2024年12月31日火曜日

生産性を上げて海外に行こう 『ISO通信』第96号

12月16日に日本生産性本部が公表した「産業別労働生産性水準の国際比較2024」を読みました。

サマリーのトップに「産業別にみた日本の労働生産性は、サービス産業で米国の5割の水準」とあります。生産性が低い原因の一例として、キメの細かい配達サービスが上げられていました。配達時間をこまかく指定したり、再配達を何度も行ったりすると、働く人の数や時間はたくさん必要になります。通常、再配達には追加料金が発生しないので労働生産性(就業1時間当たりの付加価値額)は下がることになります。

物流事業者が談合して、ひそかに、そして時期を微妙にずらしながら再配達を有料化したらどうなるでしょうか。公正取引委員会が黙認することは考えにくいので、やがて事件化するでしょう。では法律で再配達の有料化を事業者に義務づけたらどうなるでしょうか。私は再配達が無料であることを当たり前のように感じているので、法律によって有料化されたら腹が立ちます。しかし、少し前まではレジ袋も無料であることが当たり前でした。世の中が一斉に再配達の有料化を受け入れると再配達そのものが減り、物流業界の生産性は上がりそうです。

日本生産性本部のレポートから離れますが、ホテルや旅館のおもてなしがサービスとして格別なら、それを付加価値として価格に転嫁すべきとの意見があります。国内外の富裕層を対象としたサービスを提供する企業では従業員の賃金も上がっているようで、北海道のニセコではホテルの清掃アルバイトの時給が2,000円を超えることもあるそうです。

従業員の賃金が上がれば「安いニッポン」と言われる状況から脱却できますが、以前参加したオンラインセミナーで「観光地でいい思いができるのが金持ちの外国人ばかりでは面白くない。安くて質のいいサービスを提供してくれる会社に『値上げしろ』と言う必要はないのではないか」と主張した人がいました。その気持ちも分かります。高価格帯サービスと低価格帯サービスの質に大きな差がでると、格差を肌で感じることになり社会の分断につながるかもしれません。しかしセミナーの登壇者は「『安いニッポン』が常態化すると円安が進みやすく、海外から調達するエネルギーや食糧の価格が上昇することになる。やがて生活困窮者が増えてしまう」と言っていました。過去にはデフレと円高が同時に進行した時期もありますが、国内の賃金と物価が低い状況が続けば円安に向かう方が自然であると感じます。

最近のニュースによると「今年の年末年始はハワイ行きの国際便が過去最多となり、円安でも海外旅行の予約が好調」だそうです。

生産性の高い職場にいた人が転職すると、転職先の生産性が高まることもあります。人材紹介の仕事を通じて生産性の向上に寄与し、外国の物価が安いと感じる日本の復活に貢献したいと思います。

2024年11月16日土曜日

決断したら実行に関しても責任を持とう 『ISO通信』第95号

 


11月初旬にシンガポールで開催されたトランサーチグループのアジアパシフィック会議に参加してきました。インド、オーストラリア、タイ、マレーシアなどのメンバーとイギリスに住んでいるグループCEOがシンガポールに集まり、ビジョンやノウハウを共有することが目的です。
2日間の会議で、リーダーシップのあり方について議論したり、ゲストスピーカーの講演を聞いたりしました。 シンガポール在住のゲストスピーカー(ベンチャーキャピタルファンドの経営者)は、若いうちはとにかく学び、ミドルエイジになったら決断と実行を繰り返すことが重要だと強調していました。決断したことを実行すれば成功することも失敗することもあるが、失敗から学ぶことでより大きな意思決定ができるようになる、と言っていました。
講演後の雑談で、インドの同僚から「インドに駐在している日本企業の社員は、自分で決断することが極端に少ない。なぜいつも本社の意向を確認する必要があるのか」と質問されました。
「インドの現地法人が単独で判断して失敗したとき、インド事業を統括している本社の役員も責任をとらされるからだろう」と私が説明すると「それでは意思決定が遅くなるし、インドにいる社員が決断して実行する経験もできない」と言われました。雑談はすぐに別な話題に移ったのですが「日本の企業は相変わらずだな」と思われてしまったような気もします。私としては「日本でも優秀な若手が起業する例は増えてきたし、買収した会社に30代や40代の社員を経営者として送り込む企業が増えてきた」と伝えたかったのですが、飛び交う英会話のスピードに割って入ることができませんでした。 
 
買収した会社に自社の中堅社員を送り込んで「経営」を経験させる企業が増えてきた一方で、買収された会社ではプロパー社員の不満が高まっているケースもあります。ある人との面談では
「〇〇社の子会社になってから、役員のほとんどが親会社からの出向社員になりました。その人たちは、成功すれば自分の手柄、失敗したらプロパー社員の責任みたいな顔をしているので、転職を考えるようになりました」
と聞きました。自分で行ったことの手柄を取り上げられてしまえば、誰でも面白くありません。決断と実行と評価はバランスよくリンクする必要があります。実行した人より決断した人が評価されることもあれば、決断した人より実行者が評価されることもあるでしょう。しかし、手柄は自分のものにして、失敗したときは実行者のせいにする人の下では働きたくありません。
 
シンガポールのゲストスピーカーは「決断したら実行にも責任を持つべきだ。『部下が指示した通りに動かなかった』『お金を出して外部の会社に頼んだが、思ったような結果にならなかった』と言い訳して、自分の指示のどこに問題があったのかを考えなければ、また次も失敗する」と言っていました。
 日本でもシンガポールでも、結果を出している人の思考や行動パターンは同じだと感じました。

2024年8月31日土曜日

「TRANSEARCH」 に ご期待ください! 『ISO通信』第94号

月に一度のメールマガジンを書くことが昔は楽しかったのですが、ここ1~2年は少し苦痛と感じていました。なぜだろう?と思って6~7年前に書いた内容を読み返してみました。そして「うすうす感じてはいたけど、やっぱりそうか」と思いました。かつては恥ずかしいことも平気で書いていたのですが、最近はそれを避けようとする傾向が強くなっていたのです。恥ずかしいことの中身は、プライベートでの失敗だったり、勘違いしていたことの告白だったり、笑わせるつもりで書いたことがすべっていたり、などいろいろです。

しかし、ここ最近は「笑われてはいけない」 「賢くみられるような内容にしなければ」という気持ちが強くなっていました。会社において取締役に就任した頃から、メルマガのせいで会社の評判が落ちたら申し訳ないと感じていたのです。

そして今月(2024年8月)株式会社トランサーチ・ジャパンアソシエイツの代表取締役に就任しました。メルマガに書いていることは個人としての意見や考え方であり、会社を代表しての意見ではありません。しかし「変なこと書いちゃまずいなあ」という気持ちはますます強くなりました。一方で堅苦しくて、当たり障りのないものは、読んでいる人にとってはつまらなく、書いている私も楽しくありません。
今後は堅苦しい内容と下らない内容を織り交ぜていこうと思いますが「この人、アホやなあ」と思うことがあっても安心してください、社内の同僚はみんな優秀です。会社の水準は、メルマガから想像できる水準の数倍も上だと期待して下さい。

さて、今回は上記が本文で、以下はオマケの小ネタです。
先日、とある食堂で、隣のテーブルから会話が聞こえてきました。
若い店員さんに向かって、50代と思われる男性のAさんが
「お姉ちゃん、今日も美人だねえ」
と声をかけました。
苦笑いの店員さんを横にしてAさんの友人と思しきBさんが
「お前、それセクハラだよ」とたしなめます。
「ブスにブスって言ったらセクハラだけど、美人に美人って言うのは、褒めてるだけだろ」
「相手が困ってたら、それもセクハラなの」
「なんだよ、かっこつけて。お前の下心の方がよっぽどセクハラだろ」
「下心はいいんだよ。バレなきゃ、ダンディ。バレたらスケベおやじ。セクハラではない」
私はクスリと笑ってしまいましたが、店員さんはBさんに対してもセクハラと感じたかもしれません。本人が不快と感じたらBさんの発言もセクハラなのか、この程度ならセーフなのか。ハラスメントの境界線は難しいと感じました。

(以上はメールマガジンで配信した内容で、同じものをブログで公開しています。)

トランサーチのサイトへはこちらから。

https://www.transearch.co.jp/index.html

2024年6月29日土曜日

パーパス&パッションの人になろう! 『ISO通信』第93号


先月のことですが、ドイツに出張し、トランサーチ(私の所属会社)のグローバルカンファレンスに参加してきました。

トランサーチグループは世界の60都市に拠点があり、今回の会議には欧米各国の他、インド、ナイジェリア、ブラジルなどにあるトランサーチのオフィスから約80名が参加しました。

グループを統括するCEOは英国に住んでいる女性です。彼女は日本の文化や生活様式に対する理解が深く、ランチなどの席で一緒になると、周りの人に日本の良さを説明してくれることがあります。先日はフィンランド人やインド人に対して「ikigai(生きがい)と言う日本語を知っている?」と質問し、周りの人たちが「知らない」と答えると、彼女は「生きがいとはパーパス&パッションだ」と説明しました。

パーパスという言葉には巾があり「ビジョンや理念と同じようなものだ」と言う人もいれば「善なる方向を目指すための指針である」など、いろいろな意見があります。

パーパス+パッション=生きがいと考えたとき、ある人のことを思い出しました。その人をAさんと呼びます。Aさんはフライングディスクを使ったスポーツに生きがいを感じていて、自らプレーを楽しむだけでなく周りのみんなが楽しめる雰囲気や場を作ってくれます。大会の参加メンバーを集めたり、懇親会の調整をしたりするとことは大変で、メンバーはいつも大いに感謝しています。Aさんは特定のチームをサポートしているのではなく、フライングディスク関連で困っている人がいると自然と助けているような人です。Aさんのパーパスは、フライングディスクを通じて人生を楽しむ人を一人でも多くしたい、ということだと思いますが、本人に確認したことはありません。

サークル活動、同窓会、自治会、勉強会などの場面ではAさんのような人にときどき出会います。金銭的な報酬なしに動いてくれる人に対して、好きでやっているのだろうな、と思うこともありますが、覚悟や使命感がなければ継続できないことも理解しています。Aさんのような人は、自覚的でも無自覚でも、パーパス&パッションによって行動しているのだと思います。

ビジネスの世界でもAさんのような人にときどき出会います。しかし、そのパッションの源泉が究極的には個人の利益だと感じると「パーパス&パッションの人」ではなく「パッション フォー マネーの人」に見えてしまいます。お金を稼ぐことに情熱を傾けることが悪いことだとは思いません。お金をもらう代わりに提供した物やサービスは必ず誰かの役に立っているはずです。しかし物やサービスを提供する動機において、マネーに対する情熱が強すぎると不正や不都合な事実に対して鈍感になるリスクがあります。

自分の仕事のパーパスってなんだろう?もう一度、問い直してみたいと思います。

2024年3月3日日曜日

危ない場面になる前に行動しよう『ISO通信』第92号

 

仕事柄、模擬面接の面接官役をやらせてもらうことがあります。
「これまで仕事をしてきた中で一番うれしかったことはなんですか」
との質問に対しては「お客様から『ありがとう』と言ってもらったときが一番嬉しいです」といった答えが一般的です。どんな場面で「ありがとう」と言われたのか、なぜ「ありがとう」と言ってもらえたのか、などの具体的な説明があると、その質問に対する納得感は高まります。
同じ質問に対してある人が
「かなり昔のことですが、上司から『お前のおかげでリスクがいつの間にか消えている』と言ってもらったときは嬉しかったです」
と答えてくれました。以下、この発言の主をAさんとします。
Aさんは中堅メーカーの製造部門で部下を管理する立場にありますが、若い頃に上司から言われた言葉がとても嬉しかったそうです。担当者として工場の操業を管理していた頃のAさんは、現場にゴミが落ちていれば自ら拾い、部品の置き場所が間違っていれば正しい位置に戻してから現場の担当者を注意したそうです。立場上、部品を正しい位置に戻しておくようにと作業員に命じることもできたAさんですが、製造過程でのミスが発生する前に処理をして、後から置き場所が間違っていたことを注意しました。
なんで自分がゴミ拾いまでしなければならないのか、と思うこともあったそうですが、上司である工場長から「危ないな、と俺が感じているとき、先回りして処理してくれるのは、だいたいお前だよ。事故が起きてからじゃ遅いからな。いつもありがとう」と言われて報われた気がしたそうです。

工場などの現場に限らず、整理整頓ができていなかったり、情報が錯そうしている状態を放置したりすると、なんらかのトラブルにつながることがあります。飲み会の当日に、幹事から「インフルエンザになってしまったので欠席します」と連絡があったとき、友人の一人が「店への人数変更の連絡は私からしておきます」と全員に返信する形で連絡してくれました。その友人も職場では、トラブルを未然に防いでいる人なのだろうと思います。

大きな事故が発生したとき、ある事象(原因Y)と別の事象(原因Z)が偶然に重なることさえなければ、事故は起こらなかったのにと後悔することがあります。原因Yと原因Zが、違和感はあるけど危ないとまでは感じないような事であったりすると、正しい状態に戻す行動をとる人は意外と少ないかもしれません。原因Yと原因Zを俯瞰して見ることができない場合、ある人が原因Zを取り除いても、それが大きなトラブルを防いだと評価することは困難です。
Aさんは「ちゃんと見てくれている人がいると分かってからは『自分がゴミを拾ったから、足を滑らせる人がいなくなったはずだ。だから自分の行動を評価してくれ』なんてセコい考えはなくなりました」と言っていました。そしてAさんは、部下の小さな行動にも気をくばり、あなたのおかげでリスクを回避できている、と伝えるようにしているそうです。

危ない場面の到来を未然に防いでいる人のことを、きっと誰かが見てくれています。

2024年1月31日水曜日

「アルムナイ」がカタカナ英語として定着したら『ISO通信』第91号

 


卒業生や同窓生を意味する「alumni」という言葉が、企業を退職した社員に対しても使われるようになってきました。カタカナで表記すると「アルムナイ」になります。日本では同じ学校を卒業した人の集団や同じ企業を定年退職した人の集団は「同窓会」や「OBOG会」と呼ばれてきました。もしかすると「アルムナイ」というカタカナ英語は、転職によって企業を「卒業」した人たちのネットワークを表す言葉として定着するようになるかもしれません。最近ではアルムナイとのつながりを積極的に維持しようとする企業も増え、ときには自社に戻ってくるように促すケースもあります。

かつては終身雇用が当たり前で「ムラ社会」のような閉鎖的なカルチャーの強い会社では、定年前に転職した人に対して「裏切者」や「脱落者」のレッテルを貼ることも珍しくありませんでした。しかし「裏切者」ではなく「アルムナイ」と呼び、自社を離れた人の先にあるネットワークを活用したり、社外の知見を得たアルムナイの意見を取り入れたりすることで、自社のビジネスを拡大しようとする時代になってきました。アルムナイの「出戻
り入社」が普通のことになってくると、社内に残っている人の意識も変わってきます。
“出戻り入社が許されるくらいなら、転職を考えていることも伝えた上で異動の希望を出しておこう”と考える人も出てきました。
転職相談の段階で「実は今の会社に対して異動の希望も出しています。異動の希望が通らない場合は、転職するつもりですが、そんな状態で応募してもいいですか」と言われることはたまにあるのですが「異動希望が通らない場合は転職するつもりであることを会社にも伝えています」と聞いたときは少し驚きました。昔の考え方なら「裏切者予備軍」であることを自ら公言しているようなものですが、出戻りOKの企業なら「アルムナイ予備軍」であっても問題ないのでしょう。

かなり昔のことですが、ある先輩から「転職を考えているなんて部長にバレたら終わりだそ」と言われたことがあります。その先輩は、私の昇給や昇格が遅れたり、左遷されたりすることを心配してくれたのだと思いますが、今ではその会社もキャリア採用に積極的で、出戻る人も珍しくなくなりました。
私がその会社を離れて10数年になりますが、今では会社の成長を外から応援しています。
以前はその会社を「中退」した感覚だったのですが「アルムナイ」という言葉を知って、卒業した人も中退した人も「アルムナイ」と思えるようになりました。