2017年12月23日土曜日

「人生100年時代」を追いかけよう!(2017年12月号vol.18)

「キャリア60年時代」が近づいてきました。
100歳まで生きることが当たり前の時代が来れば、20代から80歳くらいまでが就労現役世代になるでしょう。

60歳定年が当たり前の頃は、50歳になると逃げ切りを考えるサラリーマンがたくさんいました。
「30年近く働いたのだから、後10年でうちの会社がなくなってしまうことはないだろう」
「後10年くらいは課長でいさせてくれるだろう」
50歳近くなると「逃げ切り派」のサラリーマンはそんな風に考えるようになります。
当然のことながら、チャレンジングな仕事をする気は起きず、ミスせずに怒られないように働けばOKという姿勢になります。そして、過去の経験則を頼りに保守的な選択しかしなくなります。

「過去の経験だけでは生き残れない大変革の時代にいるのです」
と経営者に言われても
「それを乗り越えるのがあなたの仕事でしょ」
と思っているので、行動パターンが大きく変わることはありません。
そして倒産や事業からの撤退によって、自分の仕事がなくなってしまう段階になって初めて慌てることになります。

と、偉そうに書いていますが、あと一年で50歳になる私も「この仕事で逃げ切れるだろうか」と思ってしまうことがあります。
人材紹介のビジネスモデルは、マッチングビジネスです。賃貸マンションを扱う不動産屋さん、結婚相手の紹介、企業売買のM&A仲介など、マッチングビジネスにもいろいろありますが、AIが進化するほど、人間の介在余地が少なくなっていくはずです。



結婚相手は人間に紹介してもらいと考える人もいれば、結婚相手こそAIのシミュレーションで最適と判断された人を選びたいと考える人もいます。
人間に紹介してもらった場合とAIに紹介してもらった場合の離婚率が統計的に示されるようになれば、AIを活用すべきか否かの結論が出るでしょう。
そして私は「たぶん、AIを活用した場合の方が離婚率は低くなるのだろうな」と考えています。

「しかし、人材紹介は違います。人材紹介の場合は、AIじゃなくて人間の仲介が絶対的に必要なんです!」

と力説したら、ただの我田引水になってしまいますね。
人材紹介の分野でもAIは既に大きな力を発揮し始めています。しかし、すべての仕事がAIに代替されるわけではなく、人間がやるべき仕事も必ず残ります。

「AIの波に飲み込まれてしまわないように、勉強したり創意工夫したりして、なんとかこの業界で生き残ろう。人間がやるべき仕事はどんどん減っていくが、それを任せてもらえる人間になろう」
と思っているのですが、ふと気づけばこれも「逃げ切り型」の思考かもしれません。

大学を卒業してから25年が経ちました。しかし、あと30年も働けると考えれば、まだ30代のような気持ちになることもできます。
そう考えるとリカレント教育(学ぶ→働く→知識が陳腐化する前に再び学ぶ→また働く、の繰り返し)の大切さを実感できます。
30歳の頃は、「明日、やろう」「また明日でもいいや」と思いながら過ごしたのですが、今は「ひょっとする残された時間はごく僅かかもしれない」と考えることもでき、先延ばし傾向は減ってきました。

我が社には60代の人も30代の人も転職相談にやってきます。
60代の人に「人生100年時代ですよね」と言うと明るく微笑んでもらえるのですが、30代前半の人には「正直言って、ピンときません。でも、やりたいことにたくさん挑戦できそうですね」と言われました。

それを聞いて
Boys, be ambitious.
という言葉を思い出しました。
人生100年時代は、少年期も長くなるのかもしれません。

私も気持ちだけ青年に戻って「逃げ切り派」から「追いかけ派」に移ろうと思います。

+++++

今年も『ISO通信』にお付き合いいただきまして、ありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。





2017年11月19日日曜日

「めんどくさい」と思ったときが「セレンディピティー」のチャンス!(2017年11月号vol.17)

広辞苑で

「セレンディピティー」

と調べてみると「思わぬものを偶然に発見する能力。幸運を招きよせる力(おとぎ話『セレンディプ〈セイロン〉の三王子』の主人公が持っていたことから)」とありました。

「ISO通信」のブログ化を準備しているとき、これもセレンディピティーかな、と感じる出来事がありました。

ブログを始める前に、既に『ISO通信』というタイトルが使われているかもしれないと思って調べてみました。
そして、国際標準規格に関するコンサルティングをしている人見さんという人が
「ISO通信」の名前でコラムを書いていることを知りました。

連絡先があったので「私も『ISO通信』というタイトルでブログを書こうと思っていますが、人見さんの方では商標登録などしていませんか」と質問してみました。するとすぐに「登録はしていませんし、磯さんがブログを開設しても問題ありません」と返事がきました。

最初に連絡した時は、返事が来ないかもしれないし、来たとしても否定的な内容だったらどうしよう、と思いました。
しかし人見さんからはすぐに返信があり、タイトルの使用も快諾してくれました。
人見さんは異業種交流会も主宰していて「一度、情報交換しませんか」というお誘いもありました。

人見さんのフルネームで検索してみると、私と同郷の栃木県北部の出身であり、しかも同学年の生まれであることが分かりました。

会って話してみると、人見さんの中学のときの友人が、私の高校時代のクラスメイトで大いに驚きました。そしてその時に「セレンディピティー」という言葉を思い出しました。



人見さんには著書があり、日経新聞が運営しているサイトに記事も書いています。
最近は情報セキュリティ分野のISOに関する問い合わせが多いそうなので、気になることがあったら人見隆之さんのホームページ( http://www.iso-mi.com/ )をご覧下さい。

人見さんに最初に連絡するときに「セレンディピティー」を意識したわけではありません。むしろ、めんどくさいことしなくてもいいかな、と思いました。しかしそのとき

「あ~、(ルールを)思い出しちゃった」

と心の中で言いました。

私は「面倒くさいからやめようか、それともやるべきか」と迷ったときは「やる」ことを選択するようにしています。これが本来のマイ・ルールです。しかしこのルールを都合よく忘れてしまうこともあります。忘れてしまった場合は諦めることにして

「本来のルールを思い出した場合は必ず実行する」

という第二のルールを作りました。

その結果「あ~、思い出しちゃった」と感じることがよくあります。しかしそのときに実行しておくと、後で楽になったり実を結んだりということがよくあるので
「仕方がない。思い出しちゃったから、やっておこう」
と考えられるようになりました。

そんな風に考えて行動することが「セレンディピティー」と呼ばれる幸運につながったらいいな、と思う打算のあるケースもありますが、
「めんどくさい」
と感じたら幸運のチャンスと思ってみてはいかがでしょうか。

2017年11月18日土曜日

自己紹介

・2010年5月にトランサーチ・ジャパン アソシエイツに入社し、人材紹介及び組織人事領域のコンサルティングに従事しています。

・世界の60都市で事業を展開しているトランサーチ グループは、エグゼクティブサーチの分野で世界のトップ10にランクされているサーチファームです。

・2024年8月 代表取締役社長に就任。

*近江商人の「三方よし」に習い、『転職者、採用企業、世間、自社』の「四方よし」をモットーとし、明日の元気につながる転職支援を心がけています。

【その他の経歴】
・1992年3月 上智大学 法学部 法律学科 卒業

・1992年4月 – 2008年5月
1992年に当時のNKK(日本鋼管株式会社)に入社し、官庁営業・人事・民間法人営業などを経験しました。
JFEホールディングス発足以降はJFEエンジニアリング株式会社に所属。

・2008年6月 – 2010年5月
スポーツライティングに挑戦し、いくつかの記事が雑誌やWEBサイトに掲載されました。
無謀な挑戦であることは自覚していましたが、この期間には多くの学びと気づきがあり、自身の職業観を確立することができました。

【このブログについて】
2016年7月に『ISO通信』というタイトルでメールマガジンの配信をスタートしました。
「バックナンバーを読めるブログはありますか」という問い合わせを頂き、2017年9月にブログを立ち上げ、過去の記事を掲載しました。

2017年11月16日木曜日

『ISO通信』2017年10月号 vol.16 について

ISO通信』は20167月にメールマガジン形式でスタートしました。
月に一度、メールマガジンを発行しております。

ある人から
「バックナンバーを読めるブログなどはありませんか?」
との連絡を頂き、ブログを開設しました。

201710月号は、ある大手メーカーの前社長のインタビュー記事をメールマガジンで配信しました。
ブログではなくメールマガジンとして配信することを前提にインタビューさせてもらったので、バックナンバーを掲載することは控えました。

メールマガジンの配信をご希望のかたは、下記のアドレスまでご連絡下さい。
k.iso.transearch@gmail.com


「結果重視」派と「プロセス重視」派 あなたはどちらですか? (2017年9月号vol.15)

「2008年と2009年はスポーツライターを名乗って活動していました。」

と、開き直って言えるようになってきたのは、わりと最近のことです。16年間務めた会社を辞めて、未経験の仕事を始めてしまったのですが、当然のようにほとんど無収入でした。

しかし、自分の認識としては無職ではなかったので
 ”『自称プロ』のスポーツライター”
ということになっています。
(よく聞かれるのですが、当時、子供は5歳と3歳で妻は専業主婦。よい大人はマネしないでね。)

収入的には空白の2年間ですが、私にとっては「働き方革命」の2年間になりました。「改革」というよりも「革命」です。
サラリーマン時代の私は「プロセスと結果ではプロセスを重視すべきである」と考えていました。しかし、フリーライターになってからは「結果がすべてである」に変わりました。
フリーランスの場合、どんなに頑張っても結果が伴わなければ、お金を稼ぐことはできないからです。

私は、減っていくばかりの預金残高を見て早く結果を出さなければ、と焦っていました。
「野菜の値段が上がっています」というニュースを聞いただけで、胃にチクチクとした痛みを感じたことをよく覚えています。

結果を出す方法を真剣に考え続けたのですが、やがて「結果につながるプロセスが最も重要である」と思うようになりました。フリーランスになる前の私は、頑張っている姿勢もプロセスの一部だと勘違いしていて「一生懸命やっているんだから、少しは評価して欲しい」と甘えていたことに気づきました。



水の入ったコップに塩を入れると、塩水が出来上がります。塩と砂糖を間違えてしまったら、出来上がるのは砂糖水です。
一生懸命に作業しても、出来上がったものが砂糖水だとしたら、プロセスが間違っていたことになります。この場合、一生懸命に砂糖を投入している姿勢を評価するわけにはいきません。

塩と砂糖ならすぐに分かりますが、仕事の場合、プロセスの過ちに気づかず、やみくもに頑張ってしまうこともあります。しかし、その姿勢を評価してもらいたいと思うのは間違いで、結果が出ていない理由を考えてプロセスを変える必要があります。

自分の意思でプロセスを変更するのが困難と思える仕事もあります。

例えばメーカーにおける技術開発と品質保証の仕事では、品質保証の方がプロセスの融通性がありません。製品の表面にキズがないかを目視確認する仕事や寸法にズレがないかを計測する仕事の場合、試行錯誤でプロセスを変更する余地は少ないと言えます。

仕事にマンネリを感じて転職を考える人もいますが、言われた通りにキズの有無をチェックしていました、というだけの経歴では採用面接でのポイントは高くなりません。
ある品質保証担当者から次のような話を聞いたことがあります。
「キズの目視確認を自動化することが工場の課題でした。自動化システムの構築は私の担当ではありませんでしたが、私なりに気づいた視点を開発担当者に伝えたことで、より良い自動化システムが出来上がったと思います」
その男性の提案内容は具体的で説得力があり、転職の面接でも評価されるだろうと感じました。

私の仕事にもプロセスの改善余地はたくさんあるのですが、日々のルーティンワークに追われ、気づくと夜になっている毎日です。

ISO通信』は、面談で接する優秀な方々の行動特性や思考パターンなどをお伝えすることが、誰かの役に立つかもしれないと思って始めましたが、「プロセス改善」のつもりでもあります。

(趣味で書いている駄文を勝手に送りつけているだけのような気もしますが、その点はご容赦頂き)
採用ニーズが発生したときや、転職を考えたときに

「あのエージェントに連絡してみよう」

と思いだして頂ければ幸いです。

2017年9月24日日曜日

就職なのか、就社なのか? (2017年8月号vol.14)

コンビニ、回転寿司、スーパー、メガネ店、家具屋さん…。

多店舗展開するチェーンストアはたくさんあります。チェーンストアを運営する会社の盛衰は激しく、昔は至るところにあったのに、いつの間にか見なくなってしまうチェーン店もたくさんあります。
逆に新興勢力のチェーンストアが次々と新しいお店をオープンし、比較的短い期間で世の中に認知されていくケースもあります。

チェーンストアの運営会社には「店舗開発」と呼ばれる仕事をする人がいて、新しい店を開く際の立地を決めたり、不動産のオーナーとビルの改造について話あったりします。
出店する場所を決める際には、どんな年齢層の人が住んでいるのか、集客力の強い他の施設が近くにあるか、店に入りやすい間口を設置できるか、などいろいろなことを検討します。

少し前に、店舗開発の「プロフェッショナル」を自負する男性と出会いました。(仮に、Tさんとします。)
Tさんは面談の冒頭で「転職回数が多くてびっくりしませんでしたか」と言いました。40代半ばの彼はすでに6社に勤めた経験があり、転職回数を気にする会社から見ると好ましいキャリアとは言えません。

「Tさんの場合、職場は変わっていますけど、職種は変わっていなんですよね」
私はTさんに言いました。Tさんはレストランや居酒屋など、外食業界でチェーン展開する企業において店舗開発の仕事をしています。新しいお店をどんどん出店しているうちは、Tさんは店舗開発の仕事で力を発揮できます。しかし、チェーン店の勢いが衰え、出店よりも閉店の方が多くなってくるとTさんは仕事に面白みを感じることができません。

そして勢いのある新興の企業が出てくると、そちらに移ってまた力を発揮します。
「正直言って、一つの会社に永住できるとは思っていないので、契約社員でも構いません。今の会社での仕事も減ってきているので、そろそろ次のことも考えておかないと、と思って相談にきました」
Tさんは言いました。普通の人は契約社員よりも正社員として採用されることを望みます。
しかしTさんは「出店計画がなくなったら、契約を更新しなくてもいいという条件にしておいた方が、会社側も雇いやすいと思います」と続けました。

Tさんとは逆に「職種」よりも「(ひとつの会社への)就社」を重視する人もいます。社内のジョブローテーションに従って異動していると職種に関してのプロフェッショナル性を高めることは難しくなりますが、社内のことを幅広く知ることができます。
大企業のプロパー社員の場合、店舗開発の仕事を10年続けた人が、経営企画部や総務部などに異動するケースもあります。
しかし、Tさんを社外から採用して、経営企画部に配置することはありえません。大企業の中で役員になろうと思ったら、異動命令に従って配属された部署で結果を出す必要があります。

「就職」よりも「就社」を重視して役員を目指すような働き方も、
出世ではなく自分の役割を全うする働き方も、どちらも正解だと思います。

  Tさんの場合、「出店」という成果を出し続けなければ、雇用契約を維持できません。
「就社」派の人も本来は会社の業績にコミットしなければならないのですが、職種によっては結果が見えにくい仕事もあります。
業績目標シートの作成や評価のフィードバックが形式的でマンネリだと感じたら、自分の雇用契約の維持にはどんな結果が必要なのかを想像してみてはいかがでしょうか。

言い出さなきゃよかった…と思った時期もあったけど(2017年7月号vol.13)

お祭り的なイベントを企画して無事に終了することができました。

「アルティメット」というスポーツと出会って30年になります。
アルティメットは、フライングディスク(商標の「フリスビー」が有名)を使って行う競技で、7人対7人のチームで競うフィールドスポーツです。
アメリカ発祥のこのスポーツは、次に米国でオリンピックが開催されるときには、新種目として採用されるかもしれない、とも言われていますが、その話はまた別な機会に。

明治大学のフライングディスクチームが40周年を迎えたことを記念して
「オール明治対オール上智で試合をしませんか」
と明治大学のOBに提案してみました。ちなみに、母校・上智大学のフライングディスクチームは、全日本選手権や学生選手権で優勝したこともある名門チームです。

“オール上智とオール明治で試合をしたら楽しいかもしれない”

思いつきとしてはいいように感じました。飲み会でその話をすると「いいじゃん」と言ってくれる人が何人かいて「その企画には興味がありません」と発言した人はいませんでした。
当たり前ですね。飲み会の席でそんなトゲのあることを言う必要はありません。

それなりの数の「いいんじゃん」という声だけが耳に届いたので、ちょっとその気になりました。「興味がない」という声が聞こえてくるのは、かなり後のことです。

言い出しっぺになったら準備がメンドクサイな、という気持ちが強く、しばらく忘れたふりをしていたのですが、あるとき「あの話、どうなったの?」と言われてやることにしました。アイディアを言葉にしたくせに結局なにもしない、ということがよくあったので、今回は行動してみようと思ったのです。


準備を始めて一番ドキドキしたことは、参加者が少なかったらどうしよう、ということでした。明治側は夕方から40周年の式典があるので、ある程度の人数は集まるだろうと聞いていました。
一方で、上智側の人数はまったく読めません。同世代の7~8人から参加の連絡があったのですが、後が続きませんでした。学生に動員をかければ、10人や20人は出してもらえると思っていましたが、強制はしたくないと考えていました。そもそも、学生との接点が少ないので、気軽に頼める相手もいません。

発案時に「いいじゃん」「やろうよ」と言ってくれていた人が、仕事や家庭の事情で参加できないことになり
“開催宣言を撤回してしまおうか”
と何度も思いました。

そんなときに学生のキャプテンから「全員(70人)で参加してもいいですか」とのメールが入ってきました。嬉しいと同時に「助かった」と思いました。
キャプテンが、面識のないオジサンOBの私に連絡してくるのは勇気がいったと思いますが、自発的に参加したいと言ってくれたのでとても嬉しくなりました。

やがて20代、30代のOBOGからも参加の連絡があり、当日は100人近い人数で試合を楽しむことができました。
(明治側は40~50人くらい。結果は11対12で惜敗でした。)

仕事が忙しいのに「職場で夏祭りをやりましょう」と言い出せば、準備と残業で帰宅時間が遅くなることは必至です。
お祭りではなく、新規事業の提案や業務プロセスの改革を言い出せば、結果を出すことも求められます。

言い出しっぺになるのは勇気のいることです。
「面倒くさいから黙っていよう」
「いい考えだと思うけど、提案するのは明日にしよう」
そんな風に思ってしまうこともよくあるのですが、実行してみると新鮮な発見がたくさんあります。また、思いもしなかった人が応援してくれたり、自分だけでは考えもつかない提案をもらったりと、言い出しっぺだけが経験できることもたくさんあります。

企画が失敗に終わるとショックも大きいのですが、お蔵入りしたアイディアからは何も生まれないので、行動してはいかがでしょうか。

あなたの労働力にお金を払ってくれるのはだれ?(2017年 6月号vol.12)

「社長のことを、私の労働力を買ってくれるお客様だと思っています」

ボス・マネジメントという考え方がありますが、ここまではっきり言う人に会ったのは初めてでした。

ボス・マネジメントとは、自分の仕事をスムーズに進めるために、うまく上司をコントロールすることで、上司から適切な指導や支援を受けることができれば仕事の成果は上がり、自分の成長も加速します。
上司を顧客と思って付き合うこともボス・マネジメントの一つだそうですが、普通のサラリーマンの場合、上司が直接、自分の労働力を買っているわけではありません。

今回は冒頭の発言の主をSさんと呼ぶことにします。Sさんはオーナー社長の参謀的な立場で働いている人で、上司が自分の労働力を買っていると実感しやすい立場にあります。

「物を買うときに、性能や機能ではなくて、自分が好きな方に高いお金を払うことってありますよね。経営者が労働力を買うときにもそれはあるのだと思います。好き嫌いで人事評価をしてはいけないことになっていますが、好き嫌いも評価の重要なポイントの一つだと認識していた方がいいと思います」



自分の労働力を高く買ってもらうために、経営者好みの働き方をする。
自分らしく働くことが大切にされる時代とは逆行するような考え方に見えますが、Sさんは上司をコントロールして、いつかトップの座に就くことを一つの目標にしていました。

「いずれ私も自分好みの労働力を買う立場になりたいと思っています。そうすればもっといい経営をする自信はあります」

Sさんは、オーナー社長の直下で働くなら、独裁的・独善的なリーダーシップをうまくフォローする必要があると考えていました。Sさんの上司である社長は、部下を激しく叱咤することも多いそうで、他の経営幹部が委縮してしまっている状態を「もったいない」と表現しました。
「私は社長が好む労働力を提供することを意識しているので、叱られる回数は少ない方です。他の幹部からは『太鼓持ち』に見えているかもしれませんが、部下からは信頼されている方だと思っています。私ごのみの労働力は、自分で考えて行動し、チャレンジングな失敗を成長の糧にできる力ですから」

Sさんは今の会社でも社長を目指しているのですが、オーナー社長が引退する時期を読めないため「小さな組織でもいいので、経営トップのポジションがあれば、転職も考えたい」ということでした。

強烈な個性を持っているオーナー社長や上司を部下の立場からコントロールすることは容易なことではありません。しかし思考を停止して上司の指示を待つだけになってしまったのでは、仕事はつまらなくなるばかりです。その上、指示された通りに動いたのに失敗すると叱られるという理不尽なことも起こります。

自分の労働力のエンドユーザーは顧客企業や一般消費者なので、上司だけを顧客であると考えると、ただのオベンチャラ社員になってしまいそうです。しかし上司との関係に悩んでいる人は、上司をわがままな顧客の一人と考えれば、ストレスが少しは減るかもしれません。
上司という顧客の満足度を高める手段が全面な従属とゴマすり以外にない場合は、異動願いを出すか転職を考えた方がよさそうです。

スイッチの入れ方を変えるだけで、大きな違いが? (2017年 5月号 vol.11)

先日、オフィスの移転があったので、書類を整理して不要なものを処分しました。必要最低限の書類整理は普段から行っていますが、後でやろうと思って積んでおいた資料がかなり溜まっていました。

新規開拓の営業をする際には新聞情報を参考にすることがあり、この記事はヒントになるな、と思ったときにはコピーをとっておきます。
具体的な提案をして新規開拓がうまくいくこともありますが、多くのコピーが積んだままになっていました。
もう少し時間があればなあ、と思うのですが、ルーティンワークに追われているうちに新聞記事のことを忘れてしまうことも多々あります。
新規開拓営業に関しては、多少はアクションしているので、コピーしたことを忘れてしまった資料があってもやむを得ないと自分を納得させることはできます。

しかし、今回の書類整理で気づいた一番のことは、完全に無駄になっている時間があるということでした。できるだけ多くの情報に接したいと思ってWEBサイトや業界新聞などを読み、必要な記事はコピーをとったりデータを保管したりしています。ところが引っ越しで書類整理をしたときに、新鮮に思えてしまった記事が結構ありました。
読んだ時に「後で熟読しよう」と思って記事を保管しているのですが、保管したことさえ忘れていた記事もあります。
それではまったく意味がありません。その瞬間で覚えてしまう気構えがなければダメなのだと痛感しました。そこで引っ越し以降は

「一発で覚える」

と念じてから資料を保管することにしました。もちろん現実にはそんなことはできません。しかし「一発で覚える」と念じたときと「コピーをとっておけば後で見られる」と思っているのでは大違いです。


「後(あと)とバケモノは出たことがない」
というのは一般に流布している格言なのか、私が育った地方限定の言葉なのか不明ですが、久しぶりに父の小言を思い出しました。

私の仕事の一つは、顧客企業に対して「○○さんには△△のスキルがあって、これだけの実績を残してきた人です」と伝えることです。そのために、事前の面談では過去の実績や経験を伺います。
ある会社の社長は、若手を採用するときにはポテンシャルを重視していて、それを探るために「大学受験の頃の様子も知りたい」と言いました。
面談のときに
「○○大学に現役で合格していますが、受験勉強もあまり苦にならなかった方ですか?」
などと私が聞くと、普通は “そんなことまで聞くのですか” という顔になります。
しかし、この仕事をしていると天才肌の人に会う機会もあり、ある人は
「覚えようと思ったことは、だいたい一発で覚えられます」
と、さらりと言いました。(しかも嫌みのない、さわやかな表情で!)

そのような才能の持ち主に出会うと羨ましくもありますが、ウキウキした気分にもなります。優秀な人が新たな職場で活躍することは社会が活性化することであり、自分の仕事も少しは役に立っていると思えるからです。

覚えるべきことを一発で記憶できてしまうような才能に恵まれている人は、ほんのひと握りです。私の場合「えーと、この前、一発で覚えようとしたことってなんだっけ」と思いながら、メモ帳を開いたりするのですが、後で覚えようと思っていたときより格段に記憶に定着するようになりました。
インプットの際のスイッチの入れ方を少し変えるだけで、成果に大きな違いが出ることもあるようです。

新鮮!ダイバーシティー的にはノンネイティブコースがおすすめです。(2017年4月号 vol.10)

セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ジンバブエ、ザンビア、エルサルバドル…。

世界一周旅行でもしなければ、これらの国の人と話す機会などないだろう、という国ばかりですが、最近は毎朝、セルビアやボスニア・ヘルツェゴビナの人と会話しています。フィリピン人と話す機会も多く、ジンバブエやコロンビア人が先生であるケースもあります。

オンライン英会話、始めました。

同僚の外国人は「お前の英語はなんとかなっているから心配するな」と言ってくれますが、話すことに関しては、大いに改善の余地があると感じています。そして、久しぶりに海外出張することになったので、オンライン英会話を試してみました。

ジンバブエの人に英語を習う日が来るとは想像したこともありませんでしたが、やってみると面白い。
ヒアリングよりも話す力の向上が目的なので、ネイティブの講師にはこだわりませんでした。
(英語ネイティブの人を講師に選べるコースよりも)ノンネイティブコースの方が安い!というのも理由ですが、アメリカ人やイギリス人と話す機会はたまにあるのでセルビア人やザンビア人と話してみたい、という好奇心もありました。

私が受講しているのは1日25分のコースで月々に払っているのは、5~6千円程度です。この値段から講師の時給を推定すると、300~400円くらいだと思いますが、ネット検索で調べてみるとセルビアの平均月収は4~5万円のようです。経済水準の格差が低価格のオンライン英会話システムを成立させています。


トーマス・フリードマンの言うように世界がフラット化していくのなら、同レベルのスキルを持つ英会話講師は国籍がどこであろうと同じ賃金になるはずですが、それにはもう少し時間がかかるかもしれません。
「フリードマンの予言は外れた。むしろ貧富の格差は広がり世界はデコボコ化している」という意見もありますが、私がジンバブエ人に英会話を習っているという現実は、世界がフラット化していく過程の末端現象だと思います。

さて、固い話は横において、オンライン英会話を有効活用するためには「生徒力」を高める必要があります。
「プロフィール写真をみて、若くて美人(orイケメン)の先生ばかり選んでいます」
という人の「生徒力」は低いはずです。

オンライン英会話では、パソコンの向こうにいる先生たちのプロフィールを見ながら受講する先生を決め、マンツーマンで会話します。思い立った15分後には授業を始めることもでき、かなり便利です。
(オッサンのさがで)最初の頃は「若くて美人の先生」に吸い寄せられていましたが、学生のアルバイト講師だと会話に深みがないので、ベテランの講師を選ぶようになりました。

「お気に入り」の先生としてブックマークをつけているセルビア人の男性は、すました表情で「それに関して、あなたはどう思う?」「どうしてそう考えるのか?」と次々に質問してきます。
思うように答えられず、苦しくなるのですが、会話の力は上がります。

受講後に、先生を評価する仕組みがあり、私はその先生の授業に最高点をインプットしました。この先生の評価点が低かったので、選ぶときに少し躊躇しました。しかし、この先生の評価が低いのは生徒の甘えであることに気づきました。

評価点の高い先生は生徒から選ばれやすく、より多くの授業を行うことができます。そのため、会話を楽しく盛り上げて、お客様である生徒に優しく接し、評価点を上げようとする傾向があるようです。

しかし会話は盛り上がったけど、話している時間より聴いている時間の方が長かった、というのでは力がつきません。
英語研修にオンライン英会話を利用している企業もたくさんあるようですが「生徒力」アップのための事前講習をしてはいかがでしょか。

*生徒力アップに興味のある方は、個別にご連絡ください。人材コンサルティングに関するお問い合わせもお待ちしております!

最強のサプリメント?(2017年3月号 vol.9)

とってもよく効くサプリメントを見つけました。たぶん、日本人の3割くらいの人にはてきめんの効果があると思います。

理由は後述しますが、ここではその商品の名前を書けません。なので、それをAと呼ぶことにします。
私がAを飲みはじめて7年くらいになりますが、飲み続けているときは体調がよく、少し休むとだるさや目の疲れを感じます。

Aは一粒30円ほどの値段で、一日に三粒飲むことが推奨されています。一日90円ですが、毎日飲むと年に3万円以上かかります。
「本当に効くの?」
と人に聞かれることはありません。それを飲んでいることをほとんど誰にも話したことがないので。

しかし、かつてはよく自問していました。「本当に効果があるのだろうか?」と。

そして一ヶ月ほど飲むことを止めてみました。するとどうも体調がよくないような気がします。年齢的に疲労を感じやすくなっただけかもしれませんが「Aをやめたからかもしれない」とも思いました。
そして再び飲み始めると体調がよくなりました。
「やっぱり効いている」
と思ったのですが、毎日飲んでいると普通の体調であることが当たり前になり、1年も経つと「ホントはどうなんだろう」とまたまた疑念が沸いてきます。

飲むことを止めた二度目には、しばらくして目の疲れを感じるようになりました。やっぱりAを止めたからかなあ、と思って再開すると症状が改善されたように感じます。

はっきり言って、気のせいです。
が、信じることにしました。「病は気から」「信じる者は救われる」という言葉もあります。

プラシーボ効果(偽薬効果)とは、医者から「膝の痛みに効くお薬ですよ」と言われてもらったものが本当はビタミン剤だったとしても、実際に膝の痛みが軽減する効果のことです。
「プラシーボ効果はすごい」という人もいれば「たいしたことがない」という意見もあります。
私が信じているのはサプリメントのAよりもプラシーボ効果の方なので商品名を伏せたわけですが、ついでにAのことも信じることにしました。その方が効果も高くなりそうです。

真偽のほどは分かりませんが「何歳になっても脳は成長する」という説を私は信じています。
プラシーボ効果とは別ですが、まだまだ成長すると思えば脳を鍛えようという気が起こります。しかし「そんなのウソだよな」と思っていたら、鍛える気にもなりません。

私は毎朝、通勤途中の信号待ちの時間などに「連続足し算」という脳トレをしています。連続足し算では、例えば6、7、4という数字を思い浮かべて、順番に足していきます。6、(6+7=)13、(13+4=)17、(17+6=)23、30、34という具合に、答えの数字だけをできるだけ早く頭に浮かべます。単純計算は脳の働きを活発化させ認知症の予防にもなるそうですが、効果を実感しづらいのが難点です。

しかし、現在のところ若年性認知症になっていないのは、脳トレのおかげかもしれない、とポジティブに考えて継続しようと思います。

筋トレ歴は30年以上ありますが、脳トレを始めてまだ数年です。筋トレ60年、脳トレ30年までいけるように、Aも続けてみようか。
(同じものを毎日飲み続けるのは体によくない?やや健康オタク的なところもあります。)

お御輿を担いだことありますか?(2017年2月号 vol.8)

お祭りで御輿を担いでいる人って楽しそうですよね。

祭りが嫌いな人は担ぎ手にはならず、自らやりたいと思う人だけが手を挙げるので楽しそうなのだと思います。

あなたという御輿を担いでいる部下は楽しそうに仕事をしていますか?

仕事は祭りではないので楽しいことばかりではありません。しかし、担ぎたいのか、担がされているのかで、社員の働き方は大きく変わります。

私はソフトバンクの孫さんとお会いしたことはありませんが、孫さんの部下だった人とは何人か会ったことがあります。彼らは口々に「大変でしたけど勉強になったし、なにより仕事が面白かったです」と言いました。タイヘンの「タ」と「ヘ」にアクセントがおかれるので、相当大変だったのだろうと想像するのですが、表情に恨めしさや嫌悪の様子はなく、むしろ懐かしむ感じがありました。孫さんという御輿を担ぐ人たちは好きで担いでいたのだと思います。

イノベイティブで斬新な製品やサービスを産み出した企業が急激に成長することがあります。世の中に存在せず、みんなが欲しがる製品を開発すれば競合他社が同質の製品を出してくるまで売上はグングン伸びます。
このフェーズでは鬼軍曹タイプのトップが、“社員の尻を叩き、使えない社員を辞めさせ、また次の人を採用する”とい方針をとっても会社は成長します。

労働時間が長く離職率の高い企業はブラック企業のレッテルを貼られることになりますが、ベンチャー企業での仕事が激しくなることはやむを得ない面もあります。斬新な製品やサービスであっても、大企業にまねされ、宣伝力や販売力の差でねじ伏せられてしまうこともあるので、安定的な基盤を確保するまでは、徹底的に働くしかない時期がベンチャー企業には必ずあります。

苦しい時期を乗り越えるために、経営者は社員を叱咤激励しなければならないのですが、人を将棋の駒や歯車に過ぎないと考えている経営者には必ず限界が訪れます。私はある企業の人事責任者から
「候補者をだましてでも連れてくるのが、あなたの仕事でしょ」
と言われたことがあります。

その会社は斬新なサービスで急成長していましたが、離職率が高いことで有名な企業でした。人材ニーズは旺盛なのですが、人事責任者に「候補者をだましてでも」と言われてしまうと、求職者を紹介する気はなくなってしまいます。残念ながら、その会社の社長とは挨拶程度の会話しかしたことがなかったので、経営者の方針や考え方を確かめることはできませんでした。

社長のメッセージを人事が間違って受け止めてしまっているだけだったのかかもしれません。しかし、その会社の社員には歯を食いしばって働いているイメージが強く、遊び心から生まれるイノベーションが起きにくい会社だろうと感じました。

一方で、社員が楽しそうに働いているイメージの企業もあります。私が知っているところでは、前述のソフトバンクの他に、リクルート、サイバーエージェントなどがそれで、人事のかたに「社員のみなさんは楽しそうに働いていますか」と聞くと、偽りのない表情でにっこりと頷きます。

かつて重工長大産業に身をおいていた頃は、ITやエンターテイメント系の新興企業はチャラチャラしたお遊び企業だから、仕事が楽しいなんて言えるんじゃないの、と思っていました。
しかし、現職でいろいろな企業の人と話をするうちに、上司が夢を語れる人だと、部下が楽しく働いている傾向があると感じるようになりました。

夢を語る人の行動に一貫性がなかったり、筋が通っていなかったりすると、聞いている方はしらけてしまいます。
「20代の若造じゃないんだから、『夢』なんて語ってられないよ」
と思う人もいるかもしれませんが、あえて言葉にしてみてはいかがでしょうか。
「その夢を一緒に実現させましょう」とまでは言わなくても、楽しそうに御輿を担ぐ部下が増えるかもしれません。

酉年生まれの年男です。「殻をやぶって、行動する1年にしよう!」(2017年1月号 vol.7)

忘年会や新年会などで、12月と1月は人と会う機会が増えます。

「ISO(イソ)通信、続いてんじゃん」
と言ってくれた人が何人かいました。

まだ半年なので「続いている」と胸を張って言えるような状況ではありません。そして「続いてんじゃん」と口語調で言ってくれる人には「うん、まあ一応」などと曖昧な返事しか出来ず、別な話題に移ってしまいました。
「ISO通信、続いてますね」と言ってくれた人には「読んでくれているんですか。ありがとうございます」と話題をつなぐことができるのですが、口語調で言われたときと反応が違うのは、その人と私との関係性の違いに起因しています。

「続いてんじゃん」と言ってくれたのは、学生時代からの友達で周囲には他の友人もいました。
『ISO通信』で書いている内容は、転職相談の仕事を通じて教えてもらったことや感じたことです。
成功している人の行動特性や思考パターンを紹介することが誰かの役に立つと思って書いているのですが、その飲み会で語るには暑苦しい話題であると感じて、「まあ、一応」と流してしまったわけです。

優秀で尊敬すべき人の行動特性や思考パターンを文章にして紹介すると、その内容が自分の頭の中に定着するという効果もあります。しかし実践や行動が伴わず、知っているだけでは意味がないと焦ることもあります。

仕事上の交流がある人には
「実践面ではまだまだですが、少しずつでも頑張ります」
と言うことができます。しかし学生時代からの友達に
「実際の行動は全然ダメなんだけど、少しずつでも頑張ってみるよ」
と言うのは「こっぱずかしい」と感じてしまいます。むしろ

「いやー、うちは小さな会社だから、『真面目に頑張ってます』的なことを自分で言わないと、すぐに淘汰されちゃうんだよ」

などと言ってしまうかもしれません。
そして「少しずつでも頑張ります」という自分も「すぐに淘汰されちゃうんだよ」と言い訳する自分も、どちらも本音であるということに気づきました。
         
会社や組織においても私と同じような気持ちを持っている人がいるかもしれません。
上司との個別面談や二人だけで飲んでいるときには、仕事に対する熱い思いや意欲を語るのに、同僚や後輩に対しては、クールに仕事をこなしているように見せたいと考える人もいるのではないでしょうか。例えば、社長に対しては「私も、いつか社長になりたいと思っています」と言うことはできても、同期の社員や先輩・後輩にそれを宣言するのは勇気のいることです。

最近は、社長や経営幹部を目指す人が減ってきているようですが、経営者の視点で考えないと仕事は楽しくなりません。
私は大企業に勤めていた頃、上司から次のように言われたことがあります。

「俺はなあ、社長にはなれなくても、社長の気持ちにはなれるんだよ。お前は社長の気持ちになって仕事をしたことがあるのか!」

それはかなり厳しい口調でした。当時の私は、自分の職責を果たすことについては一生懸命でしたが、社長の気持ちになったことはありませんでした。そもそも「仕事は楽しいものではなく、つらくても結果を出さなければいけないもの」と考えていました。

その後の心境の変化については、別の機会に触れたいと思いますが、情報発信してみるといろいろな反響があって、仕事を楽しいと感じる場面も増えてきました。

初めは小さなネットワークの中で発言することにも勇気がいります。

今でも、発信の場を拡大するたびに「えーい、ままよ」と言う古語を思い出しながら送信ボタンをクリックしていますが、これからも発信を続け行動の数も増やしたいと思っています。

殻を破りたがっているのに、はじめの一歩を踏み出せていない人が近くにいたら「誰でも最初はそうなんだよ」とお伝え下さい。

「脱時間給制度」なのか「残業代ゼロ制度」なのか(2016年12月号 vol.6)

右の絵と左の絵には七つの違いがあります。さて、どこでしょう?

家族で間違い探しゲームの競争をすると妻が一番早く、最近は中1の長男に負けることもあります。小4の次男にはまだ負けませんが、いずれ私が最下位になる日がくるかもしれません。
妻はこの手のゲームに強い!(ということにしておこう。)そして、子供たちにはむしろ私を抜いてほしいと願うのですが、会社の同僚や後輩と同じことをして、いつも最下位だとしたら心中穏やかではありません。

間違い探しやパズルが仕事だとしたら、速い人は遅い人の1.5倍とか2倍のペースで同じ成果を上げるかもしれません。
例えば、80組のパズルを解くのにAさんは8時間、Bさんは12時間かかるとします。Bさんには残業代が支払われるので、年収が多いのはBさんということになると、Aさんのモチベーションは下がってしまうでしょう。


ホワイトカラーエグゼンプションという制度は、80組のパズルを解いた成果に対して賃金を払おうという考えかたで、AさんとBさんの収入は同じになります。この場合、Bさんには残業代が支払われなくなるので、この制度を成立させるための法案は「残業代ゼロ法案」とも呼ばれ、国会での審議は進みませんでした。

Bさんは頑張っても12時間かかってしまうのですが、本当は8時間で80組のパズルを解けるのに、あえて12時間かけて仕上げる人をCさんとします。
Cさんは8時間で80組のパズルを解くと40組の課題が追加されてしまうことを知っているので、わざとゆっくりやって残業代をもらっています。実際、Aさんには毎日120組のパズルが課題として与えられるようになっていて、Aさんもかなりしんどそうです。Cさんは途中でこっそり居眠りをしているので、12時間も会社にいるのですがAさんやBさんほどには疲れません。

一日の賃金を決めるとき、
時給1000円(時間給制度)と考えるのか、
10組1000円(成果給制度)と考えるのか。

時給なら全員が1万2000円になります。成果ならBさんとCさんは8000円で、Aさんだけが1万2000円。
「頭脳労働は成果給ですよね」と考える人は、ホワイトカラーエグゼンプションを残業代ゼロ法案とは呼ばず「脱時間給制度」と言います。

「脱時間給制度」でよいと思いますが、正しく運用することが難しい制度ではあります。Bさんに80組の課題を与えることは過労につながるので70組くらいにすべきでしょうか。AさんとCさんには90組の課題を8時間で解くように命じることが生産性の向上になるのでしょうか。

理想的なマネージャーなら、それぞれの能力に応じて適切な量の課題を与えることができるかもしれません。しかし、部下3名で360組のパズルを解かないと俺が出世できない、と考えて「死ぬ気でやれ」と命令するマネージャーは部下を自殺に追い込んでしまうかもしれません。

転職活動の相談では
「部下が過労で死んでも、名誉の戦死くらいにしか思わない上司なんで、転職するしかないと思いました」
と聞いたこともあります。

厚労省が電通を強制捜査したことで、多くの企業が労務管理の重要性を再認識しました。報酬を「時間」よりも「成果」にリンクさせる職種を増やすとしても、労働時間や社員の健康管理を怠っていいわけがありません。

ホワイトカラーエグゼンプションはあってもいいと思うのですが、マネージャーの管理能力の向上や労務管理体制を整えることを並行して行わないと、社員のモチベーションを落とすだけの結果になってしまうかもしれません。

一方で仕事を楽しんでいる人たちは、80組のパズルを解いた後に「もう少し歯ごたえのある問題を下さい」と自ら要求します。もちろん残業代が欲しいからではありません。
難問を解いたことにやりがいを感じる。
そんな風に働きたいものです。

「個人業績」と「組織業績」、どちらを重視していますか?(2016年11月号 vol.5)

プロ野球の三浦大輔投手が引退しました。通算成績は172勝183敗。大洋ホエールズの時代からDeNAベイスターズまで横浜一筋25年。ずっと応援してきたので、最後の登板を現場で見られず残念。

野球に興味のない人に簡単に説明すると、横浜はとにかく弱い。1998年に38年ぶりの優勝をしてから早くも18年が経ち、毎年6月くらいになると最下位近辺の指定席に座るようになります。(でも今年は久しぶりに楽しめた。3位!)

もしも三浦が他の球団にいたら200勝していただろう、と言う人もて、横浜ファンとしてはちょっと微妙な気持ちになります。ある人が統計学的な手法で分析したところ、三浦が平均的な強さのチームにいたら、182勝173敗になるそうです。そしてピッチャーの評価は、打線の援護に大きく左右される勝ち星よりも防御率などのピッチャーとしての力の差が出やすい指標で行うべきではないか、ということが書かれていました。

前置きが長くなりましたが、今月は個人業績と組織業績の関係についてです。

まずは次のAかBを選んでみて下さい。
A チームとしての業績が悪くても個人の業績が顕著であれば、その個人は昇格すべきである。
B 個人の業績が顕著であってもチームとしての業績が悪ければ、他のチームから昇格者が出ることはやむを得ない。

これはわが社で使っているビジネスマインド診断ツールの質問項目の一つですが、この質問では多くの人がAを選びます。
年功序列ではなく実力で評価します、と会社が言うのなら個人としての実績を正しく評価してほしいという気持ちが表れているのだと思います。

しかし、現実の組織においては、チームの業績が高い部署から昇格者が出るケースが多いようです。チームを率いるトップは、当然のことながら自分のチームから昇格者を出したいと考えます。自分のチームが他のチームより結果を出したのに、他のチームの人が昇格したのでは、メンバーのモチベーションは上がりません。

「うちの部は、こんなに大きな利益を出したのに、どうして赤字を垂れ流している部の人間を昇格させようというのか」
利益を上げている部署の部長がこういったとき
「いや、我が部の山田(仮名)は、おたくの佐藤(仮名)より実力はあるし実績も上げている。山田を昇格させるべきだ」
と赤字を出した部の部長が言っても、山田さんと佐藤さんが、まったく同じ仕事をしているのでなければ、業績の差が数値で示されることはありません。

経営者や人事部は、昇格者を決定する会議では行司役となりますが、山田さんと佐藤さんの仕事ぶりをつぶさに見ているとは限らないので、正確なジャッジは難しくなります。

外資系企業や中小企業では、山田さんと佐藤さんのどちらに辞めてほしくないか、という視点で昇格者を決めるケースがあります。外資や中小企業にいる社員の場合、転職に対する心理的な抵抗が少ないため、正当に評価されていないと感じたり、満足度が低かったりすると別な企業に移ることも珍しくありません。経営幹部は「山田と佐藤のどちらに残って欲しいのか」を基準に昇格を決めることもあります。

大企業の場合、組織業績の差を理由に佐藤さんを昇格させたとしても
「山田が辞めることはないだろう」
と考えるのが一般的です。

誰をどのように評価するのかは人事の永遠の課題ですが、個人業績を評価してほしいと考える人(Aを選択する人)がかなり多いことに留意されてはいかがでしょうか。

※ビジネスマインド診断ツールの内容や回答傾向などについて気になった方は個別にご連絡下さい。(ちょっと宣伝 ☺ ☺ ☺)

「おはようございます!」で会社は変わる(2016年10月号 vol.4 )

♪包丁いっ~ぽん、さらしにまいて~♪

私が子供の頃、既に懐メロだったのでかなり古い歌ですが、プロフェッショナルスタイルで働いている人に会うと「包丁一本派」の人だな、と思うことがあります。腕の立つ板前は、愛用の包丁さえあればどこに行っても仕事に困らなくなりますが、ビジネスマンにもそういう人はいます。

例えば優秀な弁護士は、勤務先の事務所を変えることがあっても「転職」したとはみなされず、包丁の代わりに知識とスキルを磨いておけば、どこの法律事務所に行っても活躍することができます。

人事をしている人が会社を変えると一般的には転職したと言われますが
「僕は人事のプロなので職種に関しては転職したことはありません。役割が終わったら、職場は変えますけど」
と言った人がいました。その人は、ベンチャー企業が数百人規模に拡大するフェーズで人事制度を構築するのが得意で、自分が作った制度がうまく回り出して運用を監視するだけになると、退屈になって次の会社を探すというスタイルをとっていました。

プロ経営者と呼ばれる人もある意味においては「包丁一本派」であり、彼らにとっての包丁は企業を経営するスキルです。
「プロ経営者というのは渡り鳥でしかなく、短期的な視点で結果を出すことだけを考え、ダメならまた別な企業に行けばいいと思っているとんでもないやつらだ」と考える人もいます。
「まったくの異分野からやってきて業界のことも知らず、経営ができるわけがない」という意見はもっともだと感じます。
 転職を経験する前の私は、この二つの意見に概ね賛成していました。しかし、経営不振に陥った企業にメインバンクから送り込まれた銀行員が、倒産寸前だった企業を立て直すことができるのは何故なのだろう、と不思議に思っていたことも事実です。

  1980年代に危機的な状況に陥ったアサヒビールには、当時の住友銀行から樋口廣太郎氏が送り込まれました。樋口氏の書いた本には、入社時のアサヒビールにはスーパードライを生み出すための技術はあったが、職場に「おはよう」の声はなく、最初に取り組んだのは挨拶運動だった、と書いてありました。

 樋口氏は、エレベーターや廊下で社員に会うと自分から積極的に「おはよう」と声をかけたそうです。経営トップが挨拶運動の号令をかけることは簡単ですが、一人ひとりの社員に自分から声をかけるのは簡単ではありません。プロ経営者にとって、財務分析や戦略の立案ができることは必須のスキルですが、自分から「おはよう」と言えることも重要な資質の一つではないかと感じました。

 感情的に反発したくなる人に対しても、挨拶をするだけで決定的な対立を防ぐことはできます。逆に「おはよう」の一言もなければ、お互いが「挨拶もしてこないやつ」と感じて敵対関係は深まります。

 包丁さばきのようなプロフェッショナルとしてのテクニカルスキルを高めることも重要ですが、明るく元気に挨拶することなどのコミュニケーション能力を向上させることも非常に重要です。

 同僚の担当領域ですが、私の会社では一流のシェフを紹介して欲しいとの依頼を受けることもあります。採用試験の中に料理の実演もあるのですが、いくら料理の腕がよくてもコミュニケーション能力の不足を理由に不合格となることもあるそうです。
 そういえば私が「包丁一本派」だな、と感じる人もベースにはコミュニケーション能力の高さがあります。逆にテクニカルスキルが突出しているのに、職人肌の気難しい人には「もったいないな」と感じてしまいます。

 テクニカルスキルとコミュニケーション能力(ポータブルスキルと呼ばれるものの一つ)の両方を高めることが、サラリーマン生活のリスクヘッジにもなることを意識してはいかがでしょうか。

カーテン・ジャーペタ現象を体験したことがありますか?(2016年9月号 vol.3)

南極の動物や自然をテーマにしたドキュメンタリー映画を観て、南極大陸の形を知らないことに気づきました。

そして地球儀をひっくり返してみると驚きの発見がありました。南極点に立つと右を見ても左を見ても、後ろも前もどの方向も北になるのです。
ひょっとすると、このことは教科書にも載っているような当たり前の事実で、自然科学を少し勉強した人にとっては驚きでもなんでもないのかもしれません。しかし私にとっては新たな発見でした。

話は変わりますが、私はかつて

「カーテン・ジャーペタの法則」

というものを発見したことがあります。
「カーテン・ジャーペタの法則」とは、
ビジネスホテルなどの小さなユニットバスの中で起こる現象で、シャワーをジャーっと勢いよく流すと、浴槽の内側に垂らしたビニール製の薄いカーテンが、お尻や太もものあたりにペタっとくっついてくる
(あの!)現象のことです。

20代後半の私は、出張でビジネスホテルに泊まることが多く、ユニットバスが小さくてカーテンが薄っぺらいときに、その現象が発生することに気づきました。

そしてある日、レジ袋を切って短冊状の薄くて細いカーテンのようなものを作り、自室のユニットバスで実験しました。シャワーの勢いが強いときほどレジ袋の短冊が水の方に吸い寄せられることが分かり、私はかなり興奮しました。

リンゴが落ちるのを見て万有引力の法則を発見したニュートンのようではないか、と。

リンゴの逸話の真偽はともかく、発見のヒントは身近なところにあるのだと思いました。そして流れ続ける液体には物体を引き寄せる引力のような力があるという仮説を立て、密かに
「カーテン・ジャーペタの法則」
と命名しました。
しかし、残念なことに文系人間の私はそこから先に進むことができません。理系の友人に協力を求めて、いずれその法則性や原理について解明したいと思うまま数年が経ってしまいました。

ある時、テレビのクイズ番組を見ていると滝の前にぶら下がっているビーチボールが映っていました。クレーンの先からぶら下がっているボールは固定されていて
「固定器具を外すとボールはどのような動きをするでしょうか」
と司会者が質問しました。
やがて、流れる滝に吸い寄せられるように動くボールの様子が映り、この現象は「ベルヌーイの定理」で説明できます、という解説がありました。

「うーん、『カーテン・ジャーペタの法則』のわけないよな。」
と思わず、つぶやいてしまいました。
カーテンが動く様子にヒントを得て実験や検証を行い、それがなぜ起こるのかを数理的に解明した人が「定理」や「法則」に自分の名前を付けることができるわけですね。

しかし「カーテン・ジャーペタの法則」ではなかったにしろ「カーテン・ジャーペタ現象」に気づいて実験し、ひとり興奮したことは苦い思い出ではありません。

エーリッヒ・フロムの『自由からの逃走』という本に次のようなことが書いてありました。
「たとえそれが周知の事実であったとしても、自らの観察や考察によって気づいたことなら、それは独創的で斬新であるといえる」
(本の言葉を意訳して覚えておくことが多いので、フロムの言葉そのものではないと思います。)
斬新で独創的とまでは言えなくても、自分で気づいたアイディアには愛着が持てます。自分で考えたことを仕事に生かし、検証作業を進めているときは仕事も楽しくなります。

「くだらないことは、やるべきことを終えてからにしろ!」という雰囲気の職場では、アイディアを出そうという意欲がわきません。

経験豊富なマネージャーにとっては、斬新でもなんでもなく、むしろ失敗することが見えているような提案を部下がしてくることがあるかもしれません。
その失敗を認めて次のチャレンジを促すことができるマネージャーがいる職場なら、周りの人も独自のアイディアを出してみようと思うのではないでしょうか。

2017年9月18日月曜日

クーラー戦争が勃発していませんか?(2016年8月号 vol.2)

クーラー戦争とは、職場におけるクーラーの温度設定権を巡る争いのことです。クーラーの設定温度が26度のときに快適と感じる人もいれば、それでは寒いと思う人もいます。
ここでは仮に26度派と28度派の二つのグループがあるとします。部長と課長が26度派で次長と係長が28度派の場合、部長がいるときは26度になり次長以下だけが在席しているときは28度になります。

役職の序列と設定温度がサラリーマン的に分かりやすい関係になっているとき、「権限」と「パワー」の関係に乱れは生じていないと言えます。権限というのは組織から公式に与えられている力です。上司の業務命令に従う義務があるのは、上司が公式の権限を持っているからです。

一方で公式の権限とは別に存在する力を「パワー」と呼ぶことがあります。
例えばクーラーの設定温度に関して、部長が不在の時に次長が28度に切り替えたのに、課長が勝手に26度に戻してしまったとします。これは“仕事に関しては次長の命令に従うけどそれ以外のことは自由にやらせてもらうよ”という課長の意思表示です。この場合、パワーに関しては次長よりも課長の方が強いと言えます。

「おつぼね様」と呼ばれるような人がパワーを持っているケースもあり、飲み会の店に関してはお局様の意見が最優先されるという職場もあります。
ある人がパワーを持つに至った経緯は「面倒見がいい」「会議での発言がいつもするどい」「権限はなくてもリーダーシップを感じる」などのポジティブな原因であることもあれば、「声がでかい」「態度がでかい」「いつも不機嫌な人に気をつかっているうちになぜかそうなってしまった」というケースもあります。

不機嫌な人や威張っているだけの人がパワーを持ってしまうと、職場に冷たい空気が流れ始めます。マイナスオーラのパワーを持っている人は不満分子や気の弱い人を自分の側に引き入れて組織内での影響力を拡大しようとします。
そちらのグループに入ってしまうと本来の権限者のダジャレに愛想笑いしただけで睨まれてしまうこともあり、職場の雰囲気はさらに悪くなります。組織内のメンバーが無駄な話をせず、黙々と仕事をしている状態は効率がいいようにも思えますが、常に暗い雰囲気の職場では、それぞれの構成員が知らぬ間にストレスを受けています。そしてダジャレの一つも飛ばないような職場では、斬新で楽しいアイディアは生まれません。

パワーを持っている人が不機嫌に振る舞うのは、多くの場合、自分が正当に評価されていないと感じているからです。本来なら権限を与えられるべき実力があるのに「入社年次が遅いから」「女性だから」「上司のお気に入りじゃないから」などの理由で昇格できていないと考えると、クーラーの温度にまで気を遣っていられません、という気持ちになります。

もしあなたが権限とパワーの両方を持っているトップなら、クーラーはいつも快適な温度に設定され、飲み会の場所もあなた好みの会場が用意されているはずです。すると組織内のクーラー戦争に気づかず、職場がぎすぎすとした雰囲気になっていく過程を見落としてしまうかもしれません。

ある外資系企業のトップに話を聞いたとき、この人はパワーに関しては自分が一番下になるように設定しているのだな、と感じたことがあります。部下が快適と感じる温度にクーラーの温度を設定したり、飲み会では担当者や若手にビールを注ぎながら気軽に声をかけたりということができる人でした。
「社長の仕事で重要なのは決断することと、社員が気持ちよく働ける環境を作ることの二つです」
という言葉に十分な説得力がありました。

クーラーの温度なんてどうでもいいことのようにも感じますが、ちょっとした観察や気遣いで職場の雰囲気を大きく変えることもできるようです。

2017年9月10日日曜日

会社に洗脳される???(2016年7月号 vol.1)

「うちの会社は宗教みたいなもんなんで、洗脳される前に転職しないとまずいと思いました」
とAさんは言いました。

転職支援の面談では辞めようと考えている理由を必ず尋ねます。

そしてあるときAさんから冒頭のような理由を聞きました。
Aさんが勤めているのは中規模のオーナー系企業で、30年以上の歴史があるしっかりとした会社です。その会社の社員はボランティア活動で公園の掃除などもしていますが、それを“強制”と感じる社員もいれば、社会貢献の一つと思って嬉々として行っている人もいるそうです。

オーナーでもある社長はいつも「世のため、人のため」と言っていて、事業もボランティア活動も大切にしているのですが、ボランティア活動への積極的な参加が人事考課に影響するようになると社員にとっては仕事と同じになります。

カリスマと呼ばれるようなトップは、経営理念やヴィジョンを社内に浸透させる力も強く、トップの考え方に心酔している社員がたくさんいる企業は業績も上がります。Aさんの会社では職場の改善活動なども盛んで、社内のイベントで表彰されると報償金の他に会社のロゴマークがついたクリアファイルケースがもらえます。ロゴマークのついた備品は他にも配布されているのですが、通常はクリアケースを手に入れることはできません。それをもらって「レアもの、ゲット!」と喜ぶ社員もいて、そのときAさんは

「完全にいっちゃってるわ」

と思ったそうです。
宗教チックなコントロールをしようとする会社を嫌う人の気持ちもよく分かりますが、トヨタに勤めている友人は「うちにもそれに近い部分はあるよ」と言って次のように続けました。

「本社にいると、世界の中心が三河だと思ってしまうことがあるからね。『三河』っていうところがミソで、名古屋に出ただけで『世界の中心が三河のわけないよな』と気づくんだけど、本社にいると三河が世界の中心のように思えちゃうんだよね」

それを聞いたとき、トヨタ自動車の社員が三河を世界の中心だと考えるメンタリティーは「あり」だと感じました。

シリコンバレーが世界の中心だと考えるアップルの社員がいても、不思議ではありません。トヨタに勤める友人と「レア物、ゲット」と喜んだ社員には「愛社精神」的な部分では共通項があります。

「愛社精神」を会社が強要するとAさんのように逃げ出そうとする社員が出てくることになります。しかし経営者は、できるだけ多くの社員に愛社精神を持って欲しいと考えています。

愛社精神で社員を盲目にし、安い賃金でたくさん働かせようと考える会社はただのブラック企業です。しかし、社員が自然に愛社精神を持ってくれたなら、チームとしての力は高まります。一方、従業員の立場で考えると「愛社精神」はなくても、自分の仕事を好きになることは重要で、それがないと給料をもらうためにやらされているだけ、という状態になってしまいます。逆に仕事が好きになれば、創意工夫する意欲もわいて成果も上がるようになります。

どうすれば、自分の仕事を好きになれるのか。

答えの一つは、達成感を得られる仕事をすることです。
また、自分の責任に帰結する仕組みがあれば仕事に面白さを感じることができます。

成果を上げれば給料が増え、失敗すれば減給になる。報酬の増減は責任の取り方としては分かりやすいのですが、成果と報酬をリンクさせにくい職種もあります。例えば経理部門のスタッフが伝票の処理を正しく行ったというだけの理由で賞与が増えることはありません。

しかし、自分が処理した伝票の意味を知ることができれば「達成感」を得やすくなります。営業部員がお客さんを接待した際の領収書を処理するときに、その接待が必要な背景を質問したり、より効果的にもてなすために「こんなお店を使ったら、もっと喜んでもらえるのではないですか」と提案できたりすれば、機械的に伝票を処理するよりも仕事は楽しくなるはずです。

「いい店を教えてくれてありがとう。お客さんも喜んでいたよ」
その一言があれば、伝票処理にも達成感が出るはずです。
マネージャー以上の人なら、部下が達成感を得やすい仕組みを作ることで、職場を活性化できるのではないでしょうか。