2023年3月26日日曜日

卵が先か、賃金が先か?『ISO通信』第81号(2023.3.26)

 


「たまごの値段が上がっていて、ビックリした」
「ついにたまごも物価の優等生じゃなくなっちゃったね」
「最近は、何が物価の優等生って言われているか知ってる?」
「うーん、なんだろう?」
「賃金」
少し前に聞いたジョークですが、つい笑ってしまいました。

たまごと賃金、どちらが物価の優等生なのだろうと気になり、調べてみました。
まずは、たまご。以下はLサイズ 1kg当たりの東京での標準価格です。
2000年3月1日:220円
2005年3月1日:265円
2010年3月1日:165円
2015年3月2日:203円
2020年3月2日:190円
2023年3月1日:330円
JA全農たまご株式会社が公開している「相場情報」のサイトで検索した結果です。(相場情報では土日や祝日を除く毎日のデータを検索することができます。)
長い間、200円前後で推移していた価格が直近では330円になっているので「物価の優等生ではなくなってしまった」と感じるのも納得です。

では賃金はどうでしょう。大卒初任給を厚生労働省のサイトで調べてみました。以下は賃金構造基本統計調査から抜粋した数字です。
2000年
男性:196,900円
女性:187,400円

2005年
男性:196,700円
女性:189,300円

2010年
男性:200,300円
女性:193,500円

2015年
男性:200,200円
女性:198,800円

2019年
男性:212,800円
女性:206,900円
(厚労省は初任給に関する調査を2019年で終了しています。終了の理由を探してみましたが、見つかりませんでした。) 
初任給も「物価の優等生」と揶揄されてしまうほどの安定ぶりです。しかし、賃金にも上昇の気運が表れてきました。今年の春闘ではトヨタ、ホンダ、日産、日立製作所、パナソニックHD、三菱電機、富士通、川崎重工、三菱重工などの大企業が労働組合の要求に満額で回答しています。ホンダでは春闘の結果が実際に反映される6月以降、大卒初任給が25万円1千円になるそうです。
政府主導の賃上げ要請は数年前からありましたが、今年の賃上げに関しては、物価上昇で家計が悲鳴を上げ、経営者も組合の要求に理解を示したのでしょう。

さて「賃金が上昇するとやる気も上がる」ということになるのでしょうか。
モチベーションの研究で有名なハーズバーグの「二要因理論」によると、賃金の上昇は不満を解消する要因となっても満足度を高める要因にはならないそうです。(満足度を高める要因となるものは達成感や成長実感など。)
「賃金が高くても達成感がなければ満足できない。達成感や成長実感があっても賃金が低ければ不満は残る」ハーズバーグ先生の理論をそんな風に単純化して覚えていたのですが「二要因理論」という言葉は頭の中に残りにくいと感じます。英語の「Two-factor theory」の方が覚えやすい気がするので「よい職場には不満を解消させるファクターと満足度を高めるファクターの両方がある」と覚えたいと思います。
経営者が社員に対して「高い給料を払っているのだから文句を言うな」と言いたくなったら、どのファクターが不足しているのかを考える必要がありそうです。
 
(モチベーションとやる気の違いや、そもそも「やる気」ってなんだろうという疑問も出てきたのですが、長くなりそうなので、また別な機会に。)

2023年2月25日土曜日

ChatGPT VS.吾輩 『ISO通信』第80号


 話題の人工知能ツール「ChatGPT」に原稿を書いてもらいました。

私が依頼した内容は下記です。
“ 『ISO通信』のような文体で記事を書いて下さい。今回のテーマは「日本社会において、年功序列と成果主義はどちらが好ましいか?」です。”
この依頼に対して出来上がった原稿が下記の内容です。

===以下の内容は「ChatGPT」が作成した文章です。===
皆さん、こんにちは。今回は、日本社会において年功序列と成果主義のどちらが好ましいかというテーマについてお話しします。

まず、年功序列についてですが、これは昔から日本の企業や公務員の間で非常に重視されてきました。長年勤め上げることによって、徐々に昇進していくという仕組みです。これによって、経験やノウハウが重んじられ、職場での信頼感や安定感が生まれます。しかし、一方で、若手の新しいアイデアや手法を取り入れにくいというデメリットもあります。

一方、成果主義は、個人や組織の能力を最大限引き出し、成果を重視する考え方です。目標達成や生産性の向上を目指して、業績や実績に基づいた報酬や評価を行います。これによって、モチベーションが高まり、より良い成果を生み出すことができます。しかし、成果を達成できなかった場合には、厳しい評価が下されることもあります。

では、日本社会において、どちらが好ましいかというと、一概には言えません。企業や業界によっても異なるでしょうし、個人の価値観や性格にも影響を与えます。ただし、今後の社会情勢を考えると、成果主義に価値があると思われます。グローバル化が進む中、日本企業が競争力を維持するためには、新しいアイデアや技術を積極的に取り入れ、成果を上げることが必要不可欠です。また、世代や背景の違う人々が多様な価値を持ち合わせている現代社会において、年功序列だけでなく多様性を尊重し、成果主義的な考え方を取り入れることが、企業の活性化につながると考えられます。

以上、今回は年功序列と成果主義の両方について考えてみました。皆さんも、自分に合った働き方を見つけ、成果を上げることで、より豊かな人生を送っていただければ幸いです。
===以上の内容は「ChatGPT」が作成した文章です。===

うーん、なんとなく私が書きそうな文章のような気もするし、違うような気もします。
そこで「夏目漱石のような文体で記事を書いて下さい。今回のテーマは『日本社会において、年功序列と成果主義はどちらが好ましいか?』です。」とインプットしてみました。
そして出来上がった原稿の冒頭が下記です。
「余は夏目漱石である。日本の社会には、年功序列と成果主義という二つの価値観がある。」
「吾輩」じゃないのかよ、と思わずツッコミたくなりました。次に「夏目漱石」の代わりに「紫式部」と入れてみました。
「私が生きた平安時代においては、あまり年功序列という言葉は聞かれなかった。しかし、家柄や出自によって社会的地位が決まることが多かった。その一方で、才能ある人はそれを示し、自らを高めていくことが重要視されていた。」
こんな文章で始まり、原稿全体では800文字くらいの量になっています。

続いて、世界的にも有名な作家の名前を入れてみました。現役のかたなので名前を控えますが、出来上がった原稿の冒頭は下記です。
「僕が思うに、日本社会において年功序列と成果主義は、どちらが好ましいかという問いかけ自体が、あまりに単純化されすぎている。」
正直「怖い」と感じました。「この原稿は紫式部が書いたものです」と言っても信じる人はいませんが、現役の作家の名前を使って「作家の〇〇さんは、年功序列と成果主義に関して、次のような意見を述べています」と書いて、ChatGPTがつくった文章を載せたら信じる人も出てきそうです。

ChatGPTが作った文章を読むと、明らかに誤りであると判断できるものもありますが、自分に知識がない分野の記述に関しては「なるほどそうかもしれない」と思える文章の方が多い印象です。
現時点では「出てきた回答を鵜呑みにしてはいけない」「内容については検証が必要である」と感じますが、利用者が増えて情報の精度が高まっていくと「まあ、信じてよいのだろう」という方向に気持ちが変わっていくような気もします。
そのような段階になっても「あれ、何かへんだそ」と感じるアンテナを自分の中に残しておかないと、AIにコントロールされてしまうことになりそうです。

さて、『ISO通信』は月に1回のペースで書いていますが今回で第80号となりました。「この話と同じようなこと、前も書いたなぁ」と思うことが増え、ネタ探しに苦労するのですが、今回はちょっとズルして、文字の半分くらいをChatGPTの文章で埋めました。
ちょっとズルしちゃったな、と思う気持ちが人間ですが、あと1年も経つと『ISO通信』の内容が、着眼点のすばらしい論理的な文章になっているかもしれません。その時は「あ、これ、全面的にAIが作成した文章だな」と思って下さい (笑)

2023年1月30日月曜日

情報化社会のスピード感 『ISO通信』第79号

 「世界は常に変化している。現代はこれまでの歴史において最も変化のスピードが速い時代である。しかし、今日を起点とした歴史がこれから始まるなら、2020年代は変化の速度がもっとも緩やかだった時代と評価されるだろう」
これは、トランサーチ(私の所属先)のロンドン本部が各国のメンバーに向けて行なったセミナーで聴いた言葉です。
英語で聴いたセミナーだったので、少し意訳していますが、覚えておくべき言葉としてメモしました。

さて、次の文章は、上記のセミナーで聴いた言葉ではありません。
"やや先ばしったいいかたになるかもしれないが、わたしは、たとえばコンピューターのプログラムのかきかたなどが、個人としてのもっとも基礎的な技能となる日が、意外にはやくくるのではないかとかんがえている。すでにアメリカでは、初等教育においてコンピューター用の言語 FORTRAN をおしえることがはじまったようだ。"

FORTRAN? いつの時代の話をしているの?と思った方もいるかもしれません。しかしこれが、1969年に出版された本(梅棹忠夫 著『知的生産の技術』)にあった文章だと知ったら驚くのではないでしょうか。
プログラミング言語のFORTRANは1950年代に開発されたそうです。1969年当時、アメリカの初等教育において、どのようにプログラミングが教育されていたのか存じません。しかし、日本の小学校でプログラミングが必修化されたのは2020年度です。
IT分野に関して日本は周回遅れと言われますが、アメリカとは半世紀の差があったようです。(kindleの「あなたへのおすすめ」に従って読んだ)『知的生産の技術』に書かれていた内容をもう少し紹介します。以下、仮名づかいも含めて引用です。

“社会には、大量の情報があふれている。社会はまた、すべての人間が情報の生産者であることを期待し、それを前提として組み立てられてゆく”
“情報産業こそは、工業の時代につづくつぎの時代の、もっとも主要な産業となるだろう”
これらの文章を読んで、著者の梅棹忠夫氏(故人)も変化のスピードが常に最速であることを意識していたのだろうと想像し、冒頭の言葉を思い出しました。

SNSの普及で、すべての人間が情報の生産者になれる時代になりました。社会には大量の情報があふれ、Amazon、Google、facebookなどがおすすめしてくれる情報が、私にとっての身近な情報になっています。そして「50年以上前からプログラミング教育が実施されていた国には、ちょっとかなわない」と思ってしまいました。
しかし、サッカーボールの中に内蔵されたICチップのおかげで、ボールが1ミリだけ線の上に残っていたか否かを判別できる時代です。また、家の鍵をかけ忘れたときに外からスマホで施錠ができる時代です。このようなIoTの分野なら、工業に強みがある日本にもチャンスが残されていそうです。

明治維新の頃や太平洋戦争が終わった頃、日本は先進国と50年以上の差があったのではないでしょうか。IT分野に50年の差があるとしても、きっと追いつけるはずです。

個人的にはIT分野が得意とは言えませんが、知識を常にアップデートし続けることの重要性も『知的生産の技術』に書かれていました。時代から置き去りにされないように、古い本からも新しい本からも学んでいきたいと思います。

2022年12月30日金曜日

PK戦も社内プロジェクトも、立候補した人に任せてみる? 『ISO通信』第78号

 

サッカーに関しては、ワールドカップのときだけ盛り上がる「にわかファン」なのですが、今年の日本代表チームは過去に例のないくらい「一体感」があるように見えました。ゴールが決まった瞬間は控えの選手まで喜びを爆発させていて、全員が一つの目標に向かっていると思えたのです。過去の代表チームが得点した場面を忘れているので、客観的に比較できるわけではありません。しかし、PKを蹴る選手を立候補で決めていたことについて色々と考えているうちに、やはりこのチームは一つにまとまっていたのだと思えました。

日本はPK戦の末クロアチアに破れ、ベスト8に残ることができませんでした。PKを蹴る選手を立候補で決めていたことを知ったとき、最初は疑問に思いました。PKを蹴る選手は監督が決めるべきだと思ったからです。プレッシャーのかかる場面で、どの選手をどの順番で使えば勝てる確率が高いのか、それを決断するのも監督の仕事です。代表チームの森保監督は立候補した人に蹴らせることが、最高のパフォーマンスにつながると考えたのでしょう。
しかし、それでいいのでしょうか。一番下手な人が立候補したらどうするのだろう?それが最初の疑問でした。日本を代表する選手たちなので、スキルにほとんど差はないのだろうと思ったき、二つ目の疑問が浮かびました。
チームメイトから嫌われている人が立候補したらどうするのだろう?と思ったのです。
「ちょっと待て!お前が蹴るくらいなら、俺が蹴る」
そんなことを言い出す選手が現れたりしないのでしょうか。おそらく、その心配がなかったのだと思います。立候補するだけの自信がある選手や、勇気を出して「蹴る」と言える選手にPKを任せることができた。それをチームの全員が納得できたのでしょう。

ビジネスのシーンでも何らかのプロジェクトを始めるときに、立候補でメンバーを募るケースがあります。しかし、いつも同じような人が立候補している状態になっていないでしょうか。そして周囲の人が「またあの人が目立とうとしている」とか「立候補の形はとっているけど、どうせ上司が根回ししているのだろう」と思っているなら、チームに一体感があるとは言えません。

立候補した人に命運を託すような気持ちになれるチームを、森保監督がどのようにして作ったのかが気になり、インタビュー記事をサイト上で探してみました。
・個々の選手に自分の良いところを出してもらう。
・強い上下関係ではなく、フラットな組織づくりを目指す。
・個人の自主性と規律の両方を大切にする。
・全員で切磋琢磨し、個々の力をレベルアップさせる。
ニュース記事を拾い読みした印象としては「ボス型のリーダーシップ」よりも「サーバント型のリーダーシップ」に近いと感じました。マネジメントのスタイルやリーダーシップのあり方に唯一の正解はありません。しかし、立候補した人が称えられ、応援されている状態なら「その組織を離れたくない」「自分も入りたい」と思う人が増えていくでしょう。

2022年11月25日金曜日

パワハラと指導の境界線 『ISO通信』第77号


「私の部下だった人物は、後年、パワハラを否定しました。しかし、会社はパワハラ認定を取り消そうとしないので、転職を考えるようになりました」

40代後半の男性から、3年ほど前に聞いた言葉です。以下では、その男性をAさんとし、かつてAさんの部下だった20代の男性をBさんとしています。

Aさんの主張による事実関係は以下となります。
・Aさんのグループに新卒2年目のBさんが異動してきた。
・Aさんのグループには他にも複数の若手社員がいた。
・部下に対する指導に関しては、必要に応じて厳しい態度をとることもある。
・それは部下が成長することを願っているからであり、いやがらせをしているつもりは一切ない。
・指導の方法に関しては、Bさんに対しても他の若手に対しても差をつけることはない。

・ある日、Bさんのお母さんが、会社の総務部に対して、私(Aさん)がBさんにパワハラしていると訴えてきた。
・Bさんのお母さんとBさんが、総務部に対してどのような説明をしたのか、詳しい話を総務部から聞いていない。
・総務部は私の説明をあまり聞いてくれなかった。
・そして、私の指導はパワハラに該当すると認定され、私は他部署に異動することになった。

・それから2年が経ち、Bさんからメールで連絡がきた。
「Aさんに指導してもらったからこそ、今の自分がある。Aさんの下にいたときは、つらいと感じていた。しかし、あれから2年が経ち、Aさんの指導方法が正しかったと今では思う。あの頃は気持ちがへこんでいたので、母親の行動を止める元気がなかった。今考えれば、パワハラというほどのものではなかった」
・Bさんは総務部に対しても同じことを言ってくれた。しかし、総務部はパワハラ認定を取り消すつもりはなかった。
・過去のパワハラ認定が誤りだったことを認めると、自分たちの評価が下がることを恐れているのだろう。
・異動先の部署で頑張り、指導方法も変えなかったのは、自分が正しいと信じていたからであり、いつか会社もそれを分かってくれると思っていた。
・しかし、Bさんがパワハラでなかったと言ってくれたのに、それを認めない会社に愛想がつきたので、転職することを決意した。
こうしてAさんは3年ほど前に転職しました。
立場上、Bさんの主張を聞くことはできないので、上記はAさんから見た事実となります。また、Aさん個人の特定を避けるため、これまでの内容には少し脚色があります。

現在のAさんは部長の立場であり、社長から厳しい指導を受けることもあるそうです。
「うちの社長は、厳しく指導する人と優しく指導する人を意識的に分けていると思います。厳しくされているグループの方が期待されていると思ってしまう私はマゾ体質ですかね」
と言って笑っていました。
Aさん自身は、部下を厳しく指導することをやめたそうです。
「パワハラに過剰反応する世の中になってしまいましたからね。しっかり教えてあげれば、もっと伸びる若者もいるのに、もったいないですよ。でも、これが今の日本の姿ですね」
Aさんはそんな風にも言いました。

私自身はパワハラに関しては断固反対の立場です。しかし、日本人はリスクをゼロ化する方向に過剰反応しやすいと思うこともあります。
「しっかり教えてあげれば、もっと伸びる若者」と「指導を受けなくても、自発的に学べる若者」の差が、大きく開いていく時代になりそうです。
指導がハラスメント化しないように注意しつつ、伸びしろのある人たち(若者もベテランも)を導いていくのがリーダーの役目であると思います。

2022年10月29日土曜日

会社が分割されたら痛みを感じますか? 『ISO通信』第76号

 


会社を廃業することを決意した男性から、転職についての相談を受けました。 
「ジリ貧になる前に撤退しました。黒字で借金のない今が会社を畳むときだと判断しました。しかし、世間は私を経営に失敗した人だと思うでしょう。転職活動で苦労することは覚悟しています」
とその男性(Aさん)は言いました。Aさんは電気工事を請け負う会社を経営していましたが、後継者がいないことや競争の激化で利益水準が下がっていることから、廃業を決意したそうです。
「創業して50年、父の跡を継いで20年。利益が出ていないわけじゃないのに、なぜ廃業なのかと散々に言われました」
私はAさんに
「何度も聞かれたと思いますが、M&Aで譲渡することは考えなかったのですか」
と質問しました。
「私にとって会社は自分そのものでした。半分に分割されたり、そっくり他人のものになってしまうことは耐えられませんでした。ほとんどの社員の行き先を世話することができたので、最低限の責任は果たしたと思います。M&Aの会社の人からは、譲渡先を探せば数億円で売れますよ、と言われましたが、自分で将来性がないと思っている会社を高く売る気にはなれませんでした」
この発言を聞いて、いろいろなことが頭に浮かびました。
・非常に潔い人だ。
・自分が社長なら、M&Aで高く売りたいと考えるだろう。
・実際には、経営状態が厳しくて売れる状態ではなかったのかもしれない。
などと考えましたが、真っ先に思ったことは会社を自分の体のように感じていることの凄みでした。
体を半分にされるくらいなら、廃業を選んでしまうというのは、経営者のエゴかもしれません。しかし、それくらいの覚悟がないと、会社を存続させることは難しかったのでしょう。

この話を聞いて、かつての上司から叱責されたときのことを思い出しました。
「お前はなぁ、社長の気持ちになって仕事したことなんてないだろ!俺はあるよ。俺は社長にはなれないけど、社長の気持ちにはなれるんだよ!」
当時の私は課長にもなっていなかったので、社長の気持ちなれと言われてもムリ、と内心で思いました。しかし後から考えて「社長にはなれないけど、社長の気持ちにはなれるんだよ」と言った部長の言葉をカッコいいと思いました。そして、自分が担当している顧客の前では、自分が会社を代表しているつもりで会話するようになりました。しかし、交渉が行き詰まると先方の課長から
「磯さんと話してもらちがあかないので、部長の〇〇さんと一緒に来て下さい」
と言われてしまいます。そんなとき
「部長が来ても、社長が来ても、私と同じことを言うはずです」
と言ってみたこともあるのですが、実際は部長が妥協点を示して交渉がまとまることがほとんどでした。

それでも、自分が会社を代表している気持ちで仕事に臨むことは大切です。それを習慣にしていれば、会社を自分の体のように大切にしている人からも信頼されるようになるでしょう。

2022年9月23日金曜日

踊るダイバーシティー 『ISO通信』第75号

 


手元に本がなかったので、久しぶりに書店に入りました。Amazonで本を探すときと違い、いろいろなジャンルの本が目に入ってきます。
そして購入したのが『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(ブレイディみかこ著)でした。
2019年6月に刊行された本ですが、すでに文庫化されています。ご存じの方も多いと思いますが、著者は福岡県出身の女性でアイルランド人の男性と結婚し、英国で暮らしています。本のタイトルにある「ぼく」が著者の息子さんのことだと分かると「イエローでホワイトだと、ちょっとブルーになることもあるのだろうな」と想像することができます。そして「人種差別や多様性などについて書いてある本なのだろう」と思い、分かったようなつもりになって、買って読むまでの気持ちになりませんでした。しかし友人の勧めもあって読んでみると、新鮮でとても面白い本でした。
本の一文を引用させてもらうと「多様性は、うんざりするほど大変だし、めんどくさいけど、無知を減らすからいいことなんだと母ちゃんは思う」とあります。ダイバーシティー、移民、格差社会などの問題について詳しい人なら「やっぱり想像できそうな内容なので、一冊まるごと読むのは時間に余裕のあるときにしよう」と考えるかもしれませんが、そんな風に思った人にこそ、是非、読んで欲しい本です。

本を読みながら、半年ほど前のオンラインセミナーでの議論を思い出しました。セミナーのテーマは『労働力人口の減少』で移民の受け入れが解決策の一つとして提示されていました。セミナー後半のフリートークの様子を会話形式で記載してみます。

Aさん「日本社会はまだ、移民を受け入れられるほど寛容ではないので、私は反対です」
Bさん「私は移民の受け入れに賛成です。人手不足の問題を解決するには、外国人と共生できる社会を作っていくことも重要だと思います」
Aさん「近所に外国人がたくさん住んでいる団地がありますが、うるさいんですよ。住民の20%くらいが外国人で、休日になると団地の外からも仲間が集まってくる。昼間っから階段の踊り場で飲んだり、歌ったりしている。常識がないんですよ」
Bさん「近所迷惑にならない範囲でやってもらうように頼むしかないと思うのですよね。頼むという言葉で弱いなら、教育する でもいいかもしれません。日本社会のルールやマナーを覚えてもらうように、日本人も努力すべきじゃないですか」
Aさん「教育して効果のある連中ならいいですが、簡単じゃないんです。他の皆さんにも聞きたいのですが、自分の家のとなりに、家賃が安くて外国人もOKの公営団地が建ちそうになったらどうします?歓迎したい人は手を挙げてください」
オンラインセミナーの画面には20人以上の人が映っていましたが、挙手したのはBさんともう一人だけでした。
Aさん「外国人と共生できる社会をつくることは大切だと思います。でも、いざ自分の家の隣に来るとなったら、心の準備が出来ていない人が多いと思います」
時間が限られているため司会者が場を収めて次の話題に移りましたが、気持ちの中にモヤモヤが残りました。

前述の本を読んでこの件を思い出し、そして義父のことも思い出しました。義父は自治会長を務めていて「外国の人にも盆踊りに参加してもらいたいし、向こうの国の踊りを披露してもらう時間もつくりたい」と言っていました。コロナ禍で地域のお祭りは見送りが続いていますが、次のお祭りのときに外国の人がいたら、話しかけてみたいと思います。
仲良くなれば「うるさい」を「賑やか」と感じるかもしれません。

2022年8月28日日曜日

プロとって本番の日はいつ? 『ISO通信』第74号

 


プロ野球に興味のない方にも読んで頂けると嬉しいのですが、今回はプロ野球中継を観ながら感じたことをテーマにしてみました。

私は横浜DeNAベイスターズのファンです。前身の大洋ホエールズ時代からこのチームを40年くらい応援していますが、優勝したのは1998年の一度だけです。プロ野球のセントラルリーグには六つの球団しかないので、もっと頻繁に優勝してもいいはずですが、私が生まれた年(1969年)まで遡っても、優勝の記録がありません。そんな球団、唯一無二です。

強いチームと弱いチームの差について、プロ野球ファンの友達と議論したとき「弱いチームにいると負け癖がついて、試合の後に反省することもないから弱いのだろう」と言われたことがあります。そのときは「プロの選手なのだから、チームが負けても個人としての反省くらいするだろう」と反論したのですが、最近の試合を観て「反省の質」に違いがあったのかもしれないと考え直しました。

今年のベイスターズは、現在のところ2位であり、もしかすると優勝するかもしれません。テレビに映る選手の表情は真剣そのもので、こんな顔つきで毎日試合をしていたら、個人のレベルも上がるだろうと感じました。たとえ負けたとしても、投手が「なぜあの球を投げて打たれてしまったのだろう」と反省し、打者が「なぜ、あのとき空振りしたのだろう」と考えれば次の機会に活きてくるはずです。

翻って自分のことを考えると、最近は「毎日が本番」と思って仕事する習慣を忘れていました。スポーツには練習と本番の試合がありますが、本番の試合に優る鍛錬の場はないと考えています。もちろん練習の成果が試合に現れるのですが、真剣勝負の本番では練習では感じることのできない緊張感があり、その中で力を発揮できる人が、さらに高いレベルに到達できます。

私は、フライングディスクのアルティメットという競技に長く親しんでいて、週末に練習し、年に数度の大会に参加する生活を繰り返していました。40歳を過ぎてからは、練習や大会に出る機会も減り、試合でくたくたに疲れると「明日から仕事かぁ、休みたいな」と思うこともありました。大会の翌日に休暇を取ることもありますが、仕事の前日には「お金を払ってくれるお客さんは、仕事の延長線上にいるのだから、アルティメットは趣味で、明日からが本番だ」と気持ちを切り替えていました。

コロナ禍を言い訳にアルティメットから離れてしまったせいか「毎日が本番」と思う機会がなくなっていました。そしていつもと同じように毎日を過ごしていると、日々の反省の大切さも忘れてしまいます。
ベイスターズの選手のピリッとした表情を観て、本番を意識して仕事する気持ちを思い出しました。「自分が頑張ればベイスターズも優勝できる」という願を掛けて、24年ぶりの勝利の美酒に酔える日を待ちたいと思います。

2022年7月30日土曜日

65歳以上で働く人が1,000万人を超える時代へ!? 『ISO通信』第73号

2011年から2021年までの10年間で、65歳以上の就業者数が341万人も増えています。
総務省統計局が今年の2月に公開した「労働力調査」の資料を見る機会があり、シニア世代の就業者数が大きく伸びていることに驚きました。

労働力調査の中に「年齢階級別就業者数の推移」という表があり、2011年と2021年を比較すると以下の数字になります。 
                     2011→  2021
15歳~24歳:   481万人→   557万人 76万人 増)
25歳~34歳:  1,217万人→ 1,098万人 119万人 減)
35歳~44歳:  1,503万人→ 1,320万人 183万人 減)
45歳~54歳:  1,286万人→ 1,610万人 324万人 増)
55歳~64歳:  1,235万人→ 1,170万人 65万人 減)
65歳以上    571万人 →   912万人 341万人 増)
         6,293万人→6,667万人 374万人 増)
(出所:総務省統計局 「労働力調査(基本集計)2021年(令和3年)平均結果の要約 表1」)

上記の数字を見ると1524歳、4554歳、65歳以上の階層で就業者数が増えています。
「労働力調査(基本集計)」の参考資料に年齢階級別の総人口も記載されていました。

                      2011   → 2021
15
歳~24歳:  1,248万人→1,194万人 54万人  減)
25
歳~34歳:  1,544万人→1,277 万人(267万人 減)
35
歳~44歳:  1,893万人→1,545万人 348万人 減)
45
歳~54歳:  1,567万人→1,873万人 306万人 増)
55
歳~64歳:  1,898万人→1,520万人 378万人 減)
65
歳以上    2,967万人→3,635万人 668万人 増)
合計     11117万人→11044万人 73万人 減)
(出所:総務省統計局 「労働力調査(基本集計)2021年(令和3年) 参考表」

65歳以上の人口の増えっぷりがスゴイ!就業者数も増えるわけです。
45歳から54歳の層でも人口が増えていますが、これは団塊ジュニアの世代がその年齢になった影響であり、この年齢層も人口増が就業者数の増加につながっています。
しかし、15歳~24歳の層では総人口は減少しているのに就業者数は増加しています。考えられる理由として、外国人の増加がありそうです。

出入国在留管理庁の資料によると2010年に209万人だった在留外国人の数は、コロナによる影響が出る前の2019年では293万人に増えています。また、みずほ総研(現 みずほリサーチ&テクノロジーズ)が202099日に公開した『みずほインサイト』によると外国人の人口に関して“最も多い年齢階級は2024歳であり、また20歳から39歳までで全体の54%を占めている。(~中略~)外国人の増加は日本で進行する人口減少だけでなく少子高齢化による若年労働力の減少も緩和している。”とあります。
増加した就労者数76万人の内訳を示す資料を探すことはできませんでしたが、外国人の増加が大きく関係していそうです。 

高齢者就業に話題を戻しますが、今週は60歳前後のかたと面談する機会が多くありました。その年齢になって「新たな職場でもっと活躍したい」と考えている方々は、みなさん元気でチャレンジ精神も旺盛です。年齢が理由で役職を離れた人が多く、今の職場で力を持て余している様子を聞くと本当にもったいないと感じました。

ここで最初の数字をもう一度、見て下さい。65歳以上の就業者数が341万人も増えています。やがて65歳以上の就業者数が1,000万人を超える時代になりそうです。60歳は定年退職の年齢ではなく「まだまだ働ける即戦力の世代」と認識する企業も増えてきそうです。



2022年6月24日金曜日

ITで解決するか、気持ちで解決するか。 『ISO通信』第72号(2022.6.24)

 「指差し確認」の習慣に今でも助けられています。

新卒で入社した会社がメーカーだったので、指差し確認をしっかりと教えられました。指差し確認は「指差し呼称」や「指差し喚呼」とも言われ、見たものを指で差し、声に出して確認することでリスクを回避します。

駅のホームに入ってきた電車を駅員さんが指で差し「停止位置よし!」と言っている場面を見ることがありますが、停止場所のミスを防ぐための有効な手段だと思います。

私の場合、毎朝自宅を出る前に、財布、定期入れ、スマホなどの忘れ物をしないために指差し確認をしています。「財布よし!」「スマホよし!」とまでは言わないものの1、2、3、4と声に出しながら指で差し、忘れ物を防いでいます。
忘れ物をしがちな長男に「指差し確認すれば、忘れ物しなくなるぞ」と言ったら、意外な答えが返ってきました。
「指差し確認することを忘れたら意味がないじゃん。指差し確認したり、コツコツ努力することが苦手な人もいるからね。だから、忘れ物をしないようにITで解決したいんだよ。財布や定期券をスマホに入れようと考えた人は忘れ物の名人だったかもしれないよ」
プログラミングを覚えた長男は、不便なことがあるとITで解決しようと考えるようです。
長男の言葉を聞いたとき「何でもITで解決しようなんて安直だし、指差し確認で十分だ」と考える自分と「待てよ、不便なことがあったらテクノロジーで解決しようと思う人間が世の中を進歩させてきたのかもしれない」と思う二人の自分がいました。

私自身は、面倒くさいと感じたことを心の持ちようで解決しようとするタイプです。例えば、通勤。自宅でリモートワークできると楽ですがコロナ以前から通勤が苦ではありませんでした。電車の中は読書の時間、それ以外は歩行運動の時間と考えていたからです。在宅で仕事をしていると読書の時間と運動の時間をひねり出す努力が必要になります。通勤では読書と運動の時間を自動的に確保でき、街や季節の様子が目に入って来るので脳も刺激されます。そうは言っても、毎日通勤しているとリモートワークが恋しくなったりもします。

毎日オフィスに出たい人もいれば、全く行く必要を感じない人もいるでしょう。最適な出社率は人それぞれです。自分では60%の出社率が快適と感じた場合でも、もっとも生産性の高まる出社率は別な数字かもしれません。AIやITを活用して、本人が快適と感じる出社率と生産性が最高になる出社率をバランスよく計算してくれるアプリを開発してみたらどうでしょうか。「今週のあなたは3.5日の出社が最適です」とリコメンドされてその通りにしたら、周りの人は週に一度しか来ていなかった、ということがあったら、納得しがたい気持ちになりそうです。
勤怠管理にはITシステムが有効ですが、出社率は職場の雰囲気や労使交渉などのアナログな手法で決めた方がよさそうです。米国のアマゾンやアップルでも労働組合が結成されることになったそうですが、その背景に出社率をめぐる労使の攻防があったりして、と考えると最先端企業にも人間味を感じます。