですが、自動車メーカーに対する営業の方がイメージはしやすいです」
「自動車部品に対する愛着はありますか」
「あるような、ないような。でも最終製品の営業の方が楽しそうな気がします」
そのあと私は、Aさんにいくつかの質問をしました。
・どんな商材の営業だったら、燃えるような気持ちになれそうですか。
・それとも漠然と営業してみたい感じですか。
・自分は経理が好きだ、と自己暗示をかけたら、本当に好きになる可能性はありますか。
そうして1時間ほど会話を続け、面談の最後にAさんは言いました。
「なんとなく見えてきました。今日はいい壁打ちができたので助かりました。ありがとうございます。転職ありきではなく、現職に残ることも含めてもう一度考えてみます」

しばらくしてAさんから
「もう少し今の会社に残って頑張ります。燃えるような気持ちになれるものが見つかるまで、真剣に経理と向き合ってみます」
と連絡がありました。転職相談は無料なので、Aさんとの会話で私が対価を得ることはありません。しかし、このような言葉をもらうとエージェントとしての価値を提供できたと感じて嬉しくなります。
得意なことに真剣に向き合い、燃えるような気持ちになれるのなら、それをキャリアの軸にすべきだと感じました。

好きなことや得意なことが見つからない人もいると思いますが、今の仕事と真剣に向き合ってみると、何かが変わるかもしれません。

2023年10月29日日曜日

キャリア採用における「年齢不問」の先進国は日本?『ISO通信』第88号


A:求人票には性別不問と書いてあるのに実際にはそうでない。

B:求人票には年齢不問と書いてあるのに実際にはそうでない。

法律の例外規定に沿っていなければ、どちらのケースもコンプライアンス上の問題があります。人事の担当者から「求人票には書いてありませんが、実際には男性希望です」などの発言を聞くことはほとんどなくなりました。管理職の比率や賃金格差などの面で、今でも性別による差異が発生していることは問題ですが、書類選考の段階で女性をNGとする企業はこの10年で大幅に減りました。感覚的なものですが、10年前は求人案件のうち30%くらいは「実は男性希望です」といった本音があったように記憶しています。しかし最近12年においては、そのような発言を聞いたことがありません。一方で、Bのケースに関しては「現実的には、60歳近い人では厳しいです」などの発言はまだ残っています。60歳定年の会社が、59歳であることを理由に書類選考を不合格とした場合、法律的にはアウトですが「他の候補者と比較して総合的に判断した結果、今回は見送りとさせて下さい」などと言われるケースはあります。そんなとき「もし年齢が理由なら、一度会ってみて下さい」とお願いしてもかつては再考してもらえませんでした。しかし「最近は会うだけ、会ってみましょう」という企業も増えて来ました。また「うちは65歳に定年を延長したので、60歳でもOKです。今回は年齢ではなく〇〇の理由で見送りました」と言われたこともあります。

私の経験としては65歳の人を紹介して入社につながったことがあります。先日、英国人の同僚と会話したところ「経営幹部のポジションに60歳以上の人を紹介しても、実際に採用してもらうことは難しい。日本の方が年齢に関するダイバーシティーは進んでいるのではないか」と言って、驚いていました。一人の英国人と私の会話だけで、日本の方が進んでいると断ずることはできないので、データを探してみました。しかし、60歳以上の人が新しい会社に経営幹部として迎えられる事例がどれくらいあるのかについて、統計資料を見つけることはできませんでした。

資料を探す途中で、米国企業のCEOの年齢ランキングが載っているサイトに出会いました。米国のビジネス誌「Fortune」が紹介しているサイトで、タイトルに「Meet Fortune 500’s most senior CEOs」とあります。(世界において総収益が多い500社の「Fortune Global 500」ではなく、米国企業の「Fortune 500」について調べた結果のようです。)

その記事によると、2021年度のFortune 500CEOの平均年齢は57歳で、71歳以上の人が10人います。最高齢はバークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェット氏で91歳(現在は93歳)。ランキングの年齢だけを見ると84歳、77歳、76歳と続きます。上位10名の全員が男性で、8名はCEO在任期間が15年以上でした。米国においても、長期政権を維持する高齢の女性経営者は、まだ現れていないようです。

データが見つからなかったので、主観に戻りますが私の周囲では50代、60代の転職事例は確実に増えています。30年以上務めた会社を卒業して軽やかに転職することが珍しくない時代になりそうです。

2023年9月30日土曜日

コーポレートガバナンスは一人ひとりの意識から『ISO通信』第87号

 ジャニーズ事務の問題に関して、日本民間放送連盟の会長が「重大な人権侵害であるという認識をメディアが十分に持てなかったことは事実で、反省しなければならない」と述べたそうです。反省はしていると思いますが、今後も疑惑を追及するような行動を起こすことはかなり難しいと想像します。

ジャニーズ事務所に関する黒い噂は30年以上前からありました。そして他の芸能事務所に関しても同じような噂がありました。それは、デビューしたいと考えている女性に対して、芸能事務所の権力者が性的な害を加える前に、デビューしたいなら同意の上での行為であると認めなさい、と脅迫しているという噂です。この話はただの噂であって事実ではないのかもしれません。マスコミもスポンサー企業も、そのような噂を信じていないのだと思います。だから「過去の問題も含め、潔白を証明した事務所のタレントしか起用しません」と宣言するスポンサー企業やテレビ局は出てこないでしょう。そう考えると疑惑の段階でジャニーズ事務所を糾弾することは、かなり困難だったと思います。だからしょうがないことだよね、と言いたわけではありません。
 
内部通報の仕組みを、さらに整備すべきだと考えますが、内部通報した人に対する目が温かいとは限りません。たとえば、こんな場面を想像して下さい。あなたは採用面接の面接官で、となりには社長も座っています。面接を受けに来た人に「どうして転職を考えているのですか?」と質問したら「私が勤めている会社はコンプライアンス上の大きな問題を抱えていて、内部告発したら左遷されてしまいました。こんな会社に残るつもりはありません」との答えが返ってきました。そのときあなたは「この人を採用したら我が社もやばい」と思うでしょうか。あるいは「この人こそ採用すべきだ」と思うでしょうか。
ホワイトな企業であれば、内部告発した人の勇気をポジティブに評価するかもしれません。ブラックな企業なら不採用の結論を出すでしょう。
 
転職相談で「今、どうして転職を考えているのですか」と質問したとき「会社が不正を黙認していることに耐えられません」といった答えは、以前より減ってきました。コーポレートガバナンスに本気で取り組んでいる企業が増えていることが、不正の減少につながっているのでしょう。
マスコミの姿勢を批判したり、叱咤したりすることも大切ですが、自らの意識や行動を変えることで組織や社会が変わっていくのだと思います。

2023年8月31日木曜日

優秀なプレーヤーが優れたリーダーになるとは限らない 『ISO通信』第86号

 


「部下に『失敗してもいいから、自分で考えてやってみろ』と言ったら『失敗することはないと思いますが、失敗から学べという意味なら、チャレンジングなやり方でやってみます』と言われたよ。優秀だけどかわいくない」
某社でマネージャーの立場にある友人から聞いた言葉です。
指示を出した相手は、20代の若手で仕事はできるそうです。
「頭のいい部下を持つと大変だね」別な友人がそう言うと
「あいつは俺のことをバカにしてるね。学歴は高いけど人間性に問題ありだな」
とマネージャー氏は言っていました。
 
「若いうちは、ちょっと生意気なくらいの方がいいよ」
「イヤ、素直じゃないやつは、結局は伸びないね」
「おおらかな目で見てあげなよ」
そんな会話の後、飲み会の席は別な話題に移りました。
 
生意気だけど憎めない、と思われている人は組織の中で成長していきますが、生意気なだけだとやがて組織から浮いていくことになります。転職相談の会話において「私だけがエライ」的なオーラを放っている人にたまに会いますが、組織内で浮いちゃった結果、転職したくなったのだろうか、と心配になります。
 
知的レベルや事務処理能力が高い人は優秀なプレーヤーになれますが、相手の感情を理解して行動できないと、リーダーとして部門を統率することは難しくなります。人口が増え続け、経済が成長していた時代には、社員を駒のように扱うマネージャーでも成果を上げることができました。しかし国内の人口は減少する時代になり、転職が当たり前となった現在、駒のように扱われた社員が転職した後、会社が新たな社員を採用することは簡単ではありません。後任の社員を採用できなければ、部門の目標を達成することは困難であり、社員を駒や部品のように扱うマネージャーは減ってきました。
 
飲み会の席ではないのですが、少し前に以下のような場面がありました。
「辞められちゃ困るからって会社がこんなに甘くなっていいんですか。我々の時代はどやされたり、どつかれたりしながら、仕事を覚えていったのだと思いますけど」
「時代が違うと言えばそれまでだけど、今の若い人はかわいそうだね」
「かわいそうなことにならないように部下をリードしてあげなきゃ」
私は三つ目の発言に同意して
「サーバント型のリーダーシップやEQの高いリーダーの方が、最近はうまくいってるみたいですよ」と付け加えました。

リーダーシップのスタイルは多様であり、企業の成長のフェーズや、トップの性格によっても、どのようなスタイルをとるべきか変わってきます。サーバント型と呼ばれるスタイルは、相手の意見を聞いて支援しながら、組織を理想的な方向へ導こうとするやり方ですが「それでは甘い」という批判もあります。

ちょっと生意気な社員には、サーバント型のリーダーシップを発揮すべきか、力で支配するようなスタイルが適するのか、それにも答えはありませんが、相手によってスタイルを変えると頼りないリーダーになってしまいます。
どんな相手に対しても一貫した態度で臨むことは簡単ではありませんが「部下に対しては支配者のように、上司に対してはサーバントのように」ということがないように注意しましょう。

2023年7月30日日曜日

「おはよう」と「おはようございます」の使い分け 『ISO通信』第85号

 

近所の人に挨拶するのは自然なことだと思いますが、知らない人に挨拶すると不審者と間違われる可能性があります。顔と名前が一致しなくても、お互いが「ご近所さん」であることを認識していれば挨拶するようにしているのですが、相手が小学生くらいだと「おはよう」と声をかけても、反応がなかったり、もじもじした感じで下を向いてしまうこともあります。

小学生から見た私は「知らないおじさん」である可能性も高く、子どもに挨拶するのをしばらく止めていました。
しかし、あるとき自然に「おはようございます」と声をかけていたのですが、そのときは元気に「おはようございます」と返事がありました。小学生に対しては「おはようございます」よりも「おはよう」の方が適切だと思っていたのですが、そうではないのかもしれません。
ためしに、他の小学生にも「おはようございます」と声をかけてみると、もじもじと下を向かれることが減り「おはようございます」と返ってくることが多くなりました。
この挨拶実験は「ご近所さん」の範囲を狭く設定しておかないと、あぶないオジサンと間違われるので、サンプル数はかなり限定的です。しかし小さな子にも、
自分を尊重してくれる人にはきちんと対応したい
と思う気持ちがあるのでしょう。

相手との関係性によっては「おはようございます」よりも「おはよう」の方が自然な場合もあります。しかし、気軽に「おはよう」と声をけたつもりでも、相手は「あれ、私たち、そんなフレンドリーな関係でしたっけ?」と感じているかもしれません。
「おはよう」と声をかけて、うつむき加減の会釈しか返ってこなかったら、次は「おはようございます」にしてみましょう。元気な「おはようございます」が返ってきたら、一日の始まりが、少し爽やかになりそうです。

挨拶に関しては、
めんどくさい
照れくさい
先に挨拶した方が負け
ただの儀礼
など、ネガティブな捉え方をする人もいます。
「先に挨拶したら、その時点で既に負けている」という意見を聞いたことがありますが「先に挨拶しようとする人が多い組織は強い」と思っています。

2023年6月24日土曜日

『ISO通信』第84号

( 『ISO通信』はメールマガジンで配信した内容をnoteやブログにも載せています。今回はメルマガを配信させてもらっている方を対象にアンケートをお願いしました。)

月に一度のペースで『ISO通信』を配信させてもらっていますが、スタートして7年になりました。

年間12回×7年で今回が第84号です。

これまでメールマガジンの配信をサポートしてくれた会社が10月でサービスを停止することになり『ISO通信』を継続するには「配信スタンド」を引っ越しする必要があります。

一方、最近はネタに困ることが多くなり「ちょうどよい機会なので終りにしてしまおう」と思う気持ちもあります。

メールマガジンの配信ボタンを押すにはそれなりの勇気がいります。始めたときは「こんなものを大勢の人に送りつけてしまっていいのだろうか?」とかなり悩みました。送ってみると思わぬ反応があり、やってよかった、と思うのですが、ときどき配信停止を希望する人もいて、ちょっとへこみます。

何冊も本を出している著名な先生に「今でもメルマガの送信ボタンを押すときには、それなりの勇気が要ります」と話したとき
「とってもよく分かります。私も、この程度の話しかできないのに、セミナーに登壇しちゃっていいのだろうか?とよく思いますし、本を出版するときも同じような気持ちになります」
との答えが返ってきました。こんなに立派な先生でもそうなんだ、と思い少し安心しました。

さて、ここでお願いです。

以下のアンケートにご協力ください。質問は一つだけです。

A:今後も『ISO通信』の配信を希望する。
B:今後は『ISO通信』の配信を希望しない。
C:どちらでもいい。

回答は下記のサイトからお願いします。

(以下は、noteやブログで読んで下さっている方へ向けたURLで、上記の質問とは別な内容です。)

https://forms.gle/iRTSuEKAUjjJVAaf6

(以下、メールマガジンに記載した内容に戻ります。)

このタイミングではお名前やメールアドレスなどを確認しませんので、気軽にお答え下さい。

AがBを上回った場合は、配信スタンドを引っ越してメールマガジンを継続しようと思います。

Bの方が多い場合は休止して、今後のあり方を検討します。

この配信スタンドは来月まで利用可能なので、メルマガの継続か休止かは、85号にて連絡致します。

それでは、みなさま、よろしくお願いします!

2023年5月28日日曜日

アリとキリギリス、どちらもハッピーな未来? 『ISO通信』第83号

 


国立社会保障・人口問題研究所が4月26日に公表した資料の冒頭に
「総人口は 50 年後に現在の7割に減少し、65 歳以上人口はおよそ4割を占める」
との見出しがありました。
「それは大変だ」と思う気持ちと「50年後って想像がつかない」と思う気持ちが半々でした。
50年も先のことを心配するのは現実感に乏しいので、公開された資料の中から2020年と2045年の数字を抜き取ってみます。

【総人口】
2020年:12,615万人
2045年:10,880万人
差:▲1,735万人

【0~14歳の人口】
2020年:1,503万人
2045年:1,103万人
差: ▲400万人

【15~64歳の人口】
2020年:7,509万人
2045年:5,832万人
差:▲1,677万人

【65歳以上の人口】
2020年:3,603万人
2045年:3,945万人
差:342万人

〔国立社会保障・人口問題研究所 「日本の将来推計人口(令和5年推計)」より抜粋〕

上記の人口は出生率を1.36と仮定したときの数字です。
生産年齢人口と呼ばれる15~64歳の人口は25年間で1,677万人も減少する見通しです。
人口は減少しますが、
・仕事をする女性が増える
・外国人労働者が増える
・定年後も働く高齢者が増える
これらの要因によって実際に働く人の減少幅は緩和されます。
しかし、日本の賃金水準が上がらないと日本で働きたいと考える外国人の数は減る可能性もあります。

2045年の日本において15~64歳の人口は全体の53.6%でしかありません。この世代だけで社会全体を経済的に支えていくことは困難なので、国は75歳くらいまでの雇用確保を法律で義務づけることになるでしょう。経済産業省や厚生労働省が盛んに「リスキリング」の旗を振る理由も分かります。
いっそ50歳からの4年間を第二の義務教育期間とし、強制的に学ぶ時期を作ってはどうでしょうか。50歳になったら退職し、義務教育の大学や大学院院を卒業後、それから20年くらい働くイメージです。暴論ですが、それくらいのことをしないと、お金と意欲のある人だけがリスキリングでき、老後の格差がますます広がってしまいそうです。

一方、まったく別なシナリオもあり、数十年後に働いているのはAIとロボットだけで、ほとんどの人間は遊んで暮らせるという話も聞いたことがあります。
学ぶことが好きな人はリスキリングして働き、高い収入を得る。遊ぶことが好きな人はベーシックインカムで十分に暮らせる。そんな時代がやってくるのでしょうか。
アリさんタイプもキリギリスさんタイプも、それぞれの価値観に沿った理想を体現できるハッピーな未来であってほしいものです。

2023年4月29日土曜日

ダイバーシティはコストですか、投資ですか?『ISO通信』第82号

 

「ダイバーシティとかエクイティ&インクルージョンとか言うけど、結局、日本人はインクルージョンしてもらえないと思うよ。英語が流ちょうなら別だけど」
「いや、これからはAI翻訳でかなりいけるんじゃない」
飲み会の席で、そんな会話がありました。
 
ダイバーシティはダイバーシティ&インクルージョンに進化し、さらにはダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンに深化しています。
 
ダイバーシティは多様性を受け入れること
ダイバーシティ&インクルージョンは、多様性を受け入れ仲間として認めること
ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンは、仲間として認めた人に公平な機会を用意すること
私はそんな風に理解しています。
 
ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)におけるエクイティ(公平性)を説明するときの例として、ハサミの話を読んだことがあります。
10人の人がいて右利きが9人、左利きが1人という状況のとき、右利き用のハサミを10個用意したのでは公平とは言えません。左利き用のハサミも用意している組織はDE&Iを理解していることになります。
 
さて、世界各国から10人の人が集まっていて、英語ができる人が9人、できない人が1人という状況のとき、DE&Iを理解している組織は英語のできない人のためにどのような対応ができるでしょうか。
通訳をつけることは解決策の一つですが、それを「公平」と思う人もいれば「優遇」と感じる人もいるでしょう。
飲み会の席で「結局、日本人はインクルージョンしてもらえないと思うよ」と言った友人は、通訳なしで会話ができないと仲間として認めてもらえないと主張しました。そして「AI翻訳でかなりいけるんじゃない」と言った友人は「スマホに向かって話かけるとイヤホンから聞こえるのは母国語というシステムがあれば、英語ができなくても大丈夫」と続けました。
「すると全員がそのシステムを使う必要があるよね。会議の時間はやってくれるかもしれないけど、ちょっとした雑談やパーティーの席では使わないよ」
飲み会の再現はこの辺にしておきますが、さらに進んだ翻訳システムが普及するのは意外と近い将来かもしれません。
 
DE&Iを推進するためには、たくさんの準備をしておく必要があります。
・左利き用のハサミを用意する。
・工場の女性用のトイレを増やす。
・車いすで移動しやすいオフィス環境を整備する。
・いろいろな宗教に配慮した食事を準備する。
他にもいろいろあると思いますが、多様な人たちに公平な機会を用意することは、コストの増加につながりそうです。しかし「それはコストではなく人への投資」と考えることができた組織に優秀な人があつまり、大きな利益につながる時代になるのでしょう。

2023年3月26日日曜日

卵が先か、賃金が先か?『ISO通信』第81号(2023.3.26)

 


「たまごの値段が上がっていて、ビックリした」
「ついにたまごも物価の優等生じゃなくなっちゃったね」
「最近は、何が物価の優等生って言われているか知ってる?」
「うーん、なんだろう?」
「賃金」
少し前に聞いたジョークですが、つい笑ってしまいました。

たまごと賃金、どちらが物価の優等生なのだろうと気になり、調べてみました。
まずは、たまご。以下はLサイズ 1kg当たりの東京での標準価格です。
2000年3月1日:220円
2005年3月1日:265円
2010年3月1日:165円
2015年3月2日:203円
2020年3月2日:190円
2023年3月1日:330円
JA全農たまご株式会社が公開している「相場情報」のサイトで検索した結果です。(相場情報では土日や祝日を除く毎日のデータを検索することができます。)
長い間、200円前後で推移していた価格が直近では330円になっているので「物価の優等生ではなくなってしまった」と感じるのも納得です。

では賃金はどうでしょう。大卒初任給を厚生労働省のサイトで調べてみました。以下は賃金構造基本統計調査から抜粋した数字です。
2000年
男性:196,900円
女性:187,400円

2005年
男性:196,700円
女性:189,300円

2010年
男性:200,300円
女性:193,500円

2015年
男性:200,200円
女性:198,800円

2019年
男性:212,800円
女性:206,900円
(厚労省は初任給に関する調査を2019年で終了しています。終了の理由を探してみましたが、見つかりませんでした。) 
初任給も「物価の優等生」と揶揄されてしまうほどの安定ぶりです。しかし、賃金にも上昇の気運が表れてきました。今年の春闘ではトヨタ、ホンダ、日産、日立製作所、パナソニックHD、三菱電機、富士通、川崎重工、三菱重工などの大企業が労働組合の要求に満額で回答しています。ホンダでは春闘の結果が実際に反映される6月以降、大卒初任給が25万円1千円になるそうです。
政府主導の賃上げ要請は数年前からありましたが、今年の賃上げに関しては、物価上昇で家計が悲鳴を上げ、経営者も組合の要求に理解を示したのでしょう。

さて「賃金が上昇するとやる気も上がる」ということになるのでしょうか。
モチベーションの研究で有名なハーズバーグの「二要因理論」によると、賃金の上昇は不満を解消する要因となっても満足度を高める要因にはならないそうです。(満足度を高める要因となるものは達成感や成長実感など。)
「賃金が高くても達成感がなければ満足できない。達成感や成長実感があっても賃金が低ければ不満は残る」ハーズバーグ先生の理論をそんな風に単純化して覚えていたのですが「二要因理論」という言葉は頭の中に残りにくいと感じます。英語の「Two-factor theory」の方が覚えやすい気がするので「よい職場には不満を解消させるファクターと満足度を高めるファクターの両方がある」と覚えたいと思います。
経営者が社員に対して「高い給料を払っているのだから文句を言うな」と言いたくなったら、どのファクターが不足しているのかを考える必要がありそうです。
 
(モチベーションとやる気の違いや、そもそも「やる気」ってなんだろうという疑問も出てきたのですが、長くなりそうなので、また別な機会に。)

2023年2月25日土曜日

ChatGPT VS.吾輩 『ISO通信』第80号


 話題の人工知能ツール「ChatGPT」に原稿を書いてもらいました。

私が依頼した内容は下記です。
“ 『ISO通信』のような文体で記事を書いて下さい。今回のテーマは「日本社会において、年功序列と成果主義はどちらが好ましいか?」です。”
この依頼に対して出来上がった原稿が下記の内容です。

===以下の内容は「ChatGPT」が作成した文章です。===
皆さん、こんにちは。今回は、日本社会において年功序列と成果主義のどちらが好ましいかというテーマについてお話しします。

まず、年功序列についてですが、これは昔から日本の企業や公務員の間で非常に重視されてきました。長年勤め上げることによって、徐々に昇進していくという仕組みです。これによって、経験やノウハウが重んじられ、職場での信頼感や安定感が生まれます。しかし、一方で、若手の新しいアイデアや手法を取り入れにくいというデメリットもあります。

一方、成果主義は、個人や組織の能力を最大限引き出し、成果を重視する考え方です。目標達成や生産性の向上を目指して、業績や実績に基づいた報酬や評価を行います。これによって、モチベーションが高まり、より良い成果を生み出すことができます。しかし、成果を達成できなかった場合には、厳しい評価が下されることもあります。

では、日本社会において、どちらが好ましいかというと、一概には言えません。企業や業界によっても異なるでしょうし、個人の価値観や性格にも影響を与えます。ただし、今後の社会情勢を考えると、成果主義に価値があると思われます。グローバル化が進む中、日本企業が競争力を維持するためには、新しいアイデアや技術を積極的に取り入れ、成果を上げることが必要不可欠です。また、世代や背景の違う人々が多様な価値を持ち合わせている現代社会において、年功序列だけでなく多様性を尊重し、成果主義的な考え方を取り入れることが、企業の活性化につながると考えられます。

以上、今回は年功序列と成果主義の両方について考えてみました。皆さんも、自分に合った働き方を見つけ、成果を上げることで、より豊かな人生を送っていただければ幸いです。
===以上の内容は「ChatGPT」が作成した文章です。===

うーん、なんとなく私が書きそうな文章のような気もするし、違うような気もします。
そこで「夏目漱石のような文体で記事を書いて下さい。今回のテーマは『日本社会において、年功序列と成果主義はどちらが好ましいか?』です。」とインプットしてみました。
そして出来上がった原稿の冒頭が下記です。
「余は夏目漱石である。日本の社会には、年功序列と成果主義という二つの価値観がある。」
「吾輩」じゃないのかよ、と思わずツッコミたくなりました。次に「夏目漱石」の代わりに「紫式部」と入れてみました。
「私が生きた平安時代においては、あまり年功序列という言葉は聞かれなかった。しかし、家柄や出自によって社会的地位が決まることが多かった。その一方で、才能ある人はそれを示し、自らを高めていくことが重要視されていた。」
こんな文章で始まり、原稿全体では800文字くらいの量になっています。

続いて、世界的にも有名な作家の名前を入れてみました。現役のかたなので名前を控えますが、出来上がった原稿の冒頭は下記です。
「僕が思うに、日本社会において年功序列と成果主義は、どちらが好ましいかという問いかけ自体が、あまりに単純化されすぎている。」
正直「怖い」と感じました。「この原稿は紫式部が書いたものです」と言っても信じる人はいませんが、現役の作家の名前を使って「作家の〇〇さんは、年功序列と成果主義に関して、次のような意見を述べています」と書いて、ChatGPTがつくった文章を載せたら信じる人も出てきそうです。

ChatGPTが作った文章を読むと、明らかに誤りであると判断できるものもありますが、自分に知識がない分野の記述に関しては「なるほどそうかもしれない」と思える文章の方が多い印象です。
現時点では「出てきた回答を鵜呑みにしてはいけない」「内容については検証が必要である」と感じますが、利用者が増えて情報の精度が高まっていくと「まあ、信じてよいのだろう」という方向に気持ちが変わっていくような気もします。
そのような段階になっても「あれ、何かへんだそ」と感じるアンテナを自分の中に残しておかないと、AIにコントロールされてしまうことになりそうです。

さて、『ISO通信』は月に1回のペースで書いていますが今回で第80号となりました。「この話と同じようなこと、前も書いたなぁ」と思うことが増え、ネタ探しに苦労するのですが、今回はちょっとズルして、文字の半分くらいをChatGPTの文章で埋めました。
ちょっとズルしちゃったな、と思う気持ちが人間ですが、あと1年も経つと『ISO通信』の内容が、着眼点のすばらしい論理的な文章になっているかもしれません。その時は「あ、これ、全面的にAIが作成した文章だな」と思って下さい (笑)

2023年1月30日月曜日

情報化社会のスピード感 『ISO通信』第79号

 「世界は常に変化している。現代はこれまでの歴史において最も変化のスピードが速い時代である。しかし、今日を起点とした歴史がこれから始まるなら、2020年代は変化の速度がもっとも緩やかだった時代と評価されるだろう」
これは、トランサーチ(私の所属先)のロンドン本部が各国のメンバーに向けて行なったセミナーで聴いた言葉です。
英語で聴いたセミナーだったので、少し意訳していますが、覚えておくべき言葉としてメモしました。

さて、次の文章は、上記のセミナーで聴いた言葉ではありません。
"やや先ばしったいいかたになるかもしれないが、わたしは、たとえばコンピューターのプログラムのかきかたなどが、個人としてのもっとも基礎的な技能となる日が、意外にはやくくるのではないかとかんがえている。すでにアメリカでは、初等教育においてコンピューター用の言語 FORTRAN をおしえることがはじまったようだ。"

FORTRAN? いつの時代の話をしているの?と思った方もいるかもしれません。しかしこれが、1969年に出版された本(梅棹忠夫 著『知的生産の技術』)にあった文章だと知ったら驚くのではないでしょうか。
プログラミング言語のFORTRANは1950年代に開発されたそうです。1969年当時、アメリカの初等教育において、どのようにプログラミングが教育されていたのか存じません。しかし、日本の小学校でプログラミングが必修化されたのは2020年度です。
IT分野に関して日本は周回遅れと言われますが、アメリカとは半世紀の差があったようです。(kindleの「あなたへのおすすめ」に従って読んだ)『知的生産の技術』に書かれていた内容をもう少し紹介します。以下、仮名づかいも含めて引用です。

“社会には、大量の情報があふれている。社会はまた、すべての人間が情報の生産者であることを期待し、それを前提として組み立てられてゆく”
“情報産業こそは、工業の時代につづくつぎの時代の、もっとも主要な産業となるだろう”
これらの文章を読んで、著者の梅棹忠夫氏(故人)も変化のスピードが常に最速であることを意識していたのだろうと想像し、冒頭の言葉を思い出しました。

SNSの普及で、すべての人間が情報の生産者になれる時代になりました。社会には大量の情報があふれ、Amazon、Google、facebookなどがおすすめしてくれる情報が、私にとっての身近な情報になっています。そして「50年以上前からプログラミング教育が実施されていた国には、ちょっとかなわない」と思ってしまいました。
しかし、サッカーボールの中に内蔵されたICチップのおかげで、ボールが1ミリだけ線の上に残っていたか否かを判別できる時代です。また、家の鍵をかけ忘れたときに外からスマホで施錠ができる時代です。このようなIoTの分野なら、工業に強みがある日本にもチャンスが残されていそうです。

明治維新の頃や太平洋戦争が終わった頃、日本は先進国と50年以上の差があったのではないでしょうか。IT分野に50年の差があるとしても、きっと追いつけるはずです。

個人的にはIT分野が得意とは言えませんが、知識を常にアップデートし続けることの重要性も『知的生産の技術』に書かれていました。時代から置き去りにされないように、古い本からも新しい本からも学んでいきたいと思います。