2024年12月31日火曜日

生産性を上げて海外に行こう 『ISO通信』第96号

12月16日に日本生産性本部が公表した「産業別労働生産性水準の国際比較2024」を読みました。

サマリーのトップに「産業別にみた日本の労働生産性は、サービス産業で米国の5割の水準」とあります。生産性が低い原因の一例として、キメの細かい配達サービスが上げられていました。配達時間をこまかく指定したり、再配達を何度も行ったりすると、働く人の数や時間はたくさん必要になります。通常、再配達には追加料金が発生しないので労働生産性(就業1時間当たりの付加価値額)は下がることになります。

物流事業者が談合して、ひそかに、そして時期を微妙にずらしながら再配達を有料化したらどうなるでしょうか。公正取引委員会が黙認することは考えにくいので、やがて事件化するでしょう。では法律で再配達の有料化を事業者に義務づけたらどうなるでしょうか。私は再配達が無料であることを当たり前のように感じているので、法律によって有料化されたら腹が立ちます。しかし、少し前まではレジ袋も無料であることが当たり前でした。世の中が一斉に再配達の有料化を受け入れると再配達そのものが減り、物流業界の生産性は上がりそうです。

日本生産性本部のレポートから離れますが、ホテルや旅館のおもてなしがサービスとして格別なら、それを付加価値として価格に転嫁すべきとの意見があります。国内外の富裕層を対象としたサービスを提供する企業では従業員の賃金も上がっているようで、北海道のニセコではホテルの清掃アルバイトの時給が2,000円を超えることもあるそうです。

従業員の賃金が上がれば「安いニッポン」と言われる状況から脱却できますが、以前参加したオンラインセミナーで「観光地でいい思いができるのが金持ちの外国人ばかりでは面白くない。安くて質のいいサービスを提供してくれる会社に『値上げしろ』と言う必要はないのではないか」と主張した人がいました。その気持ちも分かります。高価格帯サービスと低価格帯サービスの質に大きな差がでると、格差を肌で感じることになり社会の分断につながるかもしれません。しかしセミナーの登壇者は「『安いニッポン』が常態化すると円安が進みやすく、海外から調達するエネルギーや食糧の価格が上昇することになる。やがて生活困窮者が増えてしまう」と言っていました。過去にはデフレと円高が同時に進行した時期もありますが、国内の賃金と物価が低い状況が続けば円安に向かう方が自然であると感じます。

最近のニュースによると「今年の年末年始はハワイ行きの国際便が過去最多となり、円安でも海外旅行の予約が好調」だそうです。

生産性の高い職場にいた人が転職すると、転職先の生産性が高まることもあります。人材紹介の仕事を通じて生産性の向上に寄与し、外国の物価が安いと感じる日本の復活に貢献したいと思います。

2024年11月16日土曜日

決断したら実行に関しても責任を持とう 『ISO通信』第95号

 


11月初旬にシンガポールで開催されたトランサーチグループのアジアパシフィック会議に参加してきました。インド、オーストラリア、タイ、マレーシアなどのメンバーとイギリスに住んでいるグループCEOがシンガポールに集まり、ビジョンやノウハウを共有することが目的です。
2日間の会議で、リーダーシップのあり方について議論したり、ゲストスピーカーの講演を聞いたりしました。 シンガポール在住のゲストスピーカー(ベンチャーキャピタルファンドの経営者)は、若いうちはとにかく学び、ミドルエイジになったら決断と実行を繰り返すことが重要だと強調していました。決断したことを実行すれば成功することも失敗することもあるが、失敗から学ぶことでより大きな意思決定ができるようになる、と言っていました。
講演後の雑談で、インドの同僚から「インドに駐在している日本企業の社員は、自分で決断することが極端に少ない。なぜいつも本社の意向を確認する必要があるのか」と質問されました。
「インドの現地法人が単独で判断して失敗したとき、インド事業を統括している本社の役員も責任をとらされるからだろう」と私が説明すると「それでは意思決定が遅くなるし、インドにいる社員が決断して実行する経験もできない」と言われました。雑談はすぐに別な話題に移ったのですが「日本の企業は相変わらずだな」と思われてしまったような気もします。私としては「日本でも優秀な若手が起業する例は増えてきたし、買収した会社に30代や40代の社員を経営者として送り込む企業が増えてきた」と伝えたかったのですが、飛び交う英会話のスピードに割って入ることができませんでした。 
 
買収した会社に自社の中堅社員を送り込んで「経営」を経験させる企業が増えてきた一方で、買収された会社ではプロパー社員の不満が高まっているケースもあります。ある人との面談では
「〇〇社の子会社になってから、役員のほとんどが親会社からの出向社員になりました。その人たちは、成功すれば自分の手柄、失敗したらプロパー社員の責任みたいな顔をしているので、転職を考えるようになりました」
と聞きました。自分で行ったことの手柄を取り上げられてしまえば、誰でも面白くありません。決断と実行と評価はバランスよくリンクする必要があります。実行した人より決断した人が評価されることもあれば、決断した人より実行者が評価されることもあるでしょう。しかし、手柄は自分のものにして、失敗したときは実行者のせいにする人の下では働きたくありません。
 
シンガポールのゲストスピーカーは「決断したら実行にも責任を持つべきだ。『部下が指示した通りに動かなかった』『お金を出して外部の会社に頼んだが、思ったような結果にならなかった』と言い訳して、自分の指示のどこに問題があったのかを考えなければ、また次も失敗する」と言っていました。
 日本でもシンガポールでも、結果を出している人の思考や行動パターンは同じだと感じました。

2024年8月31日土曜日

「TRANSEARCH」 に ご期待ください! 『ISO通信』第94号

月に一度のメールマガジンを書くことが昔は楽しかったのですが、ここ1~2年は少し苦痛と感じていました。なぜだろう?と思って6~7年前に書いた内容を読み返してみました。そして「うすうす感じてはいたけど、やっぱりそうか」と思いました。かつては恥ずかしいことも平気で書いていたのですが、最近はそれを避けようとする傾向が強くなっていたのです。恥ずかしいことの中身は、プライベートでの失敗だったり、勘違いしていたことの告白だったり、笑わせるつもりで書いたことがすべっていたり、などいろいろです。

しかし、ここ最近は「笑われてはいけない」 「賢くみられるような内容にしなければ」という気持ちが強くなっていました。会社において取締役に就任した頃から、メルマガのせいで会社の評判が落ちたら申し訳ないと感じていたのです。

そして今月(2024年8月)株式会社トランサーチ・ジャパンアソシエイツの代表取締役に就任しました。メルマガに書いていることは個人としての意見や考え方であり、会社を代表しての意見ではありません。しかし「変なこと書いちゃまずいなあ」という気持ちはますます強くなりました。一方で堅苦しくて、当たり障りのないものは、読んでいる人にとってはつまらなく、書いている私も楽しくありません。
今後は堅苦しい内容と下らない内容を織り交ぜていこうと思いますが「この人、アホやなあ」と思うことがあっても安心してください、社内の同僚はみんな優秀です。会社の水準は、メルマガから想像できる水準の数倍も上だと期待して下さい。

さて、今回は上記が本文で、以下はオマケの小ネタです。
先日、とある食堂で、隣のテーブルから会話が聞こえてきました。
若い店員さんに向かって、50代と思われる男性のAさんが
「お姉ちゃん、今日も美人だねえ」
と声をかけました。
苦笑いの店員さんを横にしてAさんの友人と思しきBさんが
「お前、それセクハラだよ」とたしなめます。
「ブスにブスって言ったらセクハラだけど、美人に美人って言うのは、褒めてるだけだろ」
「相手が困ってたら、それもセクハラなの」
「なんだよ、かっこつけて。お前の下心の方がよっぽどセクハラだろ」
「下心はいいんだよ。バレなきゃ、ダンディ。バレたらスケベおやじ。セクハラではない」
私はクスリと笑ってしまいましたが、店員さんはBさんに対してもセクハラと感じたかもしれません。本人が不快と感じたらBさんの発言もセクハラなのか、この程度ならセーフなのか。ハラスメントの境界線は難しいと感じました。

(以上はメールマガジンで配信した内容で、同じものをブログで公開しています。)

トランサーチのサイトへはこちらから。

https://www.transearch.co.jp/index.html

2024年6月29日土曜日

パーパス&パッションの人になろう! 『ISO通信』第93号


先月のことですが、ドイツに出張し、トランサーチ(私の所属会社)のグローバルカンファレンスに参加してきました。

トランサーチグループは世界の60都市に拠点があり、今回の会議には欧米各国の他、インド、ナイジェリア、ブラジルなどにあるトランサーチのオフィスから約80名が参加しました。

グループを統括するCEOは英国に住んでいる女性です。彼女は日本の文化や生活様式に対する理解が深く、ランチなどの席で一緒になると、周りの人に日本の良さを説明してくれることがあります。先日はフィンランド人やインド人に対して「ikigai(生きがい)と言う日本語を知っている?」と質問し、周りの人たちが「知らない」と答えると、彼女は「生きがいとはパーパス&パッションだ」と説明しました。

パーパスという言葉には巾があり「ビジョンや理念と同じようなものだ」と言う人もいれば「善なる方向を目指すための指針である」など、いろいろな意見があります。

パーパス+パッション=生きがいと考えたとき、ある人のことを思い出しました。その人をAさんと呼びます。Aさんはフライングディスクを使ったスポーツに生きがいを感じていて、自らプレーを楽しむだけでなく周りのみんなが楽しめる雰囲気や場を作ってくれます。大会の参加メンバーを集めたり、懇親会の調整をしたりするとことは大変で、メンバーはいつも大いに感謝しています。Aさんは特定のチームをサポートしているのではなく、フライングディスク関連で困っている人がいると自然と助けているような人です。Aさんのパーパスは、フライングディスクを通じて人生を楽しむ人を一人でも多くしたい、ということだと思いますが、本人に確認したことはありません。

サークル活動、同窓会、自治会、勉強会などの場面ではAさんのような人にときどき出会います。金銭的な報酬なしに動いてくれる人に対して、好きでやっているのだろうな、と思うこともありますが、覚悟や使命感がなければ継続できないことも理解しています。Aさんのような人は、自覚的でも無自覚でも、パーパス&パッションによって行動しているのだと思います。

ビジネスの世界でもAさんのような人にときどき出会います。しかし、そのパッションの源泉が究極的には個人の利益だと感じると「パーパス&パッションの人」ではなく「パッション フォー マネーの人」に見えてしまいます。お金を稼ぐことに情熱を傾けることが悪いことだとは思いません。お金をもらう代わりに提供した物やサービスは必ず誰かの役に立っているはずです。しかし物やサービスを提供する動機において、マネーに対する情熱が強すぎると不正や不都合な事実に対して鈍感になるリスクがあります。

自分の仕事のパーパスってなんだろう?もう一度、問い直してみたいと思います。

2024年3月3日日曜日

危ない場面になる前に行動しよう『ISO通信』第92号

 

仕事柄、模擬面接の面接官役をやらせてもらうことがあります。
「これまで仕事をしてきた中で一番うれしかったことはなんですか」
との質問に対しては「お客様から『ありがとう』と言ってもらったときが一番嬉しいです」といった答えが一般的です。どんな場面で「ありがとう」と言われたのか、なぜ「ありがとう」と言ってもらえたのか、などの具体的な説明があると、その質問に対する納得感は高まります。
同じ質問に対してある人が
「かなり昔のことですが、上司から『お前のおかげでリスクがいつの間にか消えている』と言ってもらったときは嬉しかったです」
と答えてくれました。以下、この発言の主をAさんとします。
Aさんは中堅メーカーの製造部門で部下を管理する立場にありますが、若い頃に上司から言われた言葉がとても嬉しかったそうです。担当者として工場の操業を管理していた頃のAさんは、現場にゴミが落ちていれば自ら拾い、部品の置き場所が間違っていれば正しい位置に戻してから現場の担当者を注意したそうです。立場上、部品を正しい位置に戻しておくようにと作業員に命じることもできたAさんですが、製造過程でのミスが発生する前に処理をして、後から置き場所が間違っていたことを注意しました。
なんで自分がゴミ拾いまでしなければならないのか、と思うこともあったそうですが、上司である工場長から「危ないな、と俺が感じているとき、先回りして処理してくれるのは、だいたいお前だよ。事故が起きてからじゃ遅いからな。いつもありがとう」と言われて報われた気がしたそうです。

工場などの現場に限らず、整理整頓ができていなかったり、情報が錯そうしている状態を放置したりすると、なんらかのトラブルにつながることがあります。飲み会の当日に、幹事から「インフルエンザになってしまったので欠席します」と連絡があったとき、友人の一人が「店への人数変更の連絡は私からしておきます」と全員に返信する形で連絡してくれました。その友人も職場では、トラブルを未然に防いでいる人なのだろうと思います。

大きな事故が発生したとき、ある事象(原因Y)と別の事象(原因Z)が偶然に重なることさえなければ、事故は起こらなかったのにと後悔することがあります。原因Yと原因Zが、違和感はあるけど危ないとまでは感じないような事であったりすると、正しい状態に戻す行動をとる人は意外と少ないかもしれません。原因Yと原因Zを俯瞰して見ることができない場合、ある人が原因Zを取り除いても、それが大きなトラブルを防いだと評価することは困難です。
Aさんは「ちゃんと見てくれている人がいると分かってからは『自分がゴミを拾ったから、足を滑らせる人がいなくなったはずだ。だから自分の行動を評価してくれ』なんてセコい考えはなくなりました」と言っていました。そしてAさんは、部下の小さな行動にも気をくばり、あなたのおかげでリスクを回避できている、と伝えるようにしているそうです。

危ない場面の到来を未然に防いでいる人のことを、きっと誰かが見てくれています。

2024年1月31日水曜日

「アルムナイ」がカタカナ英語として定着したら『ISO通信』第91号

 


卒業生や同窓生を意味する「alumni」という言葉が、企業を退職した社員に対しても使われるようになってきました。カタカナで表記すると「アルムナイ」になります。日本では同じ学校を卒業した人の集団や同じ企業を定年退職した人の集団は「同窓会」や「OBOG会」と呼ばれてきました。もしかすると「アルムナイ」というカタカナ英語は、転職によって企業を「卒業」した人たちのネットワークを表す言葉として定着するようになるかもしれません。最近ではアルムナイとのつながりを積極的に維持しようとする企業も増え、ときには自社に戻ってくるように促すケースもあります。

かつては終身雇用が当たり前で「ムラ社会」のような閉鎖的なカルチャーの強い会社では、定年前に転職した人に対して「裏切者」や「脱落者」のレッテルを貼ることも珍しくありませんでした。しかし「裏切者」ではなく「アルムナイ」と呼び、自社を離れた人の先にあるネットワークを活用したり、社外の知見を得たアルムナイの意見を取り入れたりすることで、自社のビジネスを拡大しようとする時代になってきました。アルムナイの「出戻
り入社」が普通のことになってくると、社内に残っている人の意識も変わってきます。
“出戻り入社が許されるくらいなら、転職を考えていることも伝えた上で異動の希望を出しておこう”と考える人も出てきました。
転職相談の段階で「実は今の会社に対して異動の希望も出しています。異動の希望が通らない場合は、転職するつもりですが、そんな状態で応募してもいいですか」と言われることはたまにあるのですが「異動希望が通らない場合は転職するつもりであることを会社にも伝えています」と聞いたときは少し驚きました。昔の考え方なら「裏切者予備軍」であることを自ら公言しているようなものですが、出戻りOKの企業なら「アルムナイ予備軍」であっても問題ないのでしょう。

かなり昔のことですが、ある先輩から「転職を考えているなんて部長にバレたら終わりだそ」と言われたことがあります。その先輩は、私の昇給や昇格が遅れたり、左遷されたりすることを心配してくれたのだと思いますが、今ではその会社もキャリア採用に積極的で、出戻る人も珍しくなくなりました。
私がその会社を離れて10数年になりますが、今では会社の成長を外から応援しています。
以前はその会社を「中退」した感覚だったのですが「アルムナイ」という言葉を知って、卒業した人も中退した人も「アルムナイ」と思えるようになりました。

2023年12月30日土曜日

どこから時間を捻出するか? 『ISO通信』第90号

 ドジャーズへの移籍が決まった大谷翔平選手のロングインタビュー(1224日のNHKスペシャル)を見逃し配信で観ました。途中で、AIを搭載した最新のピッチングマシンを使用してバッティング技術の向上に努めている様子が紹介されていました。このマシンはメジャーリーグに在籍している850人以上の投手のフォームをスクリーンに写しながら、それぞれの投手がどのようにボールを握っているかまで再現し、同じ球筋のボールを投げることができるそうです。普通の打者はマシンの中の打撃ボックスに立って実際にボールを打つのですが、大谷選手は打席に入らずに投手の映像と球筋を見ていました。そして「後ろや横から見ているのがいちばん感覚的にはよかった」と語っています。 

番組の最後の方でマシンの開発者が登場し「このAIマシンを使えばすべての打者が最高の選手になり、野球が偉大なスポーツになるんだ」と語っています。開発者としての思いは理解できますが、すべての打者が最高の選手になったら、同時に全員が標準のレベルになってしまうとも言えます。実際には、新しいマシンを使いこなすことができた選手ほど高いレベルに到達できるはずで、それができるのは大谷選手などのごく一部の選手に限られるのだろうと感じました。マシンと向かい合う時間を捻出することができる選手は、ほんの一握りだろうと想像したからです。これまでに利用していたマシンを最新のAI搭載マシンに取り換えるだけでも効果はあると思います。しかし850人の投球フォームやパターンを頭に入れようと思ったら、膨大な時間が必要になります。食事したり、睡眠したりする時間以外は常に野球のことを考えている選手なら、AIマシンを使う時間をひねり出すと思いますが、遊びや息抜きの時間も大切にしている選手が、その時間削ってAIマシンと向き合うようになることは簡単ではありません。 

と、ここまで書きながら、天に唾しているような気持ちになりました。昨今よく言われる「リスキリング」も同じようなことかもしれません。私も遊びや息抜きの時間を大切にしている普通の社会人です。ビジネスの中でAIを活用する場面がじわじわと増えていると感じますが、遊びの時間を削ってAIについて学んだり、リスキリングに励んだりすることは大変です。スポット的に時間を削って遊びを我慢することはできても、継続的に時間を確保するには覚悟が必要です。

プロ野球選手が最新のマシンを活用して練習することは、リスキリングではなく通常業務の延長線上にある改善活動に近いかもしれません。リスキリングにしても、改善活動にしても、新しい方法やツールが出てきたら「しばらくは〇〇を我慢して取り組もう」と決意する必要があります。(〇〇に当てはまる言葉がさっと頭に思い浮かび、葛藤して悶絶している自分まで想像できてしまいました。)新年の目標は「克己」と「実行」になりそうです。

好きか、得意か、燃えるような情熱か 『ISO通信』第89号

以下の内容は2023年11月に投稿しようとしたものです。(11月にBloggerのサイトにアクセスできなかったため、89号を2023年12月30日に投稿しました。同じ内容を2023年11月29日にNoteにも投稿しています。)

***

 「数字に強い、という理由で経理が長くなりましたけど、特にやりたい仕事ではなかったのです。でも得意ではあるんです、経理は」

転職相談でAさんから聞いた言葉です。Aさんはキャリアチェンジすべきか、経理の仕事を続けるかで悩んでいました。

Aさんは新卒で自動車部品メーカーに入社し、経理部に配属されました。そして自分が経理に向いていることを自覚し、会社からは経理の中核人材になることを期待されている、と感じているそうです。
「経理は嫌いではないのですが、私は営業をやりたいと思って入社したのです。しかし、今の会社では経理部から出してもらえそうにありません」
Aさんの言葉に対して、私は以下のように答えました。
「今の会社で経理として高く評価されているのに、転職してしまうのはもったいないと思います。しかし『好きなことと得意なことのどちらを優先したらいいですか』と聞かれたら、私は、好きなことを優先して欲しいと思うタイプです。ただし、好きなだけでは年収は下がるかもしれません」
営業が好きだとしてもセンスがなければ、高い成果を上げることはできません。その場合、経理の仕事を続けた方が役職や等級を上げやすくなるので、年収にこだわるのなら、経理から離れることは得策ではありません。私はAさんに
「営業するとして、商材はどんなものを扱いたいのですか」
と聞いてみました。
「一般消費材が面白そうですが、自動車メーカーに対する営業の方がイメージはしやすいです」
「自動車部品に対する愛着はありますか」
「あるような、ないような。でも最終製品の営業の方が楽しそうな気がします」
そのあと私は、Aさんにいくつかの質問をしました。
・どんな商材の営業だったら、燃えるような気持ちになれそうですか。
・それとも漠然と営業してみたい感じですか。
・自分は経理が好きだ、と自己暗示をかけたら、本当に好きになる可能性はありますか。
そうして1時間ほど会話を続け、面談の最後にAさんは言いました。
「なんとなく見えてきました。今日はいい壁打ちができたので助かりました。ありがとうございます。転職ありきではなく、現職に残ることも含めてもう一度考えてみます」

しばらくしてAさんから
「もう少し今の会社に残って頑張ります。燃えるような気持ちになれるものが見つかるまで、真剣に経理と向き合ってみます」
と連絡がありました。転職相談は無料なので、Aさんとの会話で私が対価を得ることはありません。しかし、このような言葉をもらうとエージェントとしての価値を提供できたと感じて嬉しくなります。
得意なことに真剣に向き合い、燃えるような気持ちになれるのなら、それをキャリアの軸にすべきだと感じました。

好きなことや得意なことが見つからない人もいると思いますが、今の仕事と真剣に向き合ってみると、何かが変わるかもしれません。

2023年10月29日日曜日

キャリア採用における「年齢不問」の先進国は日本?『ISO通信』第88号


A:求人票には性別不問と書いてあるのに実際にはそうでない。

B:求人票には年齢不問と書いてあるのに実際にはそうでない。

法律の例外規定に沿っていなければ、どちらのケースもコンプライアンス上の問題があります。人事の担当者から「求人票には書いてありませんが、実際には男性希望です」などの発言を聞くことはほとんどなくなりました。管理職の比率や賃金格差などの面で、今でも性別による差異が発生していることは問題ですが、書類選考の段階で女性をNGとする企業はこの10年で大幅に減りました。感覚的なものですが、10年前は求人案件のうち30%くらいは「実は男性希望です」といった本音があったように記憶しています。しかし最近12年においては、そのような発言を聞いたことがありません。一方で、Bのケースに関しては「現実的には、60歳近い人では厳しいです」などの発言はまだ残っています。60歳定年の会社が、59歳であることを理由に書類選考を不合格とした場合、法律的にはアウトですが「他の候補者と比較して総合的に判断した結果、今回は見送りとさせて下さい」などと言われるケースはあります。そんなとき「もし年齢が理由なら、一度会ってみて下さい」とお願いしてもかつては再考してもらえませんでした。しかし「最近は会うだけ、会ってみましょう」という企業も増えて来ました。また「うちは65歳に定年を延長したので、60歳でもOKです。今回は年齢ではなく〇〇の理由で見送りました」と言われたこともあります。

私の経験としては65歳の人を紹介して入社につながったことがあります。先日、英国人の同僚と会話したところ「経営幹部のポジションに60歳以上の人を紹介しても、実際に採用してもらうことは難しい。日本の方が年齢に関するダイバーシティーは進んでいるのではないか」と言って、驚いていました。一人の英国人と私の会話だけで、日本の方が進んでいると断ずることはできないので、データを探してみました。しかし、60歳以上の人が新しい会社に経営幹部として迎えられる事例がどれくらいあるのかについて、統計資料を見つけることはできませんでした。

資料を探す途中で、米国企業のCEOの年齢ランキングが載っているサイトに出会いました。米国のビジネス誌「Fortune」が紹介しているサイトで、タイトルに「Meet Fortune 500’s most senior CEOs」とあります。(世界において総収益が多い500社の「Fortune Global 500」ではなく、米国企業の「Fortune 500」について調べた結果のようです。)

その記事によると、2021年度のFortune 500CEOの平均年齢は57歳で、71歳以上の人が10人います。最高齢はバークシャー・ハサウェイのウォーレン・バフェット氏で91歳(現在は93歳)。ランキングの年齢だけを見ると84歳、77歳、76歳と続きます。上位10名の全員が男性で、8名はCEO在任期間が15年以上でした。米国においても、長期政権を維持する高齢の女性経営者は、まだ現れていないようです。

データが見つからなかったので、主観に戻りますが私の周囲では50代、60代の転職事例は確実に増えています。30年以上務めた会社を卒業して軽やかに転職することが珍しくない時代になりそうです。

2023年9月30日土曜日

コーポレートガバナンスは一人ひとりの意識から『ISO通信』第87号

 ジャニーズ事務の問題に関して、日本民間放送連盟の会長が「重大な人権侵害であるという認識をメディアが十分に持てなかったことは事実で、反省しなければならない」と述べたそうです。反省はしていると思いますが、今後も疑惑を追及するような行動を起こすことはかなり難しいと想像します。

ジャニーズ事務所に関する黒い噂は30年以上前からありました。そして他の芸能事務所に関しても同じような噂がありました。それは、デビューしたいと考えている女性に対して、芸能事務所の権力者が性的な害を加える前に、デビューしたいなら同意の上での行為であると認めなさい、と脅迫しているという噂です。この話はただの噂であって事実ではないのかもしれません。マスコミもスポンサー企業も、そのような噂を信じていないのだと思います。だから「過去の問題も含め、潔白を証明した事務所のタレントしか起用しません」と宣言するスポンサー企業やテレビ局は出てこないでしょう。そう考えると疑惑の段階でジャニーズ事務所を糾弾することは、かなり困難だったと思います。だからしょうがないことだよね、と言いたわけではありません。
 
内部通報の仕組みを、さらに整備すべきだと考えますが、内部通報した人に対する目が温かいとは限りません。たとえば、こんな場面を想像して下さい。あなたは採用面接の面接官で、となりには社長も座っています。面接を受けに来た人に「どうして転職を考えているのですか?」と質問したら「私が勤めている会社はコンプライアンス上の大きな問題を抱えていて、内部告発したら左遷されてしまいました。こんな会社に残るつもりはありません」との答えが返ってきました。そのときあなたは「この人を採用したら我が社もやばい」と思うでしょうか。あるいは「この人こそ採用すべきだ」と思うでしょうか。
ホワイトな企業であれば、内部告発した人の勇気をポジティブに評価するかもしれません。ブラックな企業なら不採用の結論を出すでしょう。
 
転職相談で「今、どうして転職を考えているのですか」と質問したとき「会社が不正を黙認していることに耐えられません」といった答えは、以前より減ってきました。コーポレートガバナンスに本気で取り組んでいる企業が増えていることが、不正の減少につながっているのでしょう。
マスコミの姿勢を批判したり、叱咤したりすることも大切ですが、自らの意識や行動を変えることで組織や社会が変わっていくのだと思います。

2023年8月31日木曜日

優秀なプレーヤーが優れたリーダーになるとは限らない 『ISO通信』第86号

 


「部下に『失敗してもいいから、自分で考えてやってみろ』と言ったら『失敗することはないと思いますが、失敗から学べという意味なら、チャレンジングなやり方でやってみます』と言われたよ。優秀だけどかわいくない」
某社でマネージャーの立場にある友人から聞いた言葉です。
指示を出した相手は、20代の若手で仕事はできるそうです。
「頭のいい部下を持つと大変だね」別な友人がそう言うと
「あいつは俺のことをバカにしてるね。学歴は高いけど人間性に問題ありだな」
とマネージャー氏は言っていました。
 
「若いうちは、ちょっと生意気なくらいの方がいいよ」
「イヤ、素直じゃないやつは、結局は伸びないね」
「おおらかな目で見てあげなよ」
そんな会話の後、飲み会の席は別な話題に移りました。
 
生意気だけど憎めない、と思われている人は組織の中で成長していきますが、生意気なだけだとやがて組織から浮いていくことになります。転職相談の会話において「私だけがエライ」的なオーラを放っている人にたまに会いますが、組織内で浮いちゃった結果、転職したくなったのだろうか、と心配になります。
 
知的レベルや事務処理能力が高い人は優秀なプレーヤーになれますが、相手の感情を理解して行動できないと、リーダーとして部門を統率することは難しくなります。人口が増え続け、経済が成長していた時代には、社員を駒のように扱うマネージャーでも成果を上げることができました。しかし国内の人口は減少する時代になり、転職が当たり前となった現在、駒のように扱われた社員が転職した後、会社が新たな社員を採用することは簡単ではありません。後任の社員を採用できなければ、部門の目標を達成することは困難であり、社員を駒や部品のように扱うマネージャーは減ってきました。
 
飲み会の席ではないのですが、少し前に以下のような場面がありました。
「辞められちゃ困るからって会社がこんなに甘くなっていいんですか。我々の時代はどやされたり、どつかれたりしながら、仕事を覚えていったのだと思いますけど」
「時代が違うと言えばそれまでだけど、今の若い人はかわいそうだね」
「かわいそうなことにならないように部下をリードしてあげなきゃ」
私は三つ目の発言に同意して
「サーバント型のリーダーシップやEQの高いリーダーの方が、最近はうまくいってるみたいですよ」と付け加えました。

リーダーシップのスタイルは多様であり、企業の成長のフェーズや、トップの性格によっても、どのようなスタイルをとるべきか変わってきます。サーバント型と呼ばれるスタイルは、相手の意見を聞いて支援しながら、組織を理想的な方向へ導こうとするやり方ですが「それでは甘い」という批判もあります。

ちょっと生意気な社員には、サーバント型のリーダーシップを発揮すべきか、力で支配するようなスタイルが適するのか、それにも答えはありませんが、相手によってスタイルを変えると頼りないリーダーになってしまいます。
どんな相手に対しても一貫した態度で臨むことは簡単ではありませんが「部下に対しては支配者のように、上司に対してはサーバントのように」ということがないように注意しましょう。

2023年7月30日日曜日

「おはよう」と「おはようございます」の使い分け 『ISO通信』第85号

 

近所の人に挨拶するのは自然なことだと思いますが、知らない人に挨拶すると不審者と間違われる可能性があります。顔と名前が一致しなくても、お互いが「ご近所さん」であることを認識していれば挨拶するようにしているのですが、相手が小学生くらいだと「おはよう」と声をかけても、反応がなかったり、もじもじした感じで下を向いてしまうこともあります。

小学生から見た私は「知らないおじさん」である可能性も高く、子どもに挨拶するのをしばらく止めていました。
しかし、あるとき自然に「おはようございます」と声をかけていたのですが、そのときは元気に「おはようございます」と返事がありました。小学生に対しては「おはようございます」よりも「おはよう」の方が適切だと思っていたのですが、そうではないのかもしれません。
ためしに、他の小学生にも「おはようございます」と声をかけてみると、もじもじと下を向かれることが減り「おはようございます」と返ってくることが多くなりました。
この挨拶実験は「ご近所さん」の範囲を狭く設定しておかないと、あぶないオジサンと間違われるので、サンプル数はかなり限定的です。しかし小さな子にも、
自分を尊重してくれる人にはきちんと対応したい
と思う気持ちがあるのでしょう。

相手との関係性によっては「おはようございます」よりも「おはよう」の方が自然な場合もあります。しかし、気軽に「おはよう」と声をけたつもりでも、相手は「あれ、私たち、そんなフレンドリーな関係でしたっけ?」と感じているかもしれません。
「おはよう」と声をかけて、うつむき加減の会釈しか返ってこなかったら、次は「おはようございます」にしてみましょう。元気な「おはようございます」が返ってきたら、一日の始まりが、少し爽やかになりそうです。

挨拶に関しては、
めんどくさい
照れくさい
先に挨拶した方が負け
ただの儀礼
など、ネガティブな捉え方をする人もいます。
「先に挨拶したら、その時点で既に負けている」という意見を聞いたことがありますが「先に挨拶しようとする人が多い組織は強い」と思っています。

2023年6月24日土曜日

『ISO通信』第84号

( 『ISO通信』はメールマガジンで配信した内容をnoteやブログにも載せています。今回はメルマガを配信させてもらっている方を対象にアンケートをお願いしました。)

月に一度のペースで『ISO通信』を配信させてもらっていますが、スタートして7年になりました。

年間12回×7年で今回が第84号です。

これまでメールマガジンの配信をサポートしてくれた会社が10月でサービスを停止することになり『ISO通信』を継続するには「配信スタンド」を引っ越しする必要があります。

一方、最近はネタに困ることが多くなり「ちょうどよい機会なので終りにしてしまおう」と思う気持ちもあります。

メールマガジンの配信ボタンを押すにはそれなりの勇気がいります。始めたときは「こんなものを大勢の人に送りつけてしまっていいのだろうか?」とかなり悩みました。送ってみると思わぬ反応があり、やってよかった、と思うのですが、ときどき配信停止を希望する人もいて、ちょっとへこみます。

何冊も本を出している著名な先生に「今でもメルマガの送信ボタンを押すときには、それなりの勇気が要ります」と話したとき
「とってもよく分かります。私も、この程度の話しかできないのに、セミナーに登壇しちゃっていいのだろうか?とよく思いますし、本を出版するときも同じような気持ちになります」
との答えが返ってきました。こんなに立派な先生でもそうなんだ、と思い少し安心しました。

さて、ここでお願いです。

以下のアンケートにご協力ください。質問は一つだけです。

A:今後も『ISO通信』の配信を希望する。
B:今後は『ISO通信』の配信を希望しない。
C:どちらでもいい。

回答は下記のサイトからお願いします。

(以下は、noteやブログで読んで下さっている方へ向けたURLで、上記の質問とは別な内容です。)

https://forms.gle/iRTSuEKAUjjJVAaf6

(以下、メールマガジンに記載した内容に戻ります。)

このタイミングではお名前やメールアドレスなどを確認しませんので、気軽にお答え下さい。

AがBを上回った場合は、配信スタンドを引っ越してメールマガジンを継続しようと思います。

Bの方が多い場合は休止して、今後のあり方を検討します。

この配信スタンドは来月まで利用可能なので、メルマガの継続か休止かは、85号にて連絡致します。

それでは、みなさま、よろしくお願いします!