家族で間違い探しゲームの競争をすると妻が一番早く、最近は中1の長男に負けることもあります。小4の次男にはまだ負けませんが、いずれ私が最下位になる日がくるかもしれません。
妻はこの手のゲームに強い!(ということにしておこう。)そして、子供たちにはむしろ私を抜いてほしいと願うのですが、会社の同僚や後輩と同じことをして、いつも最下位だとしたら心中穏やかではありません。
間違い探しやパズルが仕事だとしたら、速い人は遅い人の1.5倍とか2倍のペースで同じ成果を上げるかもしれません。
例えば、80組のパズルを解くのにAさんは8時間、Bさんは12時間かかるとします。Bさんには残業代が支払われるので、年収が多いのはBさんということになると、Aさんのモチベーションは下がってしまうでしょう。
ホワイトカラーエグゼンプションという制度は、80組のパズルを解いた成果に対して賃金を払おうという考えかたで、AさんとBさんの収入は同じになります。この場合、Bさんには残業代が支払われなくなるので、この制度を成立させるための法案は「残業代ゼロ法案」とも呼ばれ、国会での審議は進みませんでした。
Bさんは頑張っても12時間かかってしまうのですが、本当は8時間で80組のパズルを解けるのに、あえて12時間かけて仕上げる人をCさんとします。
Cさんは8時間で80組のパズルを解くと40組の課題が追加されてしまうことを知っているので、わざとゆっくりやって残業代をもらっています。実際、Aさんには毎日120組のパズルが課題として与えられるようになっていて、Aさんもかなりしんどそうです。Cさんは途中でこっそり居眠りをしているので、12時間も会社にいるのですがAさんやBさんほどには疲れません。
一日の賃金を決めるとき、
時給1000円(時間給制度)と考えるのか、
10組1000円(成果給制度)と考えるのか。
時給なら全員が1万2000円になります。成果ならBさんとCさんは8000円で、Aさんだけが1万2000円。
「頭脳労働は成果給ですよね」と考える人は、ホワイトカラーエグゼンプションを残業代ゼロ法案とは呼ばず「脱時間給制度」と言います。
「脱時間給制度」でよいと思いますが、正しく運用することが難しい制度ではあります。Bさんに80組の課題を与えることは過労につながるので70組くらいにすべきでしょうか。AさんとCさんには90組の課題を8時間で解くように命じることが生産性の向上になるのでしょうか。
理想的なマネージャーなら、それぞれの能力に応じて適切な量の課題を与えることができるかもしれません。しかし、部下3名で360組のパズルを解かないと俺が出世できない、と考えて「死ぬ気でやれ」と命令するマネージャーは部下を自殺に追い込んでしまうかもしれません。
転職活動の相談では
「部下が過労で死んでも、名誉の戦死くらいにしか思わない上司なんで、転職するしかないと思いました」
と聞いたこともあります。
厚労省が電通を強制捜査したことで、多くの企業が労務管理の重要性を再認識しました。報酬を「時間」よりも「成果」にリンクさせる職種を増やすとしても、労働時間や社員の健康管理を怠っていいわけがありません。
ホワイトカラーエグゼンプションはあってもいいと思うのですが、マネージャーの管理能力の向上や労務管理体制を整えることを並行して行わないと、社員のモチベーションを落とすだけの結果になってしまうかもしれません。
一方で仕事を楽しんでいる人たちは、80組のパズルを解いた後に「もう少し歯ごたえのある問題を下さい」と自ら要求します。もちろん残業代が欲しいからではありません。
難問を解いたことにやりがいを感じる。
そんな風に働きたいものです。