2021年12月30日木曜日
「真剣なうなずき」のサインを見逃すな 『ISO通信』第66号(2021.12.30)
2021年11月27日土曜日
新卒一括採用が終身雇用の起点ではなくなってきた 『ISO通信』第65号
「ほとんどの社員が中途入社だったわが社も、ついに本格的な新卒採用を開始しました。一番の感想は、新卒を採って育てるのは、楽しい!ということです。もちろんコストはかかります。しかし『これがわが社の経営理念だ』、『ビジョンだ』、『理想社会の実現に向けて一緒に頑張ろう!』と言っていると起業した頃のことを思い出します」
これは、あるシステムインテグレーション企業の社長の言葉です。その社長は
「もっと早く新卒採用をしたかったのですが、知名度もなく、赤字が続いていた頃は無理でした」
とも言っていました。
この話はオンラインセミナーで聞いたのですが、質疑応答の時間があったので
「中途採用の場合でも、経営理念やビジョンを訴えることは重要だと思いますが、社会人には響きませんか」
と質問してみました。
「響く人もいます。そして響く人に来て欲しい。しかしその前に、中途採用の場合はスキルを見ています。例えば経理課長を採用したいとき、理念やビジョンに共感してもらっても、経理のスキルがイマイチだと採用はできません。スキルがあっても理念を共有できない人は採用しませんが、まずはスキルが先。大学生には、夢を語るところから入るので、そこは違いますね」
なるほど、久しく忘れていた感覚を思いだしました。私も大学生に対するリクルーティング活動をしていた時期があります。法学部や商学部の学生と会ったときに、法務や経理に対する適性がありそうか否かを気にしたことはありませんでした。その頃の私は営業部門に所属していて、人事部の先輩からは「一緒に働きたいと思えるかどうかを判断基準にすればいい」と言われていました。一緒に働きたいと感じる学生に出会うと自社のいい面を一生懸命にアピールします。一日に何人もの学生と面談して日が暮れると「あれっ?うちの会社って、そんなにすばらしい会社だったっけ」と同期入社の友人と会話しながら笑いました。
さて、経団連会長の定例記者会見(11月22日)のコメント要旨として、以下の言葉が掲載されていました。
「新卒一括採用や長期・終身雇用などを特徴とするメンバーシップ型雇用は、定めた方向に社内一丸となって目標達成を追求する時には非常に有効である。経済が一層グローバル化し、社会が変容している時代には、多様性や円滑な労働移動を可能にする雇用システムへの見直しが必要である。そうとは言え、ジョブ型雇用への完全転換が必要等と早計に結論づけるようなことは、それこそ多様性を認めない考え方である。メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用を適切に組み合わせる自社型雇用システムを検討していくことがよいと思う」
新卒一括採用は終身雇用の起点となっていて、メンバーシップ型雇用の特徴の一つでもありました。しかし、前述のシステムインテグレーション企業の社長は「新卒者が育ってくれたら、できれば定年まで働いて欲しいが、巣立っていくことも認めざるを得ない」と言っていました。
また、11月12日の日経産業新聞には「DeNAの南場会長は、粒ぞろいの宝石のような社員たちに起業を促し、長期的な関係を維持することが、DeNAの事業の幅を拡げると考えている」とありました。(「『社員よ起業せよ』DeNA南場氏のザクロ経営」より)
新卒一括採用と終身雇用は一体ではなくなりつつあり、これからは自分の会社を卒業した社員との関係を構築する「自社型の事業環境エコシステム」を作る必要もありあそうです。
2021年10月30日土曜日
二泊三日の面接ツアーに年休は必要? 『ISO通信』第64号(2021.10.30)
今回のストーリーは、実際にあった二つの事例を一つにまとめているので、下記の内容は事実に即していますが、脚色もあります。主に最初の事例をストーリーのベースにしていますが、最近二つ目の事例があったので、題材として取り上げました。
***
大阪に住んでいるAさんが、採用面接を受けるために東京にやってきました。
勤務先での仕事が忙しく、当初は「年休を取る余裕がまったくないので、できるだけオンラインで面接してもらえると助かります」と言っていました。
オンラインでの一次面接に合格したAさんに対して、求人企業(Y社)の人事マネージャーは「二次面接が一番重要なので、なんとか本社に来てもらえないでしょうか」と依頼しました。
そしてAさんは「分かりました。テレワークとフレックスの合わせ技でなんとかします」と答えました。
Aさんは以下の方法を考え、実行しました。
・Y社の近くのビジネスホテルを予約(木曜日と金曜日の二泊)。
・木曜日の朝から16:00まで自宅でテレワーク。それから東京に移動。
・移動の新幹線の中でテレワーク。ホテルにチェックインしてテレワーク。
・金曜日の朝から16:00までホテル内でテレワーク。
・金曜日の17:00からY社で面接を受ける。
・面接終了後、ホテルに戻って、またテレワーク。
・土曜日に大阪の自宅に帰る。
Aさんが勤務している会社のフレックス制度ではコアタイムは10:00~16:00に設定されているので、就業規則上の問題なく面接に対応してもらうことができました。
面接の翌日、Aさんと会話した際に以下のような発言がありました。
「朝も夜もテレワークで働いたので、同僚は私が東京にいるとは思っていないでしょう。今日はちょっと観光してから帰ります。ワーケーションって、こんな感じなのですかね」
もしもAさんの会社の人事部長がこの事実を知ったら「せっかく整えたテレワーク制度やフレックス制度を、他社の面接を受けるために利用されたのではたまらない」と思うでしょう。そして、端末の位置情報を利用して社員を監視しようと考えるかもしれません。しかし、人事部長が「勤務時間中は位置情報アプリをオンにすることをルールにします」と通達したら、転職したくなる社員はさらに増えてしまいます。
人事部から見れば、Aさんの事例はテレワーク制度の目的外利用ということになりますが、Aさんの立場からすると有効活用です。
そもそも、テレワークと転職活動の相性はよく、在宅勤務の時間中に、他社のWEB面接を受ける人は珍しくありません。そしてWEB面接だけで合否を決定する会社も増えてきました。
社員を監視して他社の面接を受けさせないようにするよりも「今の仕事に夢中なので、転職は考えていない」という社員を多くすることの方が人事部にとって重要な仕事になりそうです。
2021年9月23日木曜日
「会議で決まったこと」の責任者は決まっていますか? 『ISO通信』第63号(2021.9.23)
司馬遼太郎の小説『世に棲む日々』を読みました。文庫本で全四巻のボリュームがあり、前半の主人公は吉田松陰、後半の主人公は高杉晋作です。
幕末を描いた小説ですが、司馬遼太郎は物語の中で、日本人の民族的特徴について言及することも多く、第三巻の後半に「ヤクニン」というサブタイトルのついた節があります。
一部を引用してまとめると以下のようなことが書かれています。
“「ヤクニン」という日本語は、この当時、ローニン(攘夷浪士)という言葉ほどに国際語になっていた。役人というのは徳川封建制の特殊な風土から生まれた種族で、何事も自分の責任で決定したがらず「上司の命令であるから」といって明快な答えを回避し、あとはヤクニン特有の魚のような無表情になる。”
そして幕府に対して開国を迫る外国人から「上司とはだれか」と問い詰められると、その答えは「老中会議の面々」となるそうです。この節では、太平洋戦争についての記述もあり、もう少し引用すると
“日本国の存亡をかけた大戦でさえ、いったいだれが開戦のベルを押した実質的な責任者なのか、よくわからない。”
とあります。開戦時の首相だった東条英機は御前会議に出席する「上司」の一人にすぎない存在であり、煙のような存在の「会議」の決定で戦争が始まった、と司馬遼太郎は解説しています。
この節を読んで思い出したのが、東京都が築地市場を豊洲に移転した際に話題になったニュースです。移転先の豊洲で土壌汚染が発覚したため、土を入れ替えて盛り土する計画だったものが、豊洲市場の建物が完成してみると、盛り土ではなくコンクリートの地下空間があり、そこに水が溜まっていた、というニュースです。事実関係の詳細は忘れていましたが、あの当時(2016年)、盛り土するはずだった場所にコンクリートの地下空間が出来上がっているのに、その変更に関する意思決定の責任者が誰か分からないなんてことがあるのだろうか、と驚いたことはよく覚えています。
このニュースに関して「結局、責任者は判明したのだっけ?」と思ってWEBサイトを検索してみました。2016年11月に小池都知事は、都の関係者18名に責任があり、そのうち12名を処分した、と発表しています。(すでに都庁を退職していた6名は処分の対象外。)
うーむ…。「会議で決まったことであり、責任者は会議に関係した上司たちみんな」と言っているようで、幕末に開国を迫った外国人たちが「ニッポン人、ゼンゼン、カワッテマセンネー」と天国で笑っていそうです。
しかし都庁に限らず、民間企業においても、会議で決まったことの内容は明確だけど、だれが決めたのか、はっきりしないケースはあります。「誰かが決めたことでなく、会議で決まったことにしておいた方が、都合がいい」とみんなが思っていると、失敗したときに誰も責任をとらずにすみます。しかし、そんなことを続けていると、会社の業績はじわじわと悪くなっていきます。
事なかれ主義で漫然と仕事をしていると、魚のような顔の「ヤクニン」になってしまうので注意しましょう。
2021年8月29日日曜日
「逃げの転職」は早まらずに。 『ISO通信』第62号(2021.8.29)
「社長がワクチン接種を強制しようとしていますが、私はワクチンを打ちたくないと考えています。それで転職を考えるようになりました」
転職を考えている理由を質問すると、Aさんは上記のように答えました。Aさんはオーナー社長の下で働く中堅社員です。これまでは社長との関係も良好だったそうで、転職すべきか残るべきか悩んでいました。
厚生労働省は「ワクチンの接種は強制ではなく、あくまで本人の意思に基づいて受けるもの」と説明しています。
私自身は、ワクチン接種の推進がコロナ感染の収束に寄与すると考えていますが、打ちたくないと考える人の気持ちも理解できます。Aさんは逆に「私はワクチンを打ちたくないのですが、ワクチンで感染が収まると考える人の気持ちも理解できます」と言いました。そしてAさんは、「お互いの考え方を尊重し合えるなら、私も転職を考える必要がないのですが、社長はワクチン接種を強制しようとするのです。その理由は、お客さまに対して『わが社の社員は全員がワクチン接種をすませています。だからできるだけ、営業マンの訪問を許してやってください』と言いたいからだそうです。理屈としては分かりますが、ワクチンを打ちたくないと思う私の気持ちと折り合いがつかないのです」と続けました。
Aさんがワクチンを接種したくないと考える理由をブログに書くことについて「個人の特定につながらない書き方であれば」ということで許可をもらっていますので、もう少し事情を説明します。
「妻がワクチン接種を強く拒否していて、彼女の話を聞くうちに自分も打ちたくないと考えるようになりました。妻が示してくる『科学的根拠』について、最初はどうも怪しいと思っていました。しかし、妻の意見を無視すると家庭の平和を維持できないので、妻が根拠としている情報に目を通すようになりました。『ミイラ取りがミイラになる』じゃないですけど、やがて私もワクチンが怖くなってきたのです」
なるほど、そういうことはあるかもしれません。しかし一方で、Aさんは、社長の経営姿勢に関して、ワクチン接種を強制的に進めるような強引さが、これまでは会社の成長の原動力にもなってきたと評価しています。
Aさんと話をするうちに、本心としては会社に残りたい気持ちの方が強いと感じましたので、私は「無理に転職せず、社長に理解してもらう方法はありませんか」と聞いてみました。
答えの代わりに「エージェントさんからみて、私は転職しない方がいいと思いますか」
とAさんから逆に質問がきました。
転職には「攻めの転職」と「逃げの転職」があると私は考えていて、Aさんの場合は「逃げの転職」をせずともよい段階のように感じました。
攻めの転職は「もっと活躍するために、違う会社で勝負したい」などの気持ちが強いケースで、逃げの転職は「ここから逃げ出さないと心身の健康を守れない」と判断して職場を変える転職です。
ハラスメントが放置されている職場やコンプライアンス違反がまかり通る職場においては「逃げの転職」を決断する必要もあります。しかしAさんの場合は、社長と話し合うことでお互いが理解できる余地があるような気がしたので、それを伝えました。
後日、Aさんから「妥協点が見つかったので、今回は転職を控えることにしました。磯さんのビジネスとしては、時間の無駄だったかもしれず、申し訳ありません」と連絡がきました。このようなメールをもらったときは「いつか、Aさんが部下を探すことになったら、そのときにお手伝いさせて下さい」と返信しています。実際に、数年後に連絡をくれる人もいて、すべての仕事が無駄ではないと思っています。
どんな仕事でも短期的な利益を確保しつつ、長期的な視点も意識する必要があるのではないでしょうか。
2021年7月30日金曜日
「努力は嘘をつかない」と信じ続ける 『ISO通信』第61号
「神様っちゅうのはねぇ、がまんしてがまんして全部がまんした人にやっと一つだけご褒美をくれるんです」
大会後のドキュメント番組で語った言葉だと記憶しています。
4年間、我慢にがまんを重ね、やっと一つもらえるご褒美が金メダル。本当に重いメダルなのだと思います。
ロンドンとリオデジャネイロの大会では、ソフトボールは五輪競技から外れていました。北京大会からの13年間、上野選手はいろいろなことをがまんしてきたことでしょう。そうして二つ目の金メダルを手にしました。
オリンピックという舞台がないために、なかなか注目を集められないスポーツもあります。ゴルフがオリンピック種目入りすることが決まったとき、スカッシュの選手が発した言葉も印象に残っています。「ゴルフを選ばなくたっていいじゃない。ゴルフの人には輝ける舞台がいくらでもあるのだから」リオデジャネイロ大会の種目に、スカッシュが選ばれる可能性もありましたが、IOCの委員は、ゴルフと7人制ラグビーに投票しました。
私が長年にわたって親しんできた、フライングディスク競技の「アルティメット」もオリンピック種目入りを悲願としているので、スカッシュ選手の気持ちがよく分かります。
もう10年近く前のことで選手の名前は忘れましたが、国内のツアー選手権での順位が21位だった人の言葉です。
「私より努力している人が20人いるのです。そう思うしかありません。もしかすると私より努力している人は5人しかいなくて、後の15人は私よりゴルフの才能が豊かなだけかもしれません。でも、他人の才能をうらやんでもどうにもなりません。努力の量であと20人を抜き去ってチャンピオンになるか、諦めて引退するかの二択です」
シャツの背中には「努力は嘘をつかない!」とか「限界とは自分の心が決めるもの」などと書いてあり、真夏の太陽を背負いながら陸上部員たちが目の前を走っていました。
その大会は、インターハイの予選にもなっていた関東大会で、母校から出場している選手を陸上部の監督と一緒に応援していました。
「背中の文字が青春ですね、みんなかっこいいなあ」と私が監督に言うと
「努力は嘘をつかないって、最後まで信じられる人間が強いのですよね。磯さん、今でも信じてます?」
と質問されました。
そのとき私は「ハイっ」と元気に答えられたのか「いやぁ、大人になると純粋なままじゃ、いられないですよね」などと答えたのか忘れてしまいました。
それでも、アスリートが限界を超えようとしてプレーする姿を見ていると「他人の才能をうらやむよりも、自分にできる努力をするしかない」ことを思い出します。
2021年6月27日日曜日
まねして、学ぼう! 『ISO通信』 2021年6月号 vol.60
日本のIT企業に勤めている中国人の男性から転職相談を受けました。
「日本企業に3年も務めてしまったので、もう中国企業には戻れません。のんびりとした日本企業のスピード感になれてしまいました。中国企業ほどの給料は期待しませんので、日本企業を紹介して下さい」
続いて、別なエピソードです。こちらは日系メーカーが中国に設立した合弁会社に出向していた人から聞いた話です。
「DXに関しては中国の方が圧倒的に進んでいるので、日本に帰ってきて驚きました。中国のやり方をまねしなければいけない状態ですが、幹部は『中国ってそんなに進んでいるの? ITのことは若いものに任せる』くらいの認識なので、全然話が進みません」
と嘆いていました。
中国人からは「給料は安くても、のんびりした日本企業で働きたい」と言われ、日本人からは「幹部は中国のやり方をまねしようともしない」と言われました。
モノマネは日本企業の得意とするところ、と考え、中国企業からも学ぶ姿勢を強めてみてはどうでしょうか。
かつて日本企業は海外から輸入した自動車や家電製品を分解して、リバースエンジニアリングを行い、さらに優れた製品を世に出し、世界に冠たるメーカー王国となりました。
素人考えですが、ネットフリックスの仕組みをまねして、より便利なサービスを考えだし、いつかネットフリックスを逆転するようなことはできないでしょうか。
ネットフリックスのユーザー数は2021年1月の時点で2億人を突破しているようですが、世界には78億人もの人がいます。魅力的で便利な仕組みを作り上げているネットフリックスに対抗することはかなり困難だと思いますが、ビデオ通話の世界で圧倒的な存在感を示していたスカイプが現在ではほとんど利用されていないことを考えると、ネットフリックスも盤石とは言えないのではないでしょうか。
こんな話を、IT業界に詳しい人にぶつけてみたら「『No Rules』を読んだことがありますか」と質問されました。
あります。ネットフリックス創業者であるリード・ヘイスティングス氏が著した『No Rules』
この本には、最高の職場を作るためには「能力密度(talent density)」を高めることが重要であると書いてあります。日本語版では「能力密度」と訳されていますがtalent densityの方がしっくりきます。つまり、ネットフリックスには優れたタレントが密集している、ということです。そして本には「優秀な人材だけで組織をつくれば、社員に大きな自由を与えることができる」「世界最高レベルのスキルを持っている人に世界最高水準の報酬を払う」とも書いてあります。
『No Rules』を読んだことがありますか、と質問した人は「日本企業には世界最高水準の報酬を払って人材を集める発想がないので、ネットフリックスを逆転することは不可能に近いでしょう」と言いました。
確かにその通りだとも思うのですが、日本発の世界的なサービスが生み出されることを願ってやみません。
ネットフリックスの会社の仕組みやサービスシステムをまねしたり、中国企業からも学ぶ姿勢を持ったりすることで、日本の企業もまだまだ成長できるはずです。
「学ぶ」の語源は「真似ぶ」だとも言われています。真似して学んで、また追い越しましょう。競争したり、共創することで世界は少しずつよくなっていくと思います。
2021年5月29日土曜日
自分でコントロールできることにフォーカスしよう 『ISO通信』 2021年5月号 vol.59
「『ユーミンの都市伝説』が本当かウソか知りませんが、これはもう絶対に真似るべきです。優秀なクリエイターはどこにいてもネタを拾う努力をしています」
この言葉をテレビやラジオで聞いたのか、WEBサイトなどで読んだのか忘れてしまいましたが、久しぶりに実践の機会がありました。
『ユーミンの都市伝説』とは「ユーミン(松任谷由実さん)は、深夜のファミリーレストランで女子高生の会話にこっそり耳を傾け、それをヒントに作詞をしている」というもので、真偽のほどは存じません。
緊急事態宣言の期間中は、通勤電車に乗る機会も少ないのですが、先日、20代前半くらいの男性の会話が聞こえてきました。名前を知らない二人なので、AさんとBさんの会話形式で再現してみます。
A:デジタル庁の職員募集に、けっこう優秀な人が集まってるっぽいね。
B:えっ。デジタル庁ってもうあるんだっけ?
A:いや、まだ準備中だけど、人材募集してるよ。
B:優秀な人が集まってるの?
A:ツイッターで見てるだけなんだけど、こんな優秀な人が応募するんだって感じの人が結構いた。
B:ふーん。でも日本のITってダメダメってイメージあるよね。予防接種の予約とか。
A:いや、だからこそ伸びしろあると思わない?日本って、こんなにITが遅れてるのに、そこそこいい国じゃん。デジタル庁だけじゃないけど、ITが機能したら、もっと発展すると思うんだよね。
B: ふーん。デジタル庁に本気で期待してんの?
A:うーん、50パーくらい。
この会話を聞きながら、日本のことを「衰退途上国」と呼んでいる人のことを思い出しました。感染者の数を報告するのにFAXが使われていたり、感染予防ワクチンの接種が思うように進まなかったりする状況に、日本のことを「衰退途上国」と呼びたくなる人の気持ちも分かります。しかし「伸びしろのある国」と思っていた方が楽しく過ごせそうです。
さて、今回、電車の中で拾ったネタはこれだけの話ですが、在宅勤務でずっと家の中にいると、心の動きが緩慢になるように感じています。ここ数カ月は『ISO通信』を書くネタに困ることが多くなりました。以前は飲み会での友人との会話やセミナー会場で会った人との雑談などがなんらかのヒントになっていました。しかし最近は飲み会もなく、セミナーもオンライン形式ばかりで、隣り合って座った人と雑談するような機会もありません。そろそろ自粛モードを解除してアクティブに動きだしたいところですが、まだしばらくは我慢の時期でしょうか。
ワクチンの接種が進んでいる国の様子を見ると羨ましくなって、日本の状態にイライラすることもありますが、政府の対応を批判するより「伸びしろのある国」と思って待つ方が心は落ち着きます。
そういえば、先週のオンラインセミナーで「自分でコントロールできることにフォーカスしよう。コントロールできないことに悩んでも仕方がない」と教えてもらいました。
ワクチンの予約システム構築はデジタル庁に期待することにして、自分のやりたいことやコントロールできそうなことにフォーカスしょうと思います。
2021年4月25日日曜日
世界の社長さん909人に聞きました 『ISO通信』 2021年4月号 vol.58
見出しをつけるなら、こんな感じでしょうか。
日本生産性本部が3月に公表した「世界経営幹部意識調査」を興味深く読みました。
世界の経営幹部1,538名から得たアンケート回答のうち、日本生産性本部では、CEO 909人(うち日本人118人)の回答を抜粋し、日本、米国、ドイツのCEOの特徴を比較・分析しています。
https://www.jpc-net.jp/research/assets/pdf/c-suite-challenge202103.pdf
詳細は上記のサイトを見れば確認できますが、設問の一つに以下の質問と選択肢があります。
「2021年、貴社が経営課題を解決する上で障壁となるものはどれですか」
1)優秀な人材の不足
2)新型コロナウイルス感染症に関連した混乱
3)現行ビジネスモデルへのこだわり
4)革新的な組織文化の欠如
5)事業成長のためのデータの活用が不十分
6)変化を嫌う姿勢
7)データ分析スキルの欠如
8)不十分な組織内コミュニケーション
9)戦略的ビジョンの欠如
10)組織内の連携の欠如
11)多様性の欠如
12)ビジネスニーズを満たすためのリソースの制約
13)成果を公正に評価する能力の欠如
14)変化に抵抗する従業員
15)時代遅れのテクノロジー
16)変化に抵抗する中間管理職
17)縦割りの組織
18)従業員のエンゲージメント・レベルの低さ
19)戦略的ではない人事
20)規制
21)実情に合っていない報酬体系
22)短期的業績を重視するリソース配分
23)排他的な組織風土
この中から、最大五つまで選べるとしたら、どの項目を選びますか?
アメリカでもドイツでも「新型コロナウイルス感染症に関連した混乱」がトップであり、アメリカの経営者の62.5%、ドイツの経営者の60.5%がこの項目を選んでいます。
一方で、日本の経営者がこの項目を選択した割合は27.2%であり、欧米と比較するとコロナ禍が経営に与える影響は低いのかもしれません。
アメリカの経営者が、2番目に多く選んだ項目は「ビジネスニーズを満たすためのリソースの制約」の30.0%で、3番目が「時代遅れのテクノロジー」の27.5%でした。
一方で「時代遅れのテクノロジー」を選んだ日本の経営者は10.5%でした。個人的には、日本の経営者こそ「時代遅れのテクノロジー」について心配すべきではないかと思うのですが、アメリカの経営者の方がテクノロジーに対して敏感なのでしょう。
ドイツの経営者が2番目に多く選択した項目は「規制」の35.7%でした。規制を選んだアメリカの経営者は21.7%で、日本は7%です。日本の経営者は「規制」を所与の条件と考えて諦めてしまったのでしょうか。それとも「規制に守られている」と感じる経営者も多いのでしょうか。
ここに紹介した設問と選択肢に関して、実は1)から23)までの順番は日本人の経営者が選んだ順番です。
日本の経営者がトップに上げたのは「優秀な人材の不足」で32.5%でした。この項目はドイツでも3番目で34.1%です。しかし、アメリカでは9番目の14.2%でした。「優秀な人材の獲得」が上位に来ないところが、アメリカ企業の強みなのでしょう。
この他にもいろいろと興味深い設問と回答がたくさんありますので、是非、ご覧になって下さい。
2021年3月28日日曜日
相手の気持ちになってみよう 『ISO通信』 2021年3月号 vol.57
オリンピックの演出責任者が辞任したニュースを見て、久しぶりに中学時代の先生の言葉を思い出しました。
「頭髪の薄い人に向かって、ハゲと言ってはいけない。太った人にデブと言ってはいけない。背の低い人にチビと言ってはいけない。お前たちの中には、事実を言って何が悪い、と思うやつもいるだろうが、言われた方が嫌な気持ちになることを考えろ」と教えられました。
私はその言葉にちょっとした衝撃を受け、それ以来、気をつけるようになりました。
まあ、しかし所詮は中学生。先生がいないところでは、ハゲとかデブとか平気で言う生徒もたくさんいました。ガキ大将的な立場の同級生に「デブとか言うの、やめようよ」と言った結果、自分がイジメの対象になってしまったことがあります。
当時の私は“理不尽な世の中だ”と思ったのですが、今考えてみれば、ガキ大将をねじ伏せる腕力もないのに正論を吐けば、いじめられて当然とも思えます。
大人の世界も同じで、真面目に抗議してもいじめられるだけなので、「文春砲」でガキ大将をねじ伏せたのではないか、と勘ぐってしまいました。
しかし、単なる妄想の可能性もあるので、組織内のゴタゴタについて想像することはやめました。
さて、慕われているリーダーの中にも口の悪い人はいて、他人をおとしめるような発言をしても、許されてしまう人がいます。
数年前のことですが、某所でこんな会話がありました。
A氏「Yさんって、カッパみたいなハゲだよな」
B氏「でた!Aさんの毒舌!」
C氏「Aさん、ホント口が悪いよね。Yさんに伝わったら怒られるよ」
A氏「よし、わかった。今の発言は取り消す。ハゲじゃなくて、ゲーハー!」
ガハハ、と笑ってそれでおしまいです。
そのとき私はAさんに向かって「ハゲとか言うの、やめようよ」とは言いませんでした。近しい関係だったので、Aさんの発言を不快とは感じなかったのです。しかし不適切だとは思いました。でもAさんを注意できる立場でもない。Aさんは私からみて目上の人です。
今なら「そんなこと言うと、どこかに発言が流出して大変なことになりますよ」くらいのことは言えるかもしれません。
しかし本当は「発言が流出して自分の評価が落ちるから言わない」のではなく、人の容姿に対して失礼な発想をしないことが大切です。
「言われた方が嫌な気持ちになることを考えろ」と教えてくれた先生に感謝です。
2021年2月27日土曜日
中途採用比率の公表義務化で思うこと『ISO通信』 2021年2月号 vol.56
4月1日から、社員数が301人以上の企業においては、中途採用比率の公表が義務化されます。
「今年度の採用実績として、わが社では新卒採用が〇〇%、中途採用が〇〇%でした」
という情報をホームページなどで公表することが、法律上の義務となるわけです。
上記のこと(労働施策総合推進法の改正)を知ったとき、国が雇用の流動性を高めようとしている姿勢の一環だな、と感じました。
この法律で、採用比率の公表を義務化されているのは、常時雇用する労働者の人数が301人以上の企業です。法律の趣旨を説明する厚労省のサイトには、リクルートワークス研究所の「中途採用実態調査(2017年度実績)」による中途採用比率の数字がありました。
従業員数 : 中途採用比率 新卒採用比率
5~299人 : 76.7% 23.3%
300~999人 : 41.5% 58.5%
1,000~4,999人: 40.4% 59.6%
5,000人以上 : 37.4% 62.6%
職業紹介事業に従事しているので、
「大企業は新卒採用重視、小企業は新卒者の採用が困難、中堅企業は社員数が100人くらいまで増えると新卒採用に力を入れ始める」
といった傾向があることは知っていました。
しかし、300~999人までの企業の新卒採用比率が6割近いこと、そして5,000人以上の大企業においても同じような割合であることは意外でした。
社員の数が増えると、新卒者を採用する余裕ができます。企業規模が大きくなってくるとなぜ、新卒者を採用したくなるのでしょうか。
新卒採用を支援する企業に勤めている知人から「スタートアップ企業の事業が安定し始め、自社の企業カルチャーを確立したいと感じる時期がきたら、新卒採用を始めるべきだ」と聞いたことがあります。新卒者の場合、自身の職業的なスキルが「就活」の軸にはならないので、企業理念への共感で就職先を選ぶこともあるからだそうです。
なるほど、分かる気がします。ただ、別な見方をすれば、新卒者は自社カルチャーに染め上げやすい、とも言えます。共感すべき企業理念が消え去り、コンプライアンス違反を気にしない風土であっても、新卒者であれば「社会ってこんなものか」と思ってしまうかもしれません。
社会人経験がある人の場合、中途で入社した企業に遵法意識がないと分かったら、この会社にいてはまずい、と思ってすぐに転職活動を再開するケースもあります。
転職相談においては「その会社には、中途で入社した人はどれくらいいるのですか?」と質問されることはときどきあるので、中途採用比率の公表には意味があると思います。
厚労省のホームページでは、今回の法律改正について「中途採用に関する情報の公表を求めることにより、企業が長期的な安定雇用の機会を中途採用者にも提供している状況を明らかにし、中途採用を希望する労働者と企業のマッチングを促進します」と記載されています。
中途採用と新卒採用の比率がどれくらいだと、生産性がもっとも高まると言えるのかを知りたいところですが、どなたかご存じのかたがいたら教えて下さい。
(あるいは、4:6が黄金比率だから、300人以上の企業ではそれくらいの数字に収れんされてきたのでしょうか。)
2021年1月30日土曜日
カメラをオンにして質問力アップを! 『ISO通信』 2021年1月号 vol.55
「私のことは全然聞かれずに、私からの質問だけで面接が終了しました」 二次面接を終えたAさんから、電話で連絡がありました。 Aさんは、当社がZ社に推薦した方で、一次面接では非常に高い評価を得ていました。 「経歴書や一次面接でAさんのことよく理解できたので、二次面接ではAさんの質問に答える形にしたのだと思います。Aさんのことですから、鋭い質問ばかりだったことでしょう」 「鋭い質問だったかどうかは分かりませんが、会社の状態や今回のポジションの役割、私が何をすべきかなどを、よく理解できました」 Aさんとの電話で、Z社に対する志望度が高まっていることを感じました。 後日、Z社の人事部から連絡があり「是非、最終面接に進んでもらいたいと思います。二次面接では、Aさんからたくさんの質問を頂きましたが、こちらの課題を浮き彫りにするような質問ばかりで、自分ならどうするという意見もお持ちでした」とのことでした。
話は変わりますが、働き方の変革に関するオンラインセミナーに参加した際に、主催者側の設定で、閲覧者の「カメラはオフ・音声はミュート」になっていました。
100名以上の参加者がいたようで「カメラオフ・音声ミュート」はやむを得ないと思うのですが、セミナーというよりもYouTube映像を観ているような感覚になりました。質疑応答の時間もあったのですが、質問はチャットボックスに文字を書き込むスタイルで、私自身は質問せずに終わってしまいました。 会場に足を運んでのセミナーやカメラをオンにした状態のオンラインセミナーでは、わりと質問する方なのですが「カメラオフ・音声ミュート」と知って、緊張感を持たずに参加してしまったことが原因です。 上記とは別に、定例で参加しているオンラインセミナーが二つあるのですが、そこで話を聴くときは「カメラオン・音声ミュート」にしています。私のパソコン画面では、講話する人の顔が大きく、聴講者の顔は小さく映り、参加者全員の顔を見るには小さい方の画面をスクロールする必要があります。 講話者も聴講者も私の顔を注意して見ることはないと思いますが、カメラをオフにしているときと違って「居住まいを正す」気持ちが芽生えます。 そのような姿勢で話を聴いていると、質問したいことが自然に頭に浮かんで来るので、メモしておきます。とくに疑問を感じることがない場合でも、質疑応答の時間には、何か質問すべきことはないだろうかと考えるようにしています。陳腐な質問だと思えば、実際に手を挙げることはありませんが、常に質問する意識を持っていると質問する力も上がってきます。 質問力を高めておくと、Aさんの二次面接のような状況でなくても役立つ場面はたくさんあります。お客さまとの商談においても、鋭い質問力と課題を解決する力があれば、信頼できるパートナーと認めてもらえるでしょう。 他のことをしながら、オンラインセミナーや説明会に参加した形跡を残したいケースもあると思いますが、カメラを止めずに質問力アップを意識して、参加してはいかがでしょうか。