祭りが嫌いな人は担ぎ手にはならず、自らやりたいと思う人だけが手を挙げるので楽しそうなのだと思います。
あなたという御輿を担いでいる部下は楽しそうに仕事をしていますか?
仕事は祭りではないので楽しいことばかりではありません。しかし、担ぎたいのか、担がされているのかで、社員の働き方は大きく変わります。
私はソフトバンクの孫さんとお会いしたことはありませんが、孫さんの部下だった人とは何人か会ったことがあります。彼らは口々に「大変でしたけど勉強になったし、なにより仕事が面白かったです」と言いました。タイヘンの「タ」と「ヘ」にアクセントがおかれるので、相当大変だったのだろうと想像するのですが、表情に恨めしさや嫌悪の様子はなく、むしろ懐かしむ感じがありました。孫さんという御輿を担ぐ人たちは好きで担いでいたのだと思います。
イノベイティブで斬新な製品やサービスを産み出した企業が急激に成長することがあります。世の中に存在せず、みんなが欲しがる製品を開発すれば競合他社が同質の製品を出してくるまで売上はグングン伸びます。
このフェーズでは鬼軍曹タイプのトップが、“社員の尻を叩き、使えない社員を辞めさせ、また次の人を採用する”とい方針をとっても会社は成長します。
労働時間が長く離職率の高い企業はブラック企業のレッテルを貼られることになりますが、ベンチャー企業での仕事が激しくなることはやむを得ない面もあります。斬新な製品やサービスであっても、大企業にまねされ、宣伝力や販売力の差でねじ伏せられてしまうこともあるので、安定的な基盤を確保するまでは、徹底的に働くしかない時期がベンチャー企業には必ずあります。
苦しい時期を乗り越えるために、経営者は社員を叱咤激励しなければならないのですが、人を将棋の駒や歯車に過ぎないと考えている経営者には必ず限界が訪れます。私はある企業の人事責任者から
「候補者をだましてでも連れてくるのが、あなたの仕事でしょ」
と言われたことがあります。
その会社は斬新なサービスで急成長していましたが、離職率が高いことで有名な企業でした。人材ニーズは旺盛なのですが、人事責任者に「候補者をだましてでも」と言われてしまうと、求職者を紹介する気はなくなってしまいます。残念ながら、その会社の社長とは挨拶程度の会話しかしたことがなかったので、経営者の方針や考え方を確かめることはできませんでした。
社長のメッセージを人事が間違って受け止めてしまっているだけだったのかかもしれません。しかし、その会社の社員には歯を食いしばって働いているイメージが強く、遊び心から生まれるイノベーションが起きにくい会社だろうと感じました。
一方で、社員が楽しそうに働いているイメージの企業もあります。私が知っているところでは、前述のソフトバンクの他に、リクルート、サイバーエージェントなどがそれで、人事のかたに「社員のみなさんは楽しそうに働いていますか」と聞くと、偽りのない表情でにっこりと頷きます。
かつて重工長大産業に身をおいていた頃は、ITやエンターテイメント系の新興企業はチャラチャラしたお遊び企業だから、仕事が楽しいなんて言えるんじゃないの、と思っていました。
しかし、現職でいろいろな企業の人と話をするうちに、上司が夢を語れる人だと、部下が楽しく働いている傾向があると感じるようになりました。
夢を語る人の行動に一貫性がなかったり、筋が通っていなかったりすると、聞いている方はしらけてしまいます。
「20代の若造じゃないんだから、『夢』なんて語ってられないよ」
と思う人もいるかもしれませんが、あえて言葉にしてみてはいかがでしょうか。
「その夢を一緒に実現させましょう」とまでは言わなくても、楽しそうに御輿を担ぐ部下が増えるかもしれません。