8月のことですが、盛岡の夏祭り「さんさ踊り」を観ました。4日間のお祭りに、208団体の2万7千人が踊り手として参加したそうです。当日は、2時間ほどの見学でしたが、大通りが華やかな踊り手たちで埋め尽くされる様子は壮観でした。配られていたパンフレットには参加団体名があり、その多くは地元企業の名前でした。しっかり練習して本番に臨んだと思われる団体と、そうでなさそうな団体とでは踊りの迫力が違います。そんな中、全員が楽しそうに踊っている集団があったので、パンフレットで調べてみると企業ではなくサークルの名前が記されていました。なるほど、踊ることを命じられている人と踊りたくて集まっている集団では、踊りのキレや表情に大きな差があることが分かりました。すると隣の方から
「普通、こういうのってさぁ、お偉いさんはノリノリで、若手はイヤイヤなんだよね。でもここは全員楽しそう」
という声が聞こえてきました。若い友だち同士で観光に来ている人のようです。「ここは企業のグループじゃなくて、踊りたい人だけが集まっているサークルみたですよ」と伝えたくなりましたが、やめておきました。
さて、30年以上前のことですが、上司の上司の、そのまた上司だった部長から「なんで今の若いやつらは愛社精神がないのかなあ」と面と向かって言われたことがあります。新入社員だった私は「愛社精神って、今の時代でも使われている言葉なんだ」と驚きました。もちろん部長にそんなことは言えません。この部長は豪快なタイプで、部下からの人気もある人でした。あるときその部長が私にこう言いました。
「磯、自販機でタバコ買いたいんだけど小銭がないから、100円ちょうだい」
おそらく私の目は点になっていたと思います。
「100円貸して、と言ってもどうせ返すの忘れるから、ちょうだい、と言っておく」
と部長は付け加えました。すごいなぁ、この会社で偉くなると、100円が俺にとっての10円くらいの価値になるのか、とさらに驚きました。そのときの私が、しぶしぶと部長に100円あげたのか「すみません、今、小銭がありません」と切り返して難を逃れたのかは忘れました。
もしその部長が「私は部下の愛社精神が高まるように日々、若手を教育しております」と社長に報告するタイプの人だったなら、部下からの人気を得ることはなかったはずです。私がその部長を好きになったのは、新入社員に100円くれと話しかけてくる気さくさにあったのだと思います。
今の時代に愛社精神を植え付けようとする人がいれば、社員はむしろ引いてしまうでしょう。愛社精神やエンゲージメントは誰かに強制されて高まるものではありません。この会社の一員であることに誇りを感じる、この人たちと一緒に働くことが楽しい、今の仕事にやりがいを感じている、そんな気持ちが自然と湧いてくる職場を作るにはどうすればよいでしょうか。
・組織の存在意義やパーパスを1on1ミーティングでしっかりと伝える。
・一人ひとりのメンバーが裁量権を持つ仕組みをつくり、やりがいを感じてもらう。
・会社のイベントを充実させ、仲間意識を高める。
など、いろいろな手段がありますが、気軽にコミュニケーションが取れる職場であることも重要です。周りの人に、いきなり「100円ちょうだい」と言ったら驚かれますが「ランチに行ったレストランの料理がおいしかった」「この前、読んだ本がおもしろかった」などと、ちょっとした話を自分からしてみることが、最初の一歩になるかもしれません。
