働き方改革関連法案が成立し、年次有給休暇(以下、年休)の付与が義務付けられました。
本来、年休を取得できるのは労働者の権利で、使用者には時季変更権があります。
例えば、労働者が「権利を行使して、3月10日~13日まで年休を取得します」と宣言したら使用者は認める必要があります。しかし「すまない。決算期で忙しいから、25日以降にしてほしい」などと主張できるのが使用者の時季変更権です。
これに対して改正法が施行されると、年休を使っていない労働者に関しては、時季を指定して年休を取得させる義務が使用者側に生じます。
10日以上の年休を保有している人には、最低5日以上の年休を取得させる必要があり、義務を果たすことができないと罰則があります。
年休は法律によって定められている休暇で、正月休みやお盆休みは一般的な会社では法定休暇ではありません。このため、お盆休みや正月休みで年休を消化したことには出来ず、その他に年休を取得してもらう必要があります。(お盆休みや正月休みが計画年休になっている場合は別です。)
2011年の労働政策研究・研修機構の調査によると年休を1日も取得していない人が16%もいるそうです(取得日数が3日以内の人は32%)。年休取得率を見ると2011年が48.1%で2017年が49.4%なので、2011年の調査から大きな変化がないとすれば、16%の人は、休みが5日も増えることになります。

社員食堂の店長経験がある友人は「食堂のパートさんたちを5日も休ませたら、うちはつぶれるな」と言っていました。彼が勤めているのは、社員食堂の運営会社で食堂の現場はつねに人が足りない状態です。パートタイムで働く人が子どもの病気などで急に休むと、レジの人を調理場に回すなどして対応します。しかし、レジには行列ができ、そんなことが続くと客足が遠のいてしまうそうです。
「パートさんの数を増やせばいいんじゃないの」と言ってみると
「人手不足で採用できない。それどころか『これ以上忙しくなるのなら、辞めます』と言う人もいて、積極的に年休を取得しましょう、なんてとても言えない」とのことでした。
そのときの会話の続きを要約すると以下のようになります。
・時給を上げればパート社員を雇えるかもしれない。
・すると、既存のパートさんの時給も上げないと不満が爆発する。
・時給を上げると経営が赤字になる。
・値段を上げたり、コストダウンでボリュームを減らしたりすると、コンビニ弁当に客を奪われる。
・時給は上げられず、人も雇えない。その上、年休取得が義務になると、現場はさらに忙しくなる。
・年休取得義務の対象になるパートさんだけに年休を使わせるわけにもいかない。
・今までは「この日はシフトに入れません」と言われたら無給が当たり前だったが、義務化の対象でないパートさんも「有給扱いにして欲しい」と主張するかもしれない。
「シフトに入っていない人にも給料だすのはきついなあ。経営的にも、かなりヤバい。こんな法律誰がつくったんだー、俺も休んじゃうぞ」
と言ったあたりで、お互い、酔いどれオヤジに変貌しつつあったのですが、深刻な問題であるようです。
年休を取得した社員がリフレッシュして翌日からキビキビと働き、調理の時間を15分短縮できた。余った時間でお客さんの呼び込みを行った結果、食堂の売り上げも増えた。
ということになれば、生産性の向上を目指した法律の狙い通りですが、現実と理想のギャップを埋めることがマネージャーの仕事になりそうです。