2018年2月25日日曜日

出戻りは是か非か? (2018年2月号 vol.20)

早期退職制度を作ると優秀な人から辞めてしまう、という話はよくあります。
それを防止するために、ある会社では人事が認めた人に限って早期退職の優遇を受けることができる制度を作ったそうです。つまり、退職してほしい人には割り増しの退職金を積み、優秀な人が早期退職を申し入れた場合は自己都合退職として扱う、という制度です。

「私は早期退職の適用対象ではありませんでしたが、そのタイミングで辞めました。そのまま会社にいても将来のリスクが高くなるだけだと思いましたので。しかし、あんな制度ってありなのですかね」
ある人からそう聞いたことがあります。

どこの会社でも優秀な人には会社に残ってもらいたいと考えますが、終身雇用の慣行は薄れ、転職経験のない人は少数派になりつつあります(*1)。かつての大企業は巨大なムラ社会だったので、辞めた人は裏切り者、裏切り者とは縁を切る、という風潮がありました。当然、一度辞めた人が戻ってくることは許されません。

しかし最近は出戻りOKの企業が増えてきました。ある外資系コンサルティング会社には出戻り歓迎の対象者を明記したリストがあるそうです。
社員が辞めるときに、出戻り歓迎リストに載せる人とそうでない人を選別し、出戻り歓迎の人には連絡をとります。人事部が退職者を制度的にケアしているわけではなく、退職した人と親しかった社員から連絡してもらい「その気になったら戻っておいでよ」というメッセージを伝えているそうです。
「優秀な人が社外で経験を積むと、うちの会社にいた場合とは別な形で成長しています。外での経験を我が社に持ち込んでくれると社内が活性化するので、優秀者の出戻りは歓迎しています」
とその会社の会長は言っていました。

歴史のある日系の大企業でも出戻りOKの会社は増えていて、人事担当者から
「戻ってきた人はロイヤリティが高くなっている傾向があります。うちの会社しか知らないと隣の芝生が青く見えることもありますが、隣の会社に行ってみたら、うちの方が良かったと感じているのでしょうね。出戻りして以前と同じ成果しか上げられないのでは恥ずかしい気持ちもあって頑張っているのだと思います」
と聞きました。



転職相談に来た人に「出戻りを考えたことはありますか」と質問すると大企業への出戻りに関しては「その気はありません」と答える人が多い傾向にあります。
一方で中小企業への出戻りについては「やりたい仕事をやらせてもらえるなら」とか「ポジション次第ですね」などの答えが返ってきます。中小企業では優秀な人財の獲得がいつも課題になっているので、出戻りの人が部長や役員になることも珍しくありません。

大企業の場合は、出戻りの人を重要な役職で迎えると、社内で頑張っていた既存社員に不満が出るということもあり、部長や役員として戻ったという話はあまり聞きません。しかしパナソニックに専務として迎えられた樋口泰行氏のような事例も出てきました。
女性や外国人の採用によるダイバーシティーの推進だけでなく、カルチャー的な多様性を高めるために出戻り社員を採用するケースは増えていくかもしれません。

あなたの周りに出戻り社員はいますか。

*1総務省統計局の労働力調査(下記のURL)によると全就業者6522万人のうち、「過去1年間に離職を経験し、現在は就業している」と回答した人は311万人で、2013年から2017年までの5年で見ると1495万人になります。当社に登録のある人のデータを調べると、50代で転職したことのない人の割合は30%程度になりますが、転職をまったく考えたことのない人が当社に登録することはないので「50代になると7割の人が転職を経験している」とは言えません。転職したことのない人が少数派なのか多数派なのかを客観的に示すデータを見つけることはできませんでした。

総務省統計局の労働力調査
http://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/nen/dt/