2025年12月21日日曜日

君は「ブルーカラービリオネア」になれるか?『ISO通信』第98号

 日経新聞が「ブルーカラービリオネア」をキーワードにして、いくつかの記事を掲載しています。「AIの進化でホワイトカラー的な仕事が減り、ブルーカラー的な仕事の人気が高まる。そして医者や弁護士以上の収入を得るブルーカラー人材も出てきた」を論旨にした記事もあれば「ホワイトカラーが減ると、やがてブルーカラー市場の労働力供給量が増えるので、賃金は高止まりしない」といった論旨の記事もあります。


30年くらい前のアメリカでは、ミリオネアが「大金持ち」を表す言葉でした。1ドル150円なら1億5000万円の資産を持つ人がミリオネアです。しかし長くインフレが続いた結果、アメリカにおいてはミリオネアでは「真の大金持ち」とは言えなくなったようです。その中で「ブルーカラービリオネア」という言葉が登場した背景には、AIに代替されにくいブルーカラー的な職種に就き、高度な専門技術や現場での希少な経験のある労働者が、高額の報酬を得るケースが顕著になったという、時代の変化があります。

日本には「億万長者」や、投資で成功を収めた人を指す「億り人」などの言葉があり、30年前も今も1億円の資産は大金持ちを表す一つの基準です。
先月、オーストラリアに出張して驚いたことの一つにコカ・コーラの値段があります。35年前、オーストラリアに1年ほど住んでいたのですが、当時は缶コーラの値段が50〜60セントだったと記憶しています。今回、コンビニで見かけた500ミリペットボトルの価格は5ドルでした。10倍近い値段です。豪ドルのレートを調べて見ると、偶然ですが35年前も現在も1ドル100円くらいです。オーストラリア人の同僚にコーラの話をすると、こんな会話になりました。

「35年も経っているのだから、当然だ。インフレとはそういうものだろう。日本ではどうだ?」
「日本では35年前は1ドルで、今は1.8ドルくらいだ」
「それはすごい。日本政府はどうやってインフレをコントロールしてきたのだ」
「いや、日本では政府がインフレをコントロールしてきたと評価されることはない。日本社会は長い間デフレに苦しんできたと言われている」  
「デフレも困るけど、インフレの方が生活は大変だ」

確かにインフレは大変です。日本でもコメの値段が上がると多くの人の不満が高まりますが、値段が下がって怒る人はあまりいません。しかし物価も賃金も上がらなかった結果「日本のものはなんでも安い。労働力の値段まで安い」と言われるような状態になっています。この状況は、長らく企業が「いいものを安く造る」ことに注力し、賃金上昇を抑制してきた結果であり、デフレの負の側面と言えます。

さて、次は友人との忘年会でブルーカラービリオネアについて話したときのことです。友人の一人は建設業の会社で採用に携わっています。
「新卒でもキャリア採用でも、ブルーカラー職種の人気が高まっているとは思えないなぁ。大学生に現場工事の実態を話すと、表情が曇るもの」
「ブルーカラービリオネアなんて、ありえないでしょ」
と、もう一人の友人。
「ビリオネアという言葉は大金持ちという意味で使っているだけだろうね」
「そりゃあそうだよ。だって日給100万円で毎日働いても、400年以上かかるよ」
とスマホの電卓で計算した友人が言いました。
「ハイパーインフレで日給が1000万円になったら40年か、それもないな」
「現実的にはブルーカラーミリオネアなんだろうけど、それじゃあ言葉のインパクトがないのだろうね」
するとそのとき
「あっ、ブルーカラービリオネアが一人いた」
と、スマホから目を離した友人が言いました。
「えっ?だれ?」
「誰でも知っている人だよ。ブルーのユニフォームを着て、毎日現場で働いている人」
うーん、と考えている私の横でもう一人の友人が「あー、なるほど、彼はホワイトカラーでも起業家でもないけど、ビリオネアだね。しかも冬場に仕事がない季節労働に従事しているともいえる」と言いました。
ようやく私も気づき「あー、大谷翔平か」となり、そこから先は野球の話で盛り上がりました。

大谷翔平さんは、常に野球のことを考え、データやビジネス界で使われる理論も駆使して野球のスキルを高めていると言われています。
ブルーカラービリオネアは無理でも、物価上昇の荒波を乗り切るためには、スキルやマインドを常にアップデートしていくことが大切です。

あなたが所属している組織はどこを目指していますか?『ISO通信』第97号

(以下は、2025年2月に『ISO通信』第97号として、メールマガジンにて配信した内容です。)

社会人オーケストラの団体でヴァイオリンを弾いていた友人と久しぶりに会話しました。

「今もヴァイオリン、弾いているの?」
「いやー、いろいろあって、ちょっと休憩中」
彼は大学時代に知り合った友人で、一時はヴァイオリンで食べていこうと考えたこともあるほどの腕前です。彼が直近で所属していたアマチュアオーケストラのレベルは、彼にとっては物足りなく、練習に行くたびに、もっと自分で練習してから合同練習に参加したらいいのに、と感じる人が何人かいたそうです。
「下手な人に対して『もっとうまくなってから来い』と言ったことはないけど、顔や態度に出ていたんだろうね。俺の方が浮いちゃってるというか、煙たい人みたいになってきたからやめた」
少し残念そうな顔で彼は言いました。
 
「磯はまだフリスビーやってんの?」
やがて彼に質問されました。
「年に数回かな。完全に引退したわけでもない」
「そうなんだ、シニア部門で日本一を目指す、とか言いながらやってるのかと思ったよ」
少し説明すると私はかつてフライングディスク(フリスビー)を使った団体競技で日本一を目指していました。そのチームは全日本選手権大会で準優勝したこともあります。しかし私はチームのレギュラーではありませんでした。いつかはレギュラーになる、という気持ちがなくなったとき、そのチームを離れました。次に所属したチームは公式戦で優勝を目指すようなチームではなく、楽しくプレーして美味しいビールを飲もう、というコンセプトのチームでした。「運動した後の美味しいビール」が目的になっているチームに日本一を目指しているような人は入ってきません。

どの団体に所属するかを決めるとき、その集団がどのレベルを目指しているのかを調べておくことは重要です。
転職を考えるときも同様で、自分が応募しようとしている会社がどこを目指しているのかを知っておくべきです。経営理念に「世界最高の水準を目指します」と書いてあるとき、その理念は過去に作られた「お題目」に過ぎないケースもあれば、現在進行系の熱い目標であるケースもあります。
ある業界で世界一になることを目指している経営者から
「ワークライフバランスを重視する人には向かない会社だと思って下さい。しかし、どんな時代になっても世の中から求められる人材に育てる自信はあります」
と言われたことがあります。転職を考えている人にこの言葉を伝えるとひるんでしまう人も多いのですが「ホワイト過ぎてゆるい会社よりもいい」と考える人もいます。

選択をする際には自分自身の価値観や目標を明確にしておく必要があります。フライングディスクの仲間には「仕事はお金を稼ぐため、アルティメット(フライングディスクの競技名)第一」と公言している人もいれば、仕事での充実を求めて競技から離れた人もいます。
遊びでも仕事でも、何かに熱中すると人は成長したくなるようで、退屈な人生を送らずにすみます。
働きながら「退屈だ」とか「窮屈だ」と感じている場合は、組織が進もうとしている方向と自分の価値観がずれているのかもしれません。

「この集団に所属すれば、自分の成長意欲が減退することはなさそうだ」
転職を考える際には、そのような視点で応募先を探してみてはいかがでしょうか。