南極の動物や自然をテーマにしたドキュメンタリー映画を観て、南極大陸の形を知らないことに気づきました。
そして地球儀をひっくり返してみると驚きの発見がありました。南極点に立つと右を見ても左を見ても、後ろも前もどの方向も北になるのです。
ひょっとすると、このことは教科書にも載っているような当たり前の事実で、自然科学を少し勉強した人にとっては驚きでもなんでもないのかもしれません。しかし私にとっては新たな発見でした。
話は変わりますが、私はかつて
「カーテン・ジャーペタの法則」
というものを発見したことがあります。
「カーテン・ジャーペタの法則」とは、
ビジネスホテルなどの小さなユニットバスの中で起こる現象で、シャワーをジャーっと勢いよく流すと、浴槽の内側に垂らしたビニール製の薄いカーテンが、お尻や太もものあたりにペタっとくっついてくる
(あの!)現象のことです。
20代後半の私は、出張でビジネスホテルに泊まることが多く、ユニットバスが小さくてカーテンが薄っぺらいときに、その現象が発生することに気づきました。
そしてある日、レジ袋を切って短冊状の薄くて細いカーテンのようなものを作り、自室のユニットバスで実験しました。シャワーの勢いが強いときほどレジ袋の短冊が水の方に吸い寄せられることが分かり、私はかなり興奮しました。
リンゴが落ちるのを見て万有引力の法則を発見したニュートンのようではないか、と。
リンゴの逸話の真偽はともかく、発見のヒントは身近なところにあるのだと思いました。そして流れ続ける液体には物体を引き寄せる引力のような力があるという仮説を立て、密かに
「カーテン・ジャーペタの法則」
と命名しました。
しかし、残念なことに文系人間の私はそこから先に進むことができません。理系の友人に協力を求めて、いずれその法則性や原理について解明したいと思うまま数年が経ってしまいました。
ある時、テレビのクイズ番組を見ていると滝の前にぶら下がっているビーチボールが映っていました。クレーンの先からぶら下がっているボールは固定されていて
「固定器具を外すとボールはどのような動きをするでしょうか」
と司会者が質問しました。
やがて、流れる滝に吸い寄せられるように動くボールの様子が映り、この現象は「ベルヌーイの定理」で説明できます、という解説がありました。
「うーん、『カーテン・ジャーペタの法則』のわけないよな。」
と思わず、つぶやいてしまいました。
カーテンが動く様子にヒントを得て実験や検証を行い、それがなぜ起こるのかを数理的に解明した人が「定理」や「法則」に自分の名前を付けることができるわけですね。
しかし「カーテン・ジャーペタの法則」ではなかったにしろ「カーテン・ジャーペタ現象」に気づいて実験し、ひとり興奮したことは苦い思い出ではありません。
エーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』という本に次のようなことが書いてありました。
「たとえそれが周知の事実であったとしても、自らの観察や考察によって気づいたことなら、それは独創的で斬新であるといえる」
(本の言葉を意訳して覚えておくことが多いので、フロムの言葉そのものではないと思います。)
斬新で独創的とまでは言えなくても、自分で気づいたアイディアには愛着が持てます。自分で考えたことを仕事に生かし、検証作業を進めているときは仕事も楽しくなります。
「くだらないことは、やるべきことを終えてからにしろ!」という雰囲気の職場では、アイディアを出そうという意欲がわきません。
経験豊富なマネージャーにとっては、斬新でもなんでもなく、むしろ失敗することが見えているような提案を部下がしてくることがあるかもしれません。
その失敗を認めて次のチャレンジを促すことができるマネージャーがいる職場なら、周りの人も独自のアイディアを出してみようと思うのではないでしょうか。