2019年12月28日土曜日

応援されるとスポーツ選手や会社員のパフォーマンスは上がるのか? 『ISO通信』 2019年12月号 vol.42

今年の12月は、例年よりも飲む機会が多くありました。
飲み会の席にラグビー好きの人がいると
「サンウルブズは勝てなかったのに、なぜ日本代表は強かったのですか」
と質問しています。
サンウルブズは、南半球のプロクラブによるラグビーリーグである『スーパーラグビー』に参戦している日本チームで、ヘッドコーチは日本代表のジェイミー・ジョセフ氏が兼任し、メンバーも現役日本代表や日本代表候補で構成されています。
ラグビーに関して、にわかファンの域を出ない私ですが、2019年のシーズンにおいて、サンウルブズが2勝14敗の成績であることは知っていました。
そのため、ワールドカップで日本がベスト8に残れるとは、思っていませんでした。
アイルランドに勝利した後でさえベスト8は厳しいと思っていたので、スコットランドに勝ったときは心が揺さぶられるほどの感動がありました。テレビの画面に向かって「スゴイ!そして疑っていてゴメン」と言いたくなりました。
さて、質問に対する答えは二種類あって
「日本全国で、あれだけ応援されたら100%以上の力が出るよ」
という意見が主流でした。
(もう一つの答えは「サンウルブズは常にベストメンバーを組める状況ではなく、代表選手だけが試合に出ていたわけではなかった」というものです。)
応援が力になることはプロスポーツの世界では統計的に確認されていて、野球もサッカーもホームスタジアムでの勝率と、敵地での試合も含めたトータルの勝率を比較すると、通常はホームでの勝率が全試合での勝率を上回ります。
今シーズンのプロ野球の記録を確認したところ、セ・パ合わせて12球団のうちヤクルトスワローズ以外の11球団において、ホーム球場での勝率が全試合での勝率を上回っていました。
サッカーのJリーグに関しては、1993年~2016年までに行われた5,159試合の結果を調べた人のブログによると、ホームでの勝率42.5%に対して、アウェイでの勝率は33.7%になるそうです。(90分で決着しなかった試合は引き分け扱い)
応援が力に変わるなら、職場においても上司が部下を応援すれば、メンバーのパフォーマンスは上がるのでしょうか。
しかし、毎日毎日、上司に「ガンバレ、ガンバレ」と言われたら、パワハラで訴える方向で力が発揮されてしまいそうです。
上司に応援されると「うっとうしさ」や「プレッシャー」を感じる人もいて、普段通りのパフォーマンスにならないケースもあります。
では、お客さんに応援された場合はどうでしょう。
お客さんから「頼れるのはあなたの会社しかないので、何とか助けて下さい」と言われたらプレッシャーになるかもしれません。しかし、自社と競合他社のいずれかをお客さんが選べる立場にあり、それでもなお
「今度のプレゼンテーションでは、あなたの会社に頑張ってもらいたい」
と期待されたら、俄然、やる気がでるのではないでしょうか。
B to Bのビジネスでは、お客さんの製品やサービスのファンになると、お客さんもこちらを好意的に見てくれるようになります。逆にお客さんのプロダクトに愛着を感じない場合、自社の製品やサービスの質が高ければ売ることは可能ですが、お客さんから応援してもらうレベルにはならないでしょう。
お客さんを応援し、お客さんからも応援してもらう。
それが出来れば、いつもホームグラウンドで戦うような心理状態で、高いパフォーマンスを発揮できそうです。

2019年11月30日土曜日

情報発信する人だけに返ってくる情報がある 『ISO通信』 2019年11月号 vol.41

「ピザ、ピザ、ピザ と10回言ってみて下さい」
そう言って、相手に10回繰り返してもらい、その後で肘を指差しながら「じゃあ、ここは?」と質問すると相手が「ひざ」と答えてしまう遊びがありました。

では「トランサーチ、トランサーチ、トランサーチ」と10回、言ってみて下さい。

ハイ、これであなたも、私が勤めている会社の名前が「トランス・サーチ」ではなく「トランサーチ」だと覚えましたね。
すいません、つまらないことに付き合わせてしまいました。
実は私自身、入社前はトランス・サーチだと思っていました。トランサーチってなんかしっくりこないなあ、と思っていたのですが、いつの間にか愛着を感じるようになりました。

先週、マレーシアに出張し、アジアを中心とした世界の10都市から集まった同僚との会議に参加しました。ロンドンから来た女性CEOは、各都市のメンバーに対して「トランサーチのブランド力を高めるために、SNSなどを使って情報発信しましょう」と呼び掛けました。

場面は変わりますが、日本でセミナーや勉強会などに参加すると
「SNSやブログを使って、積極的に情報発信しましょう」と発言するセミナーの講師や登壇者がときどきいます。
メールマガジンの『ISO通信』を私が始めたのも、それらの言葉に刺激されてのことですが、最初はとても大きな勇気が要りました。3年経った今でも、送信のボタンを押すには、それなりの勇気が必要です。

このメールマガジンの配信先には、大企業の社長や著名なコンサルタントなどもいて、しかも近しい関係とは言えない人もたくさんいます。(簡単に言うと、一度名刺交換したことがあるだけの人に送りつけている状態です。)
そのような偉人たちに「ピザ、ピザ、ピザ と10回言ってみて下さい」で始まるメールを送っていいのだろうか、と大きな不安はあるのですが、今回も送信ボタンを押してしまいました。

「情報発信しよう!」と呼び掛けている人たちの共通の教えに「情報発信をしている人だけが得られる情報がある」というものがあります。

実際にその通りで、メールマガジンに対する返信をもらうと自分とは違う視点があることに気づきます。もちろん、メールを配信する前から、自分とは違う意見があることも想像しているのですが、意外なポイントを指摘されることもあり、新たな気づきとなります。

また、普段はめったに会うことがなくても、たまに返信をもらうだけで、心の近さを感じるようになり、書き続ける動機にもなります。

それから、数年前に一度会っただけの人でも、メールマガジンを送っていることで、こちらから再度連絡するときの心理的なハードルが下がることがあります。

このように、たくさんのメリットがあるのですが“あ~、今月はサボりたい”と思うこともあります。自信を持って発信できる内容のケースは少なく、むしろ「ピザ、ピザ、ピザ」で大丈夫かな、と不安に思うことの方が多いためです。

それでもなんとか、第41号を11月中に配信することができました。
(これで、月に一回のペースをキープ!)
ブランド価値の向上につながるかは微妙ですが「トランサーチ、トランサーチ、トランサーチ」と三回唱えて、今月号を終わりたいと思います。

【追伸 ①】
世界各国の同僚たちの写真。↓
http://www.transearch.com/consultants/consultants

アルファベット順で載っていて
「なぜ日本人の名前はKで始まるのか?」
と聞かれたことがありますが、なぞです。

【追伸 ②】

上の写真は、TRANSEARCHのアジア・パシフィック カンファレンスの様子です。

2019年10月22日火曜日

職場じゃ言えない「アイ ラブ ユー」 / 『ISO通信』 2019年月10号 vol.40

「ジョナさ~ん、アイ ラブ ユー」
ジェーンは歌うように言いました。本当は「Jonathan I love you.」 と言っていたのですが私には「ジョナさ~ん」 と聞こえることがありました。ジョナサンには姉のキャサリンがいて、二人の母親であるジェーンは「キャサリーン、 アイ ラブ ユー」なんてことも、ひんぱんに言っていました。

ジェーンの家にホームステイしていた私は ”ガイジンちゅうのは、なんでこう毎日毎日、アイラブユーとか言えるんだろう”と不思議に思いました。しかし、10代後半のキャサリンもジョナサンも素直に育っているので、愛情を言葉で伝えるのは大切なことかもしれない、とも感じていました。


オーストラリアのキャンベラでホームステイしていたのは30年も前のことです。しかし、ジェーンの「アイラブユー」は結構なインパクトあがり、自分が親になってからも忘れていませんでした。そして私は二人の息子たちに向かって、毎日のように「アイ ラブ ユー」と言い続けました。というのは、さすがに冗談です。しかし、子供を叱った後には「君たちのことが好きだからこそ、怒ったり、注意したりするんだよ」と付け加えていました。
高校生と中学生になった二人の息子たちは、キャサリンやジョナサンのように素直に育つはずだったのですが、しっかりと反抗期に入ってしまいました。あるとき次男を叱り「好きだからこそ、怒るんだぞ」と言うと「キモっ!それが嫌なんだ」と言い返されました。
いつもなら「親に向かって、キモいとはなんだ!」とさらに怒るのですが、考えてみると自分が中学生の時に「お前のことが好きだから叱ったんだぞ」なんて親から言われたら「気持ち悪い!」と言い返したと思います。  

頭では息子の気持ちもわかるのですが、理不尽に反抗的な態度をとられるとこちらも腹が立ち、感情的になってしまうこともあります。子供が小さいうちは、文字通りの腕力で押さえつけることがありました。しかし、それが何の役にも立たないことをすぐに悟りました。腕力で制圧されても、納得しない限り、行動を改めようとはしません。次は親にバレないようにやろうと狡猾になるだけです。
納得してもらうためには話し合いしかありません。しかし「ちゃんと話し合おう」と呼び掛けているのに無視されると、またまた腹が立ちます。最近は、腕力が拮抗しつつあるので「お小遣いをあげないぞ」的な言葉を口走りそうになりますが、これも腕力による制圧と同じなので、止めています。

結局のところ、無視されても粘り強く呼びかけて、納得するまで話し合うしかありません。
そして、話し合って納得したルールに関しては、子供たちも守ろうと努力するようです。しかし遊びたい気持ちが勝って、やっぱり逸脱してしまう。
そんなことの繰り返しです。

さて、職場での人間関係に置き換えてみたとき、上司は部下にどのように接するべきでしょう。反抗的になってしまった部下が心を開いてくれるまで待てる上司はどれほどいるでしょうか。
逆に、権力を振りかざして制圧しようとする上司に反発せず、話し合いを求めることができる部下は何割くらいいるでしょうか。
職場の場合、大人と大人の対立なので、表面的には両者が納得しているように取り繕うことは可能です。しかし、それでは生産性の高い職場にはなりません。

上司のみなさん、
ジェーンおばさんのように「アイ ラブ ユー」と部下に語りかけましょう。

部下のみなさん、
そんな上司がいたら「キモっ!」と言い返して下さい。

そんな喜劇みたいな職場はないと思うので、厳しい言葉の裏に愛情のかけらがあると感じたら、納得できるまで話し合うことを提案しましょう。

2019年9月28日土曜日

インターンシップには「かばん持ち」が最適?『ISO通信』 2019年月9号 vol.39

とある懇親会で大学生と会話する機会がありました。
「就職先として、大企業も選択肢に入りますか?」
と質問すると
「ベンチャーしか考えていません。ハッキリ言って大企業には魅力を感じません」
と、即答でした。ベンチャー企業が主催したセミナーの後の懇親会だったので、想定内の答えです。
「大学の友だちにも、ベンチャー志向の人が多いのですか」と聞いてみると
「自分の周りには結構いますけど、全体としては少数派かもしれません」
との答えでした。 
 
まったく別な懇親会で、小規模企業でインターンをしている大学生と会話しました。
その人は慶応大学の学生で、インターン先は社員数が10名程度の企業です。
「この会社に就職することもありそうですか」と質問すると
「いやぁ、それはちょっと」
と口を濁しました。するとその会社の社長が、すっと寄って来て
「うちみたいなところに、こんな優秀な学生が来るわけないじゃないですか」
と割って入ってきたので
「でも、インターンに来るくらいだから、興味はあるわけですよね」
と、学生の方を見て聞いてみました。
 
 (学生)「小さな会社の方が、実務を深く体験できると聞いて、この会社のインターンに参加させてもらいました。実際、仕事は面白そうなので、将来的には『あり』かもしれません」
(社長)「そこなんですよ、私の狙いは。卒業してすぐにうちに来てくれるとは思っていません。でも大企業で2~3年働いて、仕事が面白くないなあ、と感じた時に、うちに来てくれたらいいんです。」
(私)「なるほど。いい作戦ですね。(学生の方に顔を向け)どうですか、2~3年後は?」
(学生)「2~3年で自信がついていればいいのですが、お荷物になってしまいそうです」
(社長)「大丈夫。君なら、うちに来て1年もすれば、戦力になれるよ。2週間、かばん持ちやってもらったので、それくらいは分かる」
 その言葉を聞いて、再び“なるほど”と思いました。
その社長が、実際にかばんを持ってもらったか否かは別にして、学生が社長の行動のどこに興味を持ち、どんな質問をしたのかによって、将来の活躍度合を判断することができそうです。
 
大企業の場合、インターンシップにたくさんの学生が応募して来るので、一人一人に長期のインターンを実施することは困難です。このため「1dayインターンシップ」を実施するのですが、1日だけでは会社説明会と大きな違いはありません。

中小企業にとってもインターンの受け入れは大きな負担ですが、優秀な学生との接点にもなるため、長期のインターンを実施するのは、中小企業に多いようです。前述の社長のように、学生と一緒に行動する時間をたっぷりとれるなら、働くことの楽しさや厳しさを伝えることができるでしょう。
 
さて、中小企業の社長に経営幹部を紹介する場合、社長と候補者の相性は非常に重要となります。スキルやコミュニケーション力に問題がないのに「どうも相性が悪い気がする」という理由で、選考が進まないケースがあります。
逆に、転職相談を受ける場面では「入社した当初は社長との相性もよかったのですが、仕事を進めるうちに社長に対する印象が変わってきました」と告げられることがあります。
この場合、採用段階では相性よりスキルを重視した社長が、入社後に“やっぱり相性の悪さが気になってきた”と考えている可能性もあります。
中途採用において、候補者が社長のかばん持ちをする機会があれば、ミスマッチを解消できるのではないか、と思いました。しかし、候補者の段階の人を商談に同席させたりすることは、実際には難しいかもしれません。

当社には、企業カルチャーや上司の考え方との相性をチェックするツールもありますので、ご連絡をお待ちしております。(と、たまには宣伝も。)

↓ 株式会社トランサーチ・ジャパン アソシエイツ 
http://www.transearch.co.jp/index.html

2019年8月31日土曜日

「球数制限」と「残業制限」は似ている? 『ISO通信』 2019年8月号 vol.38

「好きなときに働きたいのですが、こちらの会社はどうですか」
転職相談のときに質問され、
「その点は心配ありません」
と答えました。
質問した人(以下、Aさん)の意図は「土日や夜の時間に働くことが制限されていませんか?」ということで、常に自由な時間に働きたいと主張しているわけではありません。

コンプライアンスやセキュリティ管理の面から、土日や夜間に仕事ができないルールや仕組みを徹底している会社も増えています。
Aさんは管理職手前の男性で、成長意欲に関しては野心的かつ貪欲なタイプです。土日や夜間に仕事をする際に「毎回、上司に承認してもらう必要のある会社ではストレスがたまりそう」と考え、自分の裁量で働く時間をコントロールできる職場を理想としています。
Aさんは、自分がワーカホリックになりやすいタイプであることを自認していますが、健康や周囲との協調性には注意しいているそうです。

「私のような人間を放置しておくと勝手に働いてしまうので、強制的に仕事から離れる仕組みをつくらなきゃダメだと考える人もいるでしょうね。でも、定時で帰って家でのんびりしていたら、成長できないと思います」
Aさんの発言を聞いて、高校野球の球数制限のことを思い出しました。
プロ野球の世界では、ピッチャーの肩や肘を守るために投げ過ぎを防止することは当然で、先発投手は6日~7日に一度の間隔で登板することが一般的です。
しかし、トーナメント戦を戦う高校野球では、大会期間中、毎日のように投げるピッチャーもいて、そのために故障することもあると考えられています。
これを防ぐために、一つの試合で投げられる球数を制限すべき、という議論があり、近年は賛成派が増えているようです。

甲子園に出場するようなチームの監督が、“二番手の投手を使って負けるわけにはいかない”と考える気持ちはよく分かります。また、高校生の投手なら“仲間と一緒に甲子園に行きたい”“もっと、うまくなりたい”と考えて、毎日でも投げたいと思うかもしれません。
逆に、体に異変を感じる前の高校生が「けがのリスクがあるので、今日は投げません」と主張することは難しいでしょう。高校生の体を守るには、球数制限などの規制は必要だと思います。

サラリーマンの世界でも、社員の健康を守るために、働き過ぎを防止することは当然と考えられるようになり「うちでは、定時退社が当たり前です」と聞いても驚かなくなりました。

しかしまだ、上司が帰らないと部下も帰れない雰囲気の会社も多く、納期を守るために残業せざるを得ない職場もたくさんあります。総合的に考えると、働く時間の総量を規制する法律は必要だと思いますが、残業させない仕組みを徹底し過ぎると、Aさんのようなタイプからは敬遠されます。

高校生投手の肩を守るために監督が注意する必要があるように、社員の過労を防止するために管理者は注意を払う必要があります。しかし、いつまでも管理者に注意してもらう立場に甘んじていると、面白い仕事にはありつけません。
年功序列で管理職になれたらラッキーと考える人もいますが、自己裁量で時間や仕事量をコントロールできる立場に早くなった方が、仕事も生活も充実すると思います。

2019年7月27日土曜日

「論理」と「感情」のバランスが大切 『ISO通信』 2019年7月号 vol.37

今月は月の初めと後半に「論理と感情」について考えさせられるニュースがありました。
(『ISO通信』は2019年7月号で4年目に入りました!!)



「犬の肉を食べる文化圏の人に対して、私は文句を言いません。だから鯨の肉を食べる文化を否定しないで下さい」
反捕鯨派の人に対するお願い(というか主張)をネット上で読みました。
頭では「その通り」と考えるのですが、「犬はやめようよ」と思う気持ちがあります。
だって、犬がかわいそうじゃないですか。
と言っておきながら、
「鯨がかわいそうという理由で捕鯨に反対するのは論理的でない」と主張したくなることもあります。
なんて身勝手なんだろう、と思うわけですが、世の中、論理と感情の両方で成り立っていることを理解しないと対立は激化してしまいます。
例えば、芸人と会社の対立。
吉本興業と芸能人の間には雇用類似的な関係があり、「闇営業の禁止」や「反社会的勢力との接触禁止」は明文化されていなくても慣習法的な規則になっていると仮定します。
その場合、ルールに違反した人が処分されることは論理的に正しいことです。
しかし、罪の程度に対して罰が大きすぎる場合(あるいは軽すぎる場合)は、論理的とは言えません。

今回のケースでは「反社勢力との接触によって会社の名誉を傷つけられた」「ルール違反の闇営業をしていた」「しかも金銭は受け取っていないとウソをついていた」ということで、会社側が感情的に「許せない」との気持ちになってしまい、必要以上に罰が大きくなってしまったのかもしれません。あるいは、罰の大きさとしては「契約解除」が相当であるのに、パワハラ的な圧迫があったようなので「処分が厳しすぎる」と世間が感じているのかもしれません。

個人的な感覚ですが「処分を撤回する」と聞いたときに“闇営業も反社会的勢力との接触もOKということ?”と疑問に思いました。論理とは関係なく、感情だけで判断しているように見えます。

仮定を少し変更して、売れていない芸人の闇営業は会社側も黙認していたとします。その場合、闇営業自体は大きなルール違反ではなく、売れっ子芸人が闇営業をしたことに腹を立て、感情的になってしまったのかもしれません。

二人のタレントの謝罪会見の後、社長が以下のように発言していたらどうなっていたでしょう。
「君たちのしたことに対して、今回は契約解除という処分をせざるを得ない。甘い処分をしたのでは、吉本興業の姿勢が問われる。反省している姿を世間が許してくれる日が来たら、また一緒にやろうじゃないか」
あるいは
「契約書の締結や規則を明確にしていなかった会社側にも責任はある。よって今回は、○○ヶ月の謹慎処分とする」
そんな対応がいいのではないかと思ったのですが外野からは何とでも言えます。

 私を含め、修羅場の外にいる人が結果を見てから「論理的に考えて、こうあるべきだ」と評論するのは簡単なことです。しかし自分が当事者になっていたら、感情が先に立ってしまい、論理的に考えることなど忘れてしまうかもしれません。
リーダーを育成するには、若いうちから修羅場を体験させるのがよいと言われるのは、場数を踏むことで感情をコントロールすることができるようになるからでしょう。
まだまだ、修行の身です。

2019年6月22日土曜日

ある日、突然、転勤を命じられたら… 『ISO通信』 2019年6月号 vol.36

「うちの会社、家を買うと転勤させられるんだよ」
「うちもそう!」
「えーっ、私の会社もそうです。なんで会社って、家を買ったばかりの人を狙って転勤させるんですかね?」
「会社の命令は絶対だ。辞令一本で、どこへでも飛ばせることを忘れるな!ってことを教えるための『見せしめ』だろ」
20年くらい前のことですが飲み会の席で、そんな会話がありました。

当時、私は人事部に所属していて
「人事って、ホントにそんなこと考えてるの?」
と、転勤を命じられた直後の友人に質問されました。
「いやいや、そんなことないって。家を買ったばかりの人を狙って転勤させることなんてないから」
真面目にそう答えました。


K社の育休後の転勤命令が話題になり、「家を買うと転勤」の話を思い出しました。
全国転勤のある会社では、家を買うと転勤させられるという話はよくあります。その理由として「住宅ローンを組むと会社を辞められなくなるので、転勤を拒否できない人を狙って、会社が異動命令を出している」と言われることがあります。しかし、私は違うと思います。「家を買うと転勤するケースが多い」と感じる理由は、インパクトが大きくて印象に残りやすいからです。

「うぉー、家を買う契約して、まだ住んでもいないのに、転勤命令でた~」
「○○さん、マイホームを買って引っ越したばっかりなのに、今度、転勤ですって」
など、家を買ってすぐに転勤命令が出ると、いろいろなところで話題になります。
逆に「家を買って3か月になるけど、転勤の辞令でなかったー」と吹聴する人はいません。
「6年間は住んたけど、結局は家を買うと転勤させられるんだ」と周囲に話す人もいません。
家を買った直後に転勤命令が出た人の話はすぐに伝播するので、頻繁に起こっている現象のように感じます。

転勤に関する資料をWebサイトで探してみると、独立行政法人の労働政策研究・研修機構が広範囲に及ぶ調査を行っていました。その名も「企業の転勤の実態に関する調査」(2017年10月に公表)
従業員が300人以上の企業に対する調査で、全国の1800社から回答を得ていました。
その資料の中に「(社員が)転勤に関する配慮を申し出る制度・機会があるか」という質問があり、「ある」と答えた企業が84%もありました。
「転勤において家族的事情等を考慮した内容(複数回答)」に関しては、「親等の介護」57%、「本人の病気」42%、「出産・育児」28%、「結婚」24%、「子の就学・受験」22%、「配偶者の勤務」20%と続き、「持家の購入」は9%でした。

転勤に関して、持家の購入に配慮してくれる会社が9%もあるのですね。(もちろん「持家を購入したばかりの人を狙って転勤させるか」などという質問項目はありませんでした。)

さて、110ページにも及ぶ調査データには興味深い内容もあります。転勤経験の満足度を社員に質問した項目では、78%の人が満足と回答していました。(もしかすると、会社は優等生だけを選んで、アンケート用紙を配ったのでしょうか?)

「できれば転勤したくない」の項目では、そう思う人が40%、そう思わない人が31%(「どちらともいえない」が29%)です。転勤したくないと思っている人が多いのに、78%の人が転勤後に満足しています。
また、会社が考える「転勤の目的(複数回答)」では「社員の人材育成」が66%で第一位です。
(他に、「組織運営上の人事ローテーションの結果」53%、「事業拡大・新規拠点立ち上げに伴う欠員補充」43%など)

社員の満足度が高く、人材育成にもなるのであれば、転勤もデメリットばかりではなさそうです。
会社は転勤の目的を丁寧に説明し、社員は「なぜ自分なのか」をしっかりと確認することで、転勤命令による摩擦やストレスを軽減できるのではないでしょうか。

2019年5月27日月曜日

30年ぶりにロンドンを訪れて 『ISO通信』2019年5月号 vol.35


久しぶりの海外出張で、ロンドンに行って来ました。

学生時代(30年前)にも訪れたことのある都市ですが、当時はどの観光スポットにも日本人がたくさんいて、現地の人から少しずれたトーンで「コンニチハ」と声をかけられることもありました。
しかし今回は英国に着くなり、空港スタッフから「ニーハオ」と挨拶され、アジア系観光客の主役が中国人に移っていることを実感しました。



出張の目的は、世界の60の都市から集まった同僚と情報交換したり、グローバル本部が開発した採用アセスメントツールの使い方を学んだりすることです。
会議は4日間に及び、普段、英語を使う機会が少ない私にとってはかなりハードでした。会食の席でも英語が続くので、ゆっくり食事を楽しむ余裕はないのですが、各国のメンバーと会話できる貴重な時間でもあります。

会食のとき、イギリス人の同僚から「30年前と比べて、一番違っていると感じるのは何?」と聞かれました。その同僚とは初対面だったので、政治的な話題は避けるべきかと一瞬考えました。しかし、各国の人材を紹介し合う仲間なので、移民排斥派ではないだろうとの予想もあり
「イギリスのダイバーシティーがものすごく進んでいることに驚いた」
と回答しました。「ダイバーシティー?」と聞き返されたので「街中でたくさんの人種を見かける」と答えると、彼は「その通り、それがイギリスの発展を支えている。ダイバーシティーは重要だ」と言いました。

「ブレグジット」について彼の意見を聞こうとしたのですが、隣の席のドイツ人が日本の天皇制度について質問してきました。
ドイツの同僚は天皇の生前退位が200年ぶりであることを知っていて「なぜ、そうなったのか?」と尋ねてきました。

・日本の憲法において、天皇は政治的な権能を持たないと規定されている。
・天皇が自らの退位について言及することは政治的な権能の行使に当たると考える人もいる。天皇に「引退したい」と発言させ、幼い子供を新しい天皇に擁立し、「新天皇を補佐するのは私だ」と宣言して権力を奪おうとする人間が出てくる可能性があるからだ。
・サムライの時代を終わりにした新政府は憲法で、天皇は引退できないと規定した。
・だから前回の生前退位は、サムライの時代にまでさかのぼる。
・今回、天皇は自ら引退したいと明言したわけではない。
・しかし多くの国民は天皇が引退したいと考えていたのだと理解している。
なんてことを英語でスラスラ説明できるとかっこいいのですが
「前の天皇は高齢で、そろそろ引退したくなったんだと思う。ここ200年くらいは、天皇が引退できる仕組みがなかった」と答えてしまいました。
“うーん、きちんと説明したいけど、会議の英語で疲れてしまった。もっと英語力が欲しい”と心の中で叫びました。

実は今回の出張の前に、天皇制について質問されるかもしれないと思って、予習しておきました。そして、明治政府の伊藤博文が天皇の退位制度廃止にこだわったことを知りました。
試験予想でヤマが当たったのに、ちゃんと回答できないなんて!(あ、学生時代にもそんなことがあったような気が…)

世界史も日本史も好きなのですが、英語力が足りないと一般教養のない人に見られてしまいます。「ブロークンイングリッシュでもグローバル人材にはなれる」が持論の私ですが、今回は英語力の低下を感じ落胆しました。英語の他にもやりたいことがたくさんあって、どれに時間を割くべきか悩んでいます。

2019年4月27日土曜日

「アウェイ」に乗り込もう! 『ISO通信』 2019年4月号 vol.34

先月のことですが、大学時代の恩師が定年で退官しました。

大学での最後講義には400人くらいの人が集まり、熱量あふれる授業に耳を傾けました。その講義は学生や卒業生だけでなく、一般の人も対象とした公開授業で、先生とゆかりのある人なら誰でも聴講可能な授業でした。
講義の後のパーティーも盛況で、先生が顧問を務めたクラブのOBOGだけで、100人以上の人がいました。私もそのクラブの出身で、年に何回か会う友人もいれば、20年ぶりくらいのメンバーもいました。二次会も大いに盛り上がり、学生時代と同じネタで笑える至福の時を過ごしました。

パーティーの数日後まで、face bookに上がった写真などを見ながら余韻に浸っていたのですが、ある人が「完全にアウェイだったけど、とても勉強になった」と投稿しているのを見て、思わず「いいね」を押しました。
私にとってはホームの場でしたが、その人からみると完全にアウェイ。ホームの私にとっては安心で心地よい場所ですが、アウェイの人にとっては知り合いがほとんどいない場所だったかもしれません。しかし、知らない人ばかりの所へ行った方が人脈も知識の幅も広がります。

私は「ホーム」で、いつものメンバーと毎度同じ話で盛り上がることも大好きなのですが、ときどき「アウェイ」にも行くようにしています。
“こりゃあ、場違いなとこに来ちゃったな”と感じることもあるのですが、そこで聴く話は新鮮で、普段の交流では得られない情報ばかりです。

先日は大学生と社会人が、就活やキャリア形成について語り合う場に顔を出しましたが、そこで会った学生は大企業での働き方にほとんど魅力を感じていませんでした。
「大企業で働いてから、その後でベンチャーに移ることは選択肢にありませんか」
と尋ねてみると
「それも考えましたが、大企業でしか学べないこととベンチャーでしか経験できないことを比較すると、最初からベンチャーに行った方がいいと思うようになりました」
との答えが返ってきました。

大企業のサラリーマンだった頃の私がその発言を聞いたら、なにも知らないくせに分かったような口をきく学生だ、と思っただけかもしれません。しかし、ベンチャー企業で活躍している優秀な若手の話を聞くことも多くなり、ベンチャーに魅力を感じる学生の気持ちも分かります。

40代後半でベンチャー企業に転じた人からは
「うちの会社に来るなら、やっぱり若いうちですよ」
と聞きました。その会社では20代の社員が嬉々として深夜まで働いているそうですが「ついていくのが、体力的にしんどい」とその男性は言っていました。

私がそのセミナーに参加したのは、face bookの投稿がきっかけで、会場にいるのは初めて会う人ばかりでした。セミナーの後の懇親会で情報交換すると、私の話を新鮮で面白いと言ってくれる人もいました。
嬉しい!
と素直に感じました。講義を聞く形式のセミナーだと基本的には受け身の立場になりますが、懇親会では「もらうだけ」ではなくgive and takeでありたいと考えています。

アウェイの場では自分にとっての「当たり前」が、他者にとっては「新鮮」なのだと気づくこともあります。
「ホーム」やその近辺だけにいると、“世間は意外と狭い”と感じますが、「アウェイ」に乗り込むと“世界はやっぱり広い!”と実感できます。


2019年3月31日日曜日

労働市場の流動化で職場はどう変わる? 『ISO通信』 2019年3月号 vol.33

「なんで仕事が楽しいかって言ったらさあ、仲間と一緒にやれてるからだよね」
「そうそう、絶対そうです」
電車の中で、若い二人が会話していました。
これから交際が始まろうとしている二人だから楽しいんじゃないの、なんて思ってしまうのはオッサンのひがみですが、爽やかな男女の会話を聞いて、いい職場なのだろうと想像しました。
 
一方で先日面談した30代前半の男性は
「うちの上司はイチイチ細かくて、私が決められることなんてまったくないのに、制度だけは裁量労働制です」
とぼやいていました。その人が務めているのは歴史のある一流メーカーで、業績的にも好調な会社です。その会社の別な部門にいる人から「裁量労働が徹底されていて、オフィスにいる必要はまったくありません。かなり自由な職場で、今の会社にも大きな不満があるわけではありません」と聞いたことがあります。
ぼやいた方の人に「御社にも自由な職場があるようですが」と言ってみると
「うちは事業部が違えば別会社みたいなもので、我々の部門には自由な雰囲気は全然ありません。マイクロマネージメントしたがる人がたくさんいます」
との答えが返ってきました。
 
転職や社内公募制などによる異動が当たり前になるとマイクロマネージメント型の上司は減っていくのかもしれません。転職したい本当の理由が上司に対する不満であるケースは多く「エージェントさんには本音で話していいのですよね」と言われることもよくあります。
優秀な部下が次々と逃げ出してしまったのでは、上司は成果を上げることができません。
マイクロマネージメント型の上司やパワハラ系の上司を嫌って転職する話は珍しくありませんが、これからは上司の方が転職せざるを得ないケースも出てくるかもしれません。

「上司が会社を辞めることになったので、私は残ることにしました。あの人は前の会社もパワハラで辞めさせられたのだと思います」
ある人から、この発言を聞いたときは少し驚きました。ここでは発言者をAさんとし、Aさんの言う「あの人」をBさんとします。
「Bさんは鳴物入りでうちの会社に入ってきて、実際に成果を上げていました。しかし、非常に厳しい人で、夜中でも日曜でもメールしてきて、返事を翌日にすると怒ります。ワーカホリックとしか思えませんが、常に仕事のことしか考えていないようです。あれだけ仕事して、部下にも同じやり方を求めるんですから、成果も上がりますよ」
とAさんは言いました。
そしてAさんは以下のように推測しました。
・人事部にパワハラを咎められたBさんが、会社にいられなくなった。
・Bさんは前の会社も3年くらいで辞めたらしいが、同じ理由ではないか。
・Bさんの力の源泉はパワハラだが、社会的に認められなくなってきたので、これからは成果を上げにくいだろう。
Aさんの言い分がすべて正しいわけではないとしても、パワハラを黙認しない会社は増えてきました。
部下が逃げ出す前に、上司が会社にいられなくなるケースは珍しいと思いますが、 「仲間と一緒にやれてるから仕事が楽しい」 と言える職場が、軍隊的な規律の職場より優位になっていく時代のようです。

2019年2月16日土曜日

休暇が増えたら何をしますか?『ISO通信』 2019年2月号 vol.32

働き方改革関連法案が成立し、年次有給休暇(以下、年休)の付与が義務付けられました。

本来、年休を取得できるのは労働者の権利で、使用者には時季変更権があります。
例えば、労働者が「権利を行使して、3月10日~13日まで年休を取得します」と宣言したら使用者は認める必要があります。しかし「すまない。決算期で忙しいから、25日以降にしてほしい」などと主張できるのが使用者の時季変更権です。

これに対して改正法が施行されると、年休を使っていない労働者に関しては、時季を指定して年休を取得させる義務が使用者側に生じます。
10日以上の年休を保有している人には、最低5日以上の年休を取得させる必要があり、義務を果たすことができないと罰則があります。

年休は法律によって定められている休暇で、正月休みやお盆休みは一般的な会社では法定休暇ではありません。このため、お盆休みや正月休みで年休を消化したことには出来ず、その他に年休を取得してもらう必要があります。(お盆休みや正月休みが計画年休になっている場合は別です。)

2011年の労働政策研究・研修機構の調査によると年休を1日も取得していない人が16%もいるそうです(取得日数が3日以内の人は32%)。年休取得率を見ると2011年が48.1%で2017年が49.4%なので、2011年の調査から大きな変化がないとすれば、16%の人は、休みが5日も増えることになります。


社員食堂の店長経験がある友人は「食堂のパートさんたちを5日も休ませたら、うちはつぶれるな」と言っていました。彼が勤めているのは、社員食堂の運営会社で食堂の現場はつねに人が足りない状態です。パートタイムで働く人が子どもの病気などで急に休むと、レジの人を調理場に回すなどして対応します。しかし、レジには行列ができ、そんなことが続くと客足が遠のいてしまうそうです。

「パートさんの数を増やせばいいんじゃないの」と言ってみると
「人手不足で採用できない。それどころか『これ以上忙しくなるのなら、辞めます』と言う人もいて、積極的に年休を取得しましょう、なんてとても言えない」とのことでした。

そのときの会話の続きを要約すると以下のようになります。
・時給を上げればパート社員を雇えるかもしれない。
・すると、既存のパートさんの時給も上げないと不満が爆発する。
・時給を上げると経営が赤字になる。
・値段を上げたり、コストダウンでボリュームを減らしたりすると、コンビニ弁当に客を奪われる。
・時給は上げられず、人も雇えない。その上、年休取得が義務になると、現場はさらに忙しくなる。
・年休取得義務の対象になるパートさんだけに年休を使わせるわけにもいかない。
・今までは「この日はシフトに入れません」と言われたら無給が当たり前だったが、義務化の対象でないパートさんも「有給扱いにして欲しい」と主張するかもしれない。

「シフトに入っていない人にも給料だすのはきついなあ。経営的にも、かなりヤバい。こんな法律誰がつくったんだー、俺も休んじゃうぞ」
と言ったあたりで、お互い、酔いどれオヤジに変貌しつつあったのですが、深刻な問題であるようです。

年休を取得した社員がリフレッシュして翌日からキビキビと働き、調理の時間を15分短縮できた。余った時間でお客さんの呼び込みを行った結果、食堂の売り上げも増えた。
ということになれば、生産性の向上を目指した法律の狙い通りですが、現実と理想のギャップを埋めることがマネージャーの仕事になりそうです。

2019年1月20日日曜日

失敗に費やした時間をどう評価する?『ISO通信』 2019年1月号 vol.31


16日の日経新聞に「科学技術史に残る医大な発見や発明は、間違いや失敗をきっかけに生まれた例がたくさんある」とありました。「失敗を許さない風潮が強まると驚くような成果が生まれにくくなるかもしれない」と記事は続きます。

1,000回の失敗経験がある研究者と100回の失敗経験しかない研究者では、前者の方が大発見につながる偶然と出会う可能性が高いのではないか、と考えたことがあります。
それを証明するような学説があるのだろうかと思ってWEBサイトを探してみると
「『失敗は成功のもと』は科学的に正しかった!」
という記事(↓)がありました。

この記事によると、マウスに迷路を走らせる実験をすると、初期段階で多くの失敗を経験したマウスの方が結果的に最短ルートを早く見つけることができるそうです。
研究者の場合、いつまでが初期段階かは分かりませんが、「この10年で1万回の失敗をしました。そろそろ大発見ができると思います」と言われても初期段階は過ぎてしまっているように感じます。



脱時間給制度は、働いた時間ではなく成果に応じて報酬を払う仕組で、研究開発は脱時間給制度の対象業務の一つになっています。「1回も失敗せずに大きな成果を上げる可能性もある」と考えれば脱時間給制度に適した職種と言えますが、若いうちにたくさんの失敗を経験する必要があるならば、時間に対して報酬を払うべきかもしれません。

「結局のところ、脱時間給制度は時間外手当を削減することが目的で、従業員を定額で何時間でも働かせることができる制度だ」と批判する人もいますが、仕事の原点は成果に対する報酬です。

・手塩にかけて育てたリンゴが、収穫前に台風で落ちてしまった。
・漁に出たけれど魚が一尾も採れなかった。
・一生懸命に作曲したけど、いい曲だと思ってくれる人がいない。
・タクシーを運転したけど、その日は誰も乗ってくれなかった。
上記のような場合、経営者や個人事業主なら報酬がないことに文句は言えません。一方で雇われている人の場合、働いた時間に対する報酬を要求することができます。

成果がなくても給料をもらえるのはサラリーマンの特権とも言えますが、そのせいで成果がないことに悔しさを感じない人もいます。また、大きな成果があっても自分の報酬が時給でしか計算されないのなら、仕事の楽しさが半減してしまうかもしれません。

悔しさや楽しさを強く感じるタイプの人は、成果を上げるために工夫しようと考えます。
脱時間給制度はサラリーマンに仕事の楽しさや悔しさを思い出させ、創意工夫を促す制度だと思うので、個人的は賛成です。しかし研究開発の仕事でさえ、成果と時間にはある程度の関係性があります。
チャレンジングな失敗や試行錯誤に苦労している若者がいたら、温かく見守ってあげたいものです。
「それは仕事じゃないよな。俺はそんな指示してないから、残業じゃないよな。できれば家でやってくれないか」
などと言ってしまったら、大発見やイノベーションとは無縁の会社になってしまうので注意しましょう。